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「幕が開く前の客席が怖いくらい静かだった」三ツ矢雄二(69)が振り返る“テニミュ”第1回公演の恐怖体験 「ファンの女の子たちが『私たちの愛するテニプリ』をどんな舞台に、って…」

文春オンライン / 2024年9月21日 11時0分

「幕が開く前の客席が怖いくらい静かだった」三ツ矢雄二(69)が振り返る“テニミュ”第1回公演の恐怖体験 「ファンの女の子たちが『私たちの愛するテニプリ』をどんな舞台に、って…」

©橋本篤/文藝春秋

〈 「グレーゾーンと言えば察してくれると思った」三ツ矢雄二(69)が語った“意図せぬカミングアウト”の効果と“30年前の大失恋” 〉から続く

『タッチ』の上杉達也など多くの役を演じてきた声優の三ツ矢雄二さん(69)は、自分のことを「何でも屋です」と表現する。

『テニスの王子様』『マッシュル-MASHLE-』など、三ツ矢さんが2.5次元舞台に作詞した数は1000曲近い。また、日本初のBLボイスドラマといわれる『鼓ヶ淵』の脚本・主演も務めるなど、一大カルチャーに育ったジャンルの“親”ともいえる存在だ。

 ゲイというセクシュアリティと仕事の関係、そして1980~90年代エンタメ界の作り手としての思いを聞いた。(全3本の2本目/ 3本目を読む )

◆◆◆

――三ツ矢さんは1980年代に『タッチ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズなど声優として大活躍しましたが、中でも異色なのが、超売れっ子だった30代に『鼓ヶ淵』という〈耳で聴くBL〉に出演したことです。この『鼓ヶ淵』がBLボイスドラマの元祖というのは、本当ですか?

「はい、日本初の〈聴くBL〉をつくったのは僕です」

三ツ矢雄二さん(以下、三ツ矢) はい、日本初の〈聴くBL〉をつくったのは僕です。当時、『JUNE(ジュネ)』という女性向けの男性同性愛専門誌があったんですよ。まだBLという言葉はなく「やおい」や「お耽美」と言われていて、若かった頃の僕は美少年で売っていたので(笑)、『JUNE』から取材依頼が来たんです。

――今もですが、当時の三ツ矢さんはすごくナイーブな美少年という雰囲気です。

三ツ矢 その『JUNE』の取材中、編集長の佐川俊彦さんから「こんな小説が出るから読んでみて」と渡されたのが、『鼓ヶ淵』の原作でした。彼が「今度これを音声ドラマにしたいんだ」と言うので「面白いですね」と答えたら、「三ツ矢さんにぜひ、脚本を書いてほしい」と頼まれて。

 で、脚本を書いたら、今度は「声優として出演してほしい」と頼まれて「わかりました、やります」と。それが、音声をカセットテープに録音した〈カセットJUNE〉というシリーズです。ドラマCDや配信ボイスドラマの元祖ですね。

――『鼓ヶ淵』で、三ツ矢さんの相手役は鈴置洋孝さん(声優。代表作に『機動戦士ガンダム』のブライト・ノア役など。2006年没)ですが、お2人とも当時すでに大人気声優ですよね。その2人が同性愛作品の声をあてるというのは、声優ファンも騒然となったのでは。

三ツ矢 鈴置さんをキャスティングしたのは製作会社ですが、とても画期的だったと思います。僕から彼に直接「今度『鼓ヶ淵』に出てよ」とお願いして、「わかった」というやりとりもあったので、彼はオファーを受けてくれたのかもしれません。

――収録はどんな雰囲気だったのでしょう?

三ツ矢 『鼓ヶ淵』は、収録してみたら結構大変だったんですよ。僕と鈴置さんがカップルで、ベッドシーンも声と息遣いだけで表現しなきゃいけないでしょう。

――今でこそBL作品はあふれていますが、当時は参考にする先行作品もなかったんですよね。

「鈴置が訳のわからない息遣いを入れてくるんですよ(笑)」

三ツ矢 そうなんです。だから、制作側も男同士のベッドシーンがどういうものかよくわかってなくて、「三ツ矢ならわかるだろう」と思われた可能性は否めません(笑)。

 鈴置も「おい三ツ矢、どうすればいいんだ?」と言うから、「女の人とするつもりで、普通にやればいいんじゃない?」と答えたんです。それで本番を録り始めたら、横にいる鈴置が「ぅうゔぅん、うぅん!!」みたいな、訳のわからない息遣いを入れてくるんですよ(笑)。

――何をしている声なんでしょう……(笑)。

三ツ矢 僕はウケの役だったんですが、「おいおい今、何されたんだ⁉」と戸惑いながら演技したのは、今も覚えてます。「鈴置って、普段もそんな感じなの?」みたいな(笑)。でも、新しいものをつくってるんだという手ごたえがあったし、楽しかったですね。

――この時代に「同性愛者役」の仕事を受けるのは、イメージダウンになるかも……という心配はありませんでしたか?

