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「グレーゾーンと言えば察してくれると思った」三ツ矢雄二(69)が語った“意図せぬカミングアウト”の効果と“30年前の大失恋”

文春オンライン / 2024年9月21日 11時0分

「グレーゾーンと言えば察してくれると思った」三ツ矢雄二(69)が語った“意図せぬカミングアウト”の効果と“30年前の大失恋”

©橋本篤/文藝春秋

『タッチ』の上杉達也、『キテレツ大百科』のトンガリなど、数多くの役を演じてきた声優の三ツ矢雄二さん(69)。2017年にテレビ番組で「どちらかといえばゲイです」と話し、“カミングアウトだ!”と話題になった。

 しかし、三ツ矢さんはそれまでにも自身の性的指向を〈グレーゾーン〉と表現しており、「声優仲間はみんな知ってたから」と、カミングアウトした意識もなかったという。

 三ツ矢さんが声優を始めた1970年代に、ゲイであることをオープンにするのはどんな苦労があったのだろうか。当時の声優業界の雰囲気や、10年以上同棲した恋人との劇的な別れなどを聞いた。(全3本の1本目/ 2本目を読む )

◆◆◆

「『迎えに来る人は誰?』と聞かれたら『彼です』と普通に答えていました」

――三ツ矢さんは2017年、テレビでゲイであることをカミングアウトしたと話題になりました。それまでは、周りの人にも隠していたのですか。 

三ツ矢雄二さん(以下、三ツ矢) いえ、たぶん僕は物心ついたときから男性が好きで、小学校高学年の頃には自覚していましたが、それを隠したことは一度もないんです。だから、カミングアウトと言われても変な気持ちでした。

 僕、いわゆるカミングアウトって、これまでの人生で1回もしたことないんですよ。親にも。

――そうなんですか?

三ツ矢 大学時代に1年先輩の男性と付き合い始めて、ずっと同棲していたんですが、30代のときに彼を連れて帰省したことがあるんです。そのとき、彼が僕をあまりにかいがいしく世話するので、親もピンと来たんだと思います。

 あとで母親から「雄ちゃんは、結婚せんでええからね」と言われて。別に怒られも泣かれもしませんでした。小学校の演劇で僕がお姫様役をやった頃から、なんとなくわかってはいたんでしょうね。

――ではカミングアウトではなく、するっと。

三ツ矢 ええ。22歳で声優デビューしたあとは、彼がスタジオへ送迎してくれていたんです。僕から積極的に彼との関係を公表しなくても、周囲に「三ツ矢を迎えに来る人は誰?」と聞かれたら「彼です」と普通に答えていました。だから、スタッフや声優仲間は徐々に知っていったんだろうと思います。

――三ツ矢さんが声優デビューした1970年代は、まだ「同性愛者である」と世間にオープンしにくい時代だったのでは?

三ツ矢 僕はそれで嫌な思いをしたことは、一度もないんですよね。当時はゲイではなくホモと言ってましたが、周囲に「三ツ矢はホモだから……」のように言ってくる人は1人もいませんでした。人の本心はわからないけど、ちゃんと仕事していれば皆さんよくしてくれたし、飲み会にも必ず誘われていたので、仲間外れにされた記憶もまったくないです。

――それは意外です。

三ツ矢 自分で言うのもなんですが、僕は「明るく陽気な三ツ矢くん」だったんですよ。スタジオでもワーッて冗談言ったり、はしゃいで踊ったりして、先輩に「三ツ矢くんがいると面白いけど、ホコリが立つんだよ」と言われたくらい(笑)。だから、ペットのような感じで面白がってくれたのかもしれません。

――当時は、セクハラなども今よりキツかったのかと思っていました。

三ツ矢 もちろん、今なら完全にアウトなセクハラはいっぱいありましたよ。セクハラで有名だった声優Oさんには、「女の子のお尻もかわいい、三ツ矢くんのお尻もかわいい」とか言われて、「そう見られていたか……」みたいな(笑)。でも僕は、そういうのも嫌とは思わなかったんですよね。

