1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

「アブない国」の行儀よき人々。W杯予選アウェイ席観戦で感じた中国サポーターのマナー向上と「中国がそれでもダメな理由」

文春オンライン / 2024年9月8日 11時10分

「アブない国」の行儀よき人々。W杯予選アウェイ席観戦で感じた中国サポーターのマナー向上と「中国がそれでもダメな理由」

最前線エリア以外でも、熱意にあふれた中国人多数。勝て、勝つんだ中国 ©︎安田峰俊

〈 「中国のチケットは高い。日本の方が安いんだ」W杯予選を“アウェイ席観戦”したら現代中国のリアルが見えてきた! 〉から続く

 9月5日におこなわれたサッカーW杯予選、日本vs中国。サッカーはさっぱりわからないが中国には詳しいルポライターの安田峰俊氏が、中国代表を応援するためにあえて埼玉スタジアム2002のアウェイ席で観戦した結末とは――。( 前編はこちら )

最序盤は頑張っていた

 さて、日本vs中国。サムライブルーと人民レッドの宿命の対決がいよいよ待望のキックオフだ。序盤は格上らしき日本が攻めの姿勢を見せたが、中国は必死の防戦で、果敢なクリアを連発して幾度もの危機を乗り越える。すごいぞ中国代表、善戦している。

 中国サポーターたちはピンチになるとスタジアムの最奥席まで総立ちになり、クリアに成功するたび歓声を上げた。前半6分には中国代表がちょっと攻勢にも出た。勝てる──、人民の反撃はこれからだ!

 

 だが、そう思っていたら前半12分に日本の遠藤とかいう選手がヘディングでゴールを決めた。聞いてないぞ。サッカー好きの王さん(前編参照)が「やばい」と恐れていた三笘と、久保の他にも上手な人がいるのか。でも、ここは気持ちを切り替えよう。中国側もたまに攻勢に出るときがないこともない。そんなときは中国サポーターも総立ちだ。まだいける。

 とはいえ、前半20分前後から中国側がかすかな攻勢すら見せなくなり、かわりにイエローカードばかりもらいはじめた。中国サポーターが立ち上がる頻度も減った気がする。

 いや、これも韜光養晦(能ある鷹は爪を隠す)である。一発逆転のカウンターで、中国5000年の底力を見せるのだ。起来、立ち上がれ人民――。あ、三笘がシュート決めて2-0になった。まあ三笘はやばいらしいからしょうがない。見なかったことにしよう。

 やがて前半が終了した。なんとハーフタイムの間に、わずか2点差にもかかわらず後ろの方の座席に座る10人ぐらいの中国サポたちがごそっと帰ったので、われわれは席を得た。根性無しの敗北主義者どもめ、もっと自国代表チームの勝利を信じろ。でも、私たちが座れるのでよしとしよう。

「中国代表は崩壊だあ!」

 さあ後半だ! せっかく座れたので持参の中国国旗を取り出すべしと、友人に頼むために横を向いたら、後半7分に南野とかいう人が決めて3-0になった。

 さらに多くの中国サポーターが静かに帰りはじめる。おいおい3点ビハインドごときでうろたえるなよ。中国人民14億人と比べたら3とか超小さい数じゃん──。あああっ、さらに後半12分にまた南野が4点目を叩き出した。誰か知らんけど南野やばい。三笘がどうこう以前に、日本代表ってメンバー全員やばいんじゃないのか。

 ふと前を見ると、いっそう大勢の中国サポーターが蜘蛛の子を散らすように撤退していた。守り続ける選手のみならずサポーターの集中力も限界らしい。私たちの前の席にいた、子どもがなぜか日本代表の久保のユニフォーム姿(父親に無理矢理連れてこられたらしい)の在日中国人の親子も、父が無言で子の手を引いて去っていく。待て親父、息子は日本代表を見たそうだから残ってやれよ。

 そして後半32分、日本代表の誰かが5点目のゴールを決めると、私たちの前にはもはや縦6列にわたって空席が広がっていた。士気の低下を憂えた龍之隊のコアメンバーが上段までやってきて、試合展開とは無関係に巨大な中国国旗を振りはじめたときは周囲がちょっと盛り上がったが、旗を見ているうちにまた失点した。6-0。もはやサッカーのスコアじゃない。

 ついに試合も大詰め、後半アディショナルタイム突入である。ちなみに昨年のWBCの中国代表は、侍ジャパンに1-8で負けた試合でもホームランを1本打って一矢を報いている。この日のサッカー中日戦、見ていると中国側のボール支配率が10%くらいに思えるが(注.実際は23%。発表元により差異あり)、最後に1ゴールくらいは……。ああああああああっ、久保が決めて7点目だ。そのまま試合が終わってしまった! 野球よりも弱いんじゃないのかサッカーの中国代表!

