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森永卓郎(67)「投資にハマる人が“転落者”水原一平を笑えない理由」

文春オンライン / 2024年9月11日 11時0分

森永卓郎(67)「投資にハマる人が“転落者”水原一平を笑えない理由」

経済アナリストの森永卓郎氏 ©getty

 今年3月、大谷翔平選手の口座から26億円以上もの資金を奪って不正送金し、違法賭博につぎ込んでしまったことが露呈した、元通訳の水原一平氏。そんな彼を見て、経済アナリストの森永卓郎氏は「けっして特殊な人ではない」と喝破する。森永氏が語った、「水原一平」と「今、投資にのめり込む人」の共通点とは――。新刊『 投資依存症 』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

水原通訳はなぜ“転落”したのか

 大谷翔平選手の通訳を7年にわたって務め、大谷選手と親友のような人間関係を築いた水原一平氏による違法賭博事件は、世界中に大きな衝撃を与えた。

 それまでの水原容疑者の人生はまさに順風満帆だった。大谷選手の移籍にともなってドジャース入りしたあとの年俸は6000万円とも7000万円とも言われた。通訳として初めてアメリカのベースボールカードにも登場し、エンゼルス時代に発行された大谷選手とトラウト選手の直接対決のベースボールカードは、大谷選手、トラウト選手、水原通訳の3人だけにプレゼントされた希少カードで、売りに出せば3億円以上の値段がつくとも言われた。

 金銭面だけではない。水原通訳は、時には大谷選手より多くの声援を集めることさえあった。そうした何不自由のない人生のなかで、水原氏はなぜ、大谷翔平選手の口座から26億円以上もの資金を奪って不正送金し、違法賭博につぎ込んでしまったのか。

 米スポーツ専門チャンネルのESPNによると、水原氏は自身がギャンブル依存症であり、「泥沼にハマってしまい、抜け出すためにもっと大きな金額を賭け、雪だるま式に負け続けた」と話したという。

 ギャンブルで負けると、その分を取り戻せるだけの金額をまたギャンブルにつぎ込む。そこで負けるとさらに大きな金額をつぎ込む。やがて手持ちの資金が底をついてパンクする。これがギャンブル依存症のお決まりのパターンだ。

 十分な収入があるのだから、そこまでしてカネを稼ぐ必要はないのではと思われるかもしれないが、依存症の人は、必ずしもカネが欲しくてやっているのではない。スリルが忘れられなくなるのだ。

 人間が感じる快感には「安楽」と「快楽」という2つがある。

「安楽」というのは、何もかも満たされた快適な状態だ。

 ところが、「安楽」よりもはるかに強い快感をもたらすのが「快楽」なのだ。

 心理学に「ソルテッドナッツ・シンドローム」という言葉がある。塩をまぶしたナッツを食べていると、ほどよいところではやめられず、最後の一粒まで食べてしまう。それが「快楽」だからだ。

 ギャンブル依存症は、けっして特殊な人だけがかかる病気ではない。私はいま金融市場に参加する多くの人が「投資依存症」という名のギャンブル依存症になっていると考えている。

投資の本質はギャンブルと同じ

 しかも依存症にかかる人は確実に増えている。2024年1月に始まった新たな少額投資非課税制度(新NISA)をきっかけに、投資を始める個人の裾野が広がっているのだ。

 たとえば、ゼロ金利解除をきっかけとした現在の日銀の金融引き締め姿勢は、理論的に言えば、株価の下落と円高をもたらす。中長期的にはそうなるだろう。

 ところが、「快楽」に溺れた人たちはそうした変化を意に介さない。その結果、株価はさらに上がり、為替もさらに円安に向かった。

 ただ、順風は無限には続かない。問題は、相場が値下がりトレンドに転じたときだ。

 冷静に判断できる人は、そこで損切りをして手仕舞いする。ところが、投資依存症の人は、損失を取り返そうとさらなる資金をつぎ込んでしまう。「ナンピン買い」と呼ばれる行動だ。

 そうなると、資産の一部だけで安全に運用してきた人も、やがて全財産をつぎ込んで破産者になってしまう。過去のバブル崩壊で繰り返されてきた事態だ。

 つまり、本当の危機は、下げ相場に転じたときに起きるのだ。

 バブル崩壊の最後のババを引くのは、投資依存症の人たちになる。余計なことをしなければ、安らかな老後が待っているのに、なまじ快楽の味を覚えると、破滅への道を歩んでしまうのだ。

 残念ながら、投資依存症には治療薬がない。唯一の救出方法は、投資を断ち、依存症でひどい目に遭った人との丁寧なコミュニケーションを続けることだ。

 私はそれが本当の金融教育だと思うのだが、政府は「貯蓄から投資へ」という掛け声のもと、逆に投資を煽っている。

「投資とギャンブルは違うものだ」と考えている人は多いだろう。

 しかし、投資の本質はギャンブル以外の何ものでもない。

 老後の生活資金を、NISAを使って投資信託で運用しようとしている人は、老後の生活を賭けて競馬や競輪をやっているのと同じだ。投資の世界も競馬や競輪と同じで、結局はゼロサムゲームとなる。お金が自動的に増えていくということはありえないからだ。

〈 森永卓郎(67)「大企業の“下請けイジメ”がなくならない根本原因」 〉へ続く

(森永 卓郎/Webオリジナル(外部転載))

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