――三ツ矢さんのコミュ力が高すぎます。

「三ツ矢はゲイだから、他の男性声優と違う感覚があって…」というカン違い

三ツ矢 ただ、ある人に「みんなが三ツ矢を認めているのは、おまえが仕事でちゃんと結果を残してるからだよ」と言われたのは、印象に残ってます。

 自画自賛だけど、若い頃の僕はまったくトチらなかったんですよ。それに僕は12歳から子役を始めて、舞台の世界でも蜷川幸雄さんなどから訓練を受けていたので、役者として「演じる」こと自体はわかっていた。だから新人声優だったけど、キャラクターによってすぐ演技を変えられたし、絵の口の動きに台詞を合わせるのも上手かったんです。それでスタッフに面白がられて、いろいろな作品で使ってもらえたんだと思います。

――三ツ矢さんは『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976年)の主役で声優デビューして以来、すぐに多くの作品で主演する売れっ子になっていますね。

三ツ矢 それはたぶん、ちょっとした“勘違い”もあったんだと思うんですよ。

――勘違い?

三ツ矢 僕が声優としてたくさん仕事ができたのは、周りのスタッフが「三ツ矢はゲイだから、他の男性声優と違う感覚があって、細かい芝居ができるだろう」と期待してくれたからだと思うんです。

 もちろん、ゲイの人全員が繊細なわけじゃないですよ。でも「そう期待されて僕にこの仕事が来たんだろうな」ということは、わりとありましたね。

――難しい役でも、三ツ矢さんならできるだろう、と?

三ツ矢 はい。「これは難役だろう」という仕事も結構ありましたけど、ちゃんと応えて結果を出したという自負はあります。

 昭和のアニメ作品にゲイキャラクターはまず登場しないので、僕は「ストレート(異性愛者)の男性」を演じることが圧倒的に多いわけです。でも、「声優・三ツ矢雄二」として高いクオリティの仕事をしていれば、僕のプライベートな部分は関係ない。周りが「三ツ矢雄二はゲイ」とわかったうえで、声優として評価してくれたんです。

あの時代にデビューしたからいろんな仕事ができた

――1970年代の声優業界は、想像以上に実力主義のフェアな世界だったんですね。

三ツ矢 でも、ときどき思うんですよ。僕はデビューがあと10年早くても遅くても、今の自分はなかっただろうと。

――どういうことでしょう?

三ツ矢 もし僕が今の時代に新人声優だったら、たぶんカミングアウトすると思います。でも、キャリアゼロの新人声優・三ツ矢雄二がゲイだと世間に広く知られたら、たとえば僕が「ストレートの二枚目モテモテ男子」役を演じたとき、視聴者の中には「あの声をやっている三ツ矢雄二はゲイなんだ……」と、余計なことを連想する人も出てきますよね。そうすると、作り手は僕を起用しにくくなってしまう。

 だから、1人のゲイとして生きるのは、昔より今のほうがすごく楽ですけど、声優のキャリアとしては違うものになっていた気がしますね。

――三ツ矢さんは「自分は〈グレーゾーン〉」と言っていましたが、2017年のテレビで意図せず「カミングアウト」したのは大丈夫でしたか?

三ツ矢 僕はずっと〈グレーゾーン〉のままでもよかったんですよ。ただ、ある番組で「三ツ矢さんは結局、ゲイなの? どっちなの?」と聞かれて、ウソはつけないから「どちらかといえばゲイです」と。それをマスコミに「三ツ矢雄二がカミングアウト!」と大げさに切り取られて。

 僕自身もその反響に驚いたし、昔から僕を知っている声優仲間には「今さらどうしたの?」と言われました(笑)。

――三ツ矢さんとしては、隠していたつもりも、カミングアウトしたつもりもなかった。

三ツ矢 〈グレーゾーン〉と言えば、みんな察してくれると思ってたんです。でも意外と、はっきり言わないとわからなかった人が多いみたいで。あの番組がきっかけで、一般の方々にも「三ツ矢雄二はゲイ」だと知れ渡ったので、「ああ、これは今後の声の仕事に影響するな」と思いました。

――どんな影響があったのでしょうか。

三ツ矢 ここ数年、声優としての仕事は「ストレートの役」が減り、「クセの強い、変態チックな面白い役」をもらうことが増えました。僕がゲイだと知られたから、そういう役をオファーされるんだろうと理解しています。でも、それはそれでよかったかな、と。

 ゲイであることは僕の個性だし、そのことを恥じる気持ちもないし、苦労したこともない。まぁ、ものすごく得したこともないけど(笑)。だからそのことで仕事的にどう扱われるかは、身を任せるしかないかなと思ってます。

彼は一度、女性と浮気をしたことがあった

――三ツ矢さんは現在、シングルだと公表されています。10年以上お付き合いしていた例の彼とは、その後どうなったのでしょうか。

三ツ矢 彼とはずっと一緒に住んでいたんですよ。ところが30代半ばになって、彼が「実は、女性と結婚しないといけない。おばあちゃんが『結婚式を見届けるまでは死ねない』と言っている」と言い出したんです。

 当時の僕は仕事が猛烈に忙しくて、彼をないがしろにしていました。だから彼は、寂しかったのかもしれません。

――彼はゲイだけど、それを隠して女性と結婚する、と?

三ツ矢 いや、たぶん彼はバイセクシュアルだったんですよ。この話は初めてするんですが、彼は一度、女性と浮気をしたことがあったんです。彼は隠し事ができないタイプで、話しているときに「この間、女性と……」と言い始めて。

――それはショックですね。

三ツ矢 僕は「ちょっと待って、聞きたくない! 浮気するのは自由だけど、僕にわからないようにして」と言って、そのときは終わったんです。

 でもよく考えると、10年以上付き合っていたので、僕の気持ちも「愛情」の愛が抜けて、情だけになっていたんですね。それに、世間的には結婚していておかしくない年齢だし、彼が結婚して普通の家庭を望むなら、送り出してあげることが、僕が受けた愛情の恩返しかなと。彼が幸せになるのを邪魔しちゃいけないと思ったんです。

 すると彼が、変なことを言い始めて。

――変なこととは?

三ツ矢 僕との関係は解消せず、結婚後も付き合いたいと。でも、それは結婚相手の女性に悪いでしょう? だから僕は「それはできない」と言いました。

 そしたら彼は「じゃあ、結婚相手の女性を選んでくれないか」と。

――それはビックリしますね。

三ツ矢 僕は一瞬「何を言ってるんだ?」と、意味がわかりませんでした。でも、それまでの彼は僕に本当に尽くしてくれたので、女性と知り合うチャンスもなかったんですよ。そこで考えてみたら、知り合いに性格的にも合いそうな女性がいたので、彼に紹介してみようかなと。

――それでも紹介はしたんですね。 

三ツ矢 そうなんです。彼とその女性を引き合わせたらすぐに意気投合して、2~3日後に「結婚します」と言われました。僕は「わかった」と答えて、彼との関係を終えたんです。

完全に断ち切らないと、彼は幸せな家庭を築けない

――怒涛の展開です。

三ツ矢 彼の結婚が決まったら、僕は急に、ものすごい喪失感に襲われたんですよ。「明るくて陽気な三ツ矢くん」で、友だちは多いほうなのに、やっぱり10年以上一緒に暮らした人と別れるとなったら、何かが抜け落ちたような気がして……そういう感覚は人生で初めてでした。

 でも、これも慣れなきゃいけないと気持ちを立て直していたら、彼からまた連絡が来て「結婚式の司会をやってほしい」と頼まれたんですよ。そこで僕は、本当にカッチーンときてしまって。

――どういう気持ちで司会すればいいのかわかりませんよね。

三ツ矢 たぶん彼は、僕との関係が完全に切れてしまうことに未練があったと思うんです。でもこうなったら、僕から完全に断ち切らないと、彼は幸せな家庭を築けないと思って。わざと酔っぱらって、電話で「もう二度と連絡するな」とかワーッとまくしたてて、ガチャンと切りました。それ以来、彼とは一度も会ってません。

――三ツ矢さんは引きずらなかったんですね。

三ツ矢 もちろん、彼の気持ちにつけこんでズルズル付き合い続けることもできたと思います。一瞬、それも考えたんですよ。でも、結婚後に彼が家庭を背負う姿や、子供ができて父親になった顔を見てしまったら、僕がすごくミジメな気持ちになりそうな気がして。だから、そこでスパッと切っちゃったんですよ。それでよかったと思っています。

――今のような同性婚という選択が、当時もしあれば……と思いますか?

三ツ矢 僕たちが20代の頃に同性婚のシステムがあったら、ひょっとしたら結婚していたかもしれませんね。うん……。でも今はもう、1人が楽ですね。

〈 「幕が開く前の客席が怖いくらい静かだった」三ツ矢雄二(69)が振り返る“テニミュ”第1回公演の恐怖体験 「ファンの女の子たちが『私たちの愛するテニプリ』をどんな舞台に、って…」 〉へ続く

(前島 環夏)

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