三ツ矢 自分がゲイかどうかはさておき、そういう不安はなかったです。耳で聴くドラマって、戦後からラジオドラマはずっとありましたが、1980年代は急に減ったんですよ。だから代わりに、こういうボイスドラマがあってもいいかなと。

 それに「BL=エロ」と曲解されがちですが、『鼓ヶ淵』は最初から最後までセックスしてるわけじゃないんですよ。話の流れの中にベッドシーンがあるだけで。だから恥じるところはないし、この〈カセットJUNE〉シリーズはすべて、三ツ矢雄二の名前で出演しています。

――では『鼓ヶ淵』の脚本で「花枕桃次」という別名を使っているのは、理由があったのですか?

三ツ矢 これは『鼓ヶ淵』の少し前、戸田恵子さんたちとミュージカルをやったときに作詞家として使った名前なんです。脚本家は裏方だから、別の名前がいいかなと思った名残ですね。

 それにしてもあの頃は、BLがこんな大ブームになるとは思いませんでした。

――三ツ矢さんは30代から40代にかけて、超売れっ子声優でありながら演劇雑誌の編集長になったり、アニメの音響監督をしたり、舞台の演出や脚本を手掛けています。そういったキャリアの積み重ねには、何か狙いがあったのですか?

三ツ矢 実は『鼓ヶ淵』も含めて、声優以外に自分から「やりたい」と言った仕事はひとつもなく、すべて「頼まれたから」なんです。

 初めて音響監督をやったのも、『るろうに剣心』(1996)がアニメになるときにプロデューサーから主役のキャスティングを相談されたのがきっかけ。僕はそのとき、宝塚を辞めたばかりの涼風真世さんの名前を挙げたんですよ。

 実際に彼女が主人公の剣心役に決まったものの、声優は未経験なので、収録方法などを誰かが教えなきゃいけない。それで「宝塚とアニメを知っていて、演技指導もできるのはおまえしかいない。音響監督をやってくれ」と頼まれたんです。

――スタッフからの信頼がすごいです。

三ツ矢 『ソワレ』という雑誌の編集長になったのも「演劇雑誌をつくるので、舞台のプロでもある三ツ矢さんに相談にのってほしい」と頼まれたのがきっかけでした。1990年に創刊したんですが、次の年に「ジャニーズからデビューするSMAPというグループが『聖闘士星矢』のミュージカルをやるんだけど」という話がきて。

――SMAPにそんな時代が。

三ツ矢 「そのミュージカルの脚本と出演をお願いしたい」と言われて、引き受けたんです。たぶんそれで「三ツ矢は舞台脚本もいける」と業界の人たちに思われたようで、『赤ずきんチャチャ』や『少女革命ウテナ』など、2.5次元舞台の脚本や演出の依頼がくるようになりました。

 お仕事をくれたのはだいたい、声優として一緒に仕事をしたプロデューサーやディレクターで、「これは三ツ矢ができそうだから」とオファーしてくれたんです。

「ゲイの人全員が繊細で、感性に優れてるとかじゃないんですよ。それは僕が一番知ってます(笑)」

――三ツ矢さんが声優として、現場で後輩に何かを教えたり、スタッフとコミュニケーションをとる中で信頼されるようになったんですね。

三ツ矢 もちろんそれもあるでしょうけど、「三ツ矢はゲイだから、この仕事ができるんじゃないか」と思ってもらった部分は、間違いなくあると思うんですよね。

――「ゲイだからできるだろう」というのは、偏見に近い感じもしますが。

三ツ矢 もちろん、ゲイの人たち全員が繊細で、感性に優れてるとかじゃないんですよ。それは僕が一番知ってます(笑)。だから僕自身は「自分がゲイだから、この仕事が向いてる」と思ったことはありません。

 ただ、たとえば『るろうに剣心』で僕が起用されたときに言われたのは、「涼風さんは女性で、宝塚では男役で、でもアニメで男性を演じるのは初めて。だから、涼風さんの本心と役の間にあるギャップを埋めてほしい」ということでした。つまり、「三ツ矢なら、女性心理も男性心理もある程度わかるだろう」と期待してもらったんです。

――性別は別としても、三ツ矢さんの演技の幅が広くて、とても繊細なことはわかる気がします。

三ツ矢 演劇雑誌を依頼されたときも、「三ツ矢さんはミュージカルもストレートプレイもわかっているプロだから」と言われましたが、その中には“ゲイは芝居やミュージカルなどのステージカルチャー好きが多いよね”という意識も混ざっていたと思います。実際、僕は舞台を見るのも出るのも大好きなので、喜んで引き受けました。

――女性のお客さんが多い2.5次元舞台をつくるのも、似たような感覚なのでしょうか。

三ツ矢 「ジャニーズ」も『聖闘士星矢』も、観客は完全に女の子なんですよ。だから、オファー時は「女の子の気持ちを理解したうえで、ウケる内容にしてほしい」と言われました。脚本を書くうえでも、男性を恋愛目線で見る感覚がわかるゲイの感覚は、プラスに働いたと思います。

「幕が開く前の客席が怖いくらい静か」だった『テニミュ』の第1回公演

――そういえば、三ツ矢さんはミュージカル『テニスの王子様』(テニミュ)も立ち上げから参加されているんですよね。

三ツ矢 『テニミュ』は第1作から20年間、脚本や作詞をしています。最初にオファーをもらってマンガを読んだら、登場人物は男ばかりで、ひたすらテニスをしてるんですよ。「え? これを脚本にするの?」って思いました(笑)。

 初演の緊張感はいまだに覚えています。東京芸術劇場のホールで、お客さんが7割ぐらい入っていて。なのに、幕が開く前の客席が怖いくらい静かなんですよ。つまり、原作ファンの女の子たちが「私たちの愛する『テニプリ』を、どんな舞台にしようってわけ⁉」と、品定めに来ていたんです。

――たしかに初演だと、観客は何がどう出てくるのか、全くわからない状態ですよね。

三ツ矢 そうなんです。楽しみというより「どんな舞台になっているか、この目で確かめてやろう」みたいな、ちょっと異様な感じでした。

 でも、1曲目が終わった途端にすごい拍手が起きて、そこから手拍子が止まらなくなりました。それで1幕が終わったら、お客さんがみんなロビーに出て、携帯でダーッと何か文字を打ってるんですよ。たぶん「すごいことが起きてる」と感想を送ってたんだと思います。その後は公演を重ねるたびにお客さんが増えて、もう20年続いてるんです。

――その『テニミュ』の歌詞のほとんどを、三ツ矢さんが書いているというのも驚きです。

三ツ矢 たぶん、『テニミュ』だけで500曲近いと思います。テニスの試合シーンの歌なら、原作にある試合のセリフを使えるんですけど、難しいのはキャラクターの心情が表れる歌なんです。『テニミュ』ファンが求めているのは「男性キャラクター同士の、友情なのか親愛なのか愛情なのかわからない複雑な感情」のようなもので、これは原作ではあまり描写されていない部分でもありますから。

――そこに、三ツ矢さんがゲイであることは活きていますか?

三ツ矢 ゲイだから女の子の気持ちがわかるというよりは、僕自身が素直に思ったことを詞にのせています。「この人は、本当はこういう気持ちなんじゃないかな」と翻訳するような感じ。

 僕は約50年間アニメの仕事をしてきて、自分自身も80年代のアニメブームで、ちょっとしたアイドルのように騒がれた経験があるでしょう? だから、2次元や2.5次元ファンの人たちが求めているものは、肌感覚でわかるんですよ。作詞は一番「三ツ矢雄二らしさ」が発揮できるので、アニメをやってきてよかったと思う仕事のひとつですが、ゲイであること以外にもいろんな経験が活かされていると思いますね。

〈 大先輩・古谷徹の不倫騒動に三ツ矢雄二があえて言及した“納得の理由”とは「ちょっとはしゃぎすぎじゃない? とは思いました」 〉へ続く

(前島 環夏)

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