 高口さんが受け取ったWeChatの連絡によると、サッカーを愛する王さんも6失点目の時点で「中国代表は崩壊だあ!」と絶望の叫びを上げて撤収を決めたらしい。帰路、最寄りの駅まで徒歩17分もかかるのだが、漢服姿で歩きにくそうな奥さんとケンカにならないか心配である。

行儀がよかった2024年中国サポーター

 後の報道によると、7-0は中国代表の日本戦における過去最悪のスコアだったそうだ。中国のネット上では諦観の声とともにチームへの罵声が満ち、大変なことになっていたようである。中国は国策としてもサッカー代表のテコ入れに熱心だったはずなので、党と国家のメンツも丸潰れだ。

 もっともネットの騒ぎとは裏腹に、会場に試合終了まで残っていた中国サポーターたちは行儀がよかった。悲惨な結果にもかかわらず、物を投げる人も耳につくほどの罵声を浴びせる人もいない。さすがに終了後のゴミ拾いまではしないものの、座席や床も目視で確認する限りでは割ときれいだ。

 惨敗後にサポーターの前に整列した中国代表選手たちに、暖かく拍手を送っている。その後、日本代表チームが能登半島地震復興メッセージの「がんばろう能登」の横断幕を手に場内を歩いていた際も、拍手を送って祝福する中国人たちがすくなからずいた。

 チームがあそこまで弱いと、もはや一切衆生に慈悲を覚える菩薩の心境にならないと耐え抜けないのかもしれないが、さておきWBCのときに見たのと同じく優しい世界である。日本で観戦しているサポーターの「民度」だけなら、いまの中国のFIFA世界ランキングはチームの順位よりもずっと高いのではないか。

中国共産党中央宣伝部のセリフが……

 よくよく考えてみれば、中国人も気の毒な人たちである。習近平政権の下品で攻撃的な対外政策と、それを真に受けて海外派出所を作ったり靖国神社で放尿したりする一部のアホたちのせいで、いまや日本のみならず西側諸国の対中感情は最悪だ。もはや私ですら、中国を「アブない国」として認識しているくらいであり、一般の中国人が西側(先進国)相手のビジネスや旅行で気まずい思いをする場面は増えているはずだろう。

 社会が豊かになったことで、一昔前と比べれば極めて多くの人が行儀よく振る舞えるようになり、世界のどこでも違和感なく受け入れられる常識的な人も増えた。そのはずなのに、国家が「アブない国」であるせいで個々の中国人は以前よりずっと白眼視されているのだ。試合後の優しい雰囲気もあって、私は思わず同情的になってしまった――。

 ところが、帰宅後にSNSを見て苦笑した。

「中国共産党中央宣伝部は3つの言葉を残している! 完遂できない任務があると思うな、克服できない困難があるとは思うな、消し去れない敵がいるとは思うな、だ!」

 試合後、わざわざ抗日戦争当時の八路軍(人民解放軍の前身)の軍服姿で、拡声器を片手にそう演説していた人物がいたのだ(ちなみにこの演説は私も現場で耳にしたが、距離が遠くて内容や話者をしっかり観察していなかった)。

 立ち位置や拡声器の装備、周囲のすくなからぬサポーターが演説を聞いて支持を示していた様子、本人が「杭州から来た」と語っていることなどから考えて、おそらく中国大陸から直行してきた公式応援団、龍之隊のコアメンバーだろう。仮に彼が一般人だったとしても、この格好とこの演説の内容を静止せず、むしろ大喜びしていた人たちが龍之隊にはかなり多くいる。

中国サポーター評価、大暴落

 いまから20年前の2004年、中国サポーターは中国国内でおこなわれたアジア杯の際、抗日戦争のスローガンが書かれたグッズをスタジアムに持ち込み、日本に負けた後で暴動を起こしたことがある。

 現在の彼らの振る舞いは、当時と比べれば非常にマシになった。だが、マインドとしては大して変わらないものを持つ人たちが現在もなお応援団の中心に居座り、けっこうな数の人たちが賛同してもいるのである。

 ――おまえら、そういうとこやぞ。

 中国代表チームのみならず中国サポーターの評価もまた、やはり一部のアホのせいで、目下の北京や上海の不動産価格と同じく一気にダダ下がりなのであった。

 *

 本記事の著者の安田峰俊氏が「三国志やキングダムは好きなのに現代中国はイヤになった人に勧める」と語る新著、 『中国ぎらいのための中国史』 (PHP新書)は9月18日刊行です。

(安田 峰俊)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください