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「備えあれば憂いなし」まではまだまだ程遠い…イタリア海軍空母「カブール」の威容《不肖・宮嶋目撃撮!》

文春オンライン / 2024年9月13日 6時10分

「備えあれば憂いなし」まではまだまだ程遠い…イタリア海軍空母「カブール」の威容《不肖・宮嶋目撃撮!》

©宮嶋茂樹

 朝靄(あさもや)煙る観音崎沖に見慣れぬシルエットを現した巨艦、「スキージャンプ台」のような反りあがった飛行甲板、それにそこにびっしり並べられた艦載機に、横須賀に駆けつけた人々の目は惹きつけられる。

空母「カヴール」の日本初寄港

 あれこそがイタリア海軍の誇る空母「カヴール」である。後ろに控えるは「カヴール」とともに空母打撃群を構成する同じくイタリア海軍のフリゲート「アルピーノ」。2隻は巨大な東京湾観音像に見下ろされる中、ゆっくり北上を続け、海上自衛隊横須賀基地に入港した。横須賀基地に日米以外の空母が入港するのはきわめてまれであり、不肖・宮嶋が知る限り、英海軍の新型空母「クイーン・エリザベス」くらいで、イタリア海軍の「カヴール」の日本寄港はもちろん初である。

 もちろん艦船マニアも見逃すわけにもいかず、観音崎には木曜日早朝ということもあり、5人ほどしかいなかったものの、基地が見下ろせる高台にはマニアが鈴なりになっていた。

 いつもは「いずも」の指定席である逸見岸壁に接岸した「カヴール」である。その名はアフガニスタンの首都の「カブール」にちなんだわけでもなく、イタリア王国の初代首相の名を冠する。その威容は全長が236mにもかかわらず、海上自衛隊最大の護衛艦である「いずも」より大きく見えるのは飛行甲板を埋め尽くすF-35Bステルス戦闘機やハリヤーⅡ攻撃機だけのせいやない。艦首左舷にそびえるスキージャンプ台、これはF-35Bやハリヤーの発艦時の短距離可と燃料節約のためである。さらに艦首と艦尾ににらみをきかす76mm単装速射砲のせいもあり、さながら海に浮かぶミニ要塞の感である。

誇らしげな「カヴール」「アルピーノ」の両乗員

 接岸と同時にラッタル(はしご)がかけられ、上陸してくる「カヴール」「アルピーノ」両乗員も空母打撃群の一員のせいか、どこか誇らしげである。また乗員とともに乗艦している士官候補生が、この猛暑の下背負う黒いダブルの制服もイタリアらしいセンスをうかがわせる。

「カヴール」の巨艦を背に逸見岸壁に整列するイタリア海軍空母打撃群司令官ジャンカルノ・チャッピーナ准将指揮下の「カヴール」艦長ミロス・アルジェントン大佐、「アルピーノ」艦長サルバトール・サントアンジェロ中佐以下両艦乗員、さらにジャンルイジ・ベネデッティ駐日イタリア大使を前にしての海上自衛隊第1護衛隊群司令の沢田俊彦海将補の歓迎スピーチは「ボンジョルノ、ピアチェーレ(おはようございます! はじめまして。)」から始まるという、モロ歓迎ムード満載であった。

中露朝の暴走をくいとめるべく、連携を強化

 今回の空母打撃群の初来日は日伊海軍の関係強化と「自由で開かれたインド太平洋」の理念の下、イタリア海軍のインド太平洋地域への関与強化も目的としており、それはこの地域の「力による一方的現状変更」を目論む中国を念頭に置いたものであろう。それくらい中国の脅威は遠くヨーロッパにまで忍び寄っているのだ。「カヴール」が停泊している逸見埠頭に停泊中の「いずも」や米軍基地に停泊中だった原子力空母「ロナルド・レーガン」が中国人の情報部員と思われる人物の放ったドローン(無人機)に直上から撮影されていたくらいである。

 東京もあわせて、この8月にはドイツ海軍のフリゲート「バーデン・ヴェルテンベルク」、補給艦「フランクフルト・アム・マイン」、フランス海軍フリゲート「ブルターニュ」、オーストラリア海軍駆逐艦「シドニー」、イタリア海軍からはさらに哨戒艦「モンテクッコリ」までが入港し、まるでNATO軍港みたいになっとるのである。

 8月27日には台風10号の接近のせいもあるがそれらが一斉に出港、さらに「カヴール」のホストシップでもある「いずも」や護衛艦「おおなみ」、潜水艦、P-1哨戒機まで加わり、沖縄沖太平洋上で日独伊、3国に仏豪まで加わり「自由で開かれたインド太平洋」の実現、これすなわち中露朝の暴走をくいとめるべく、連携を強化するため、合同戦術訓練「ノーブル・レイブン24-3」を実施したのであった。

空母を運用している海軍は少ない

 現在実際に空母を常時運用している海軍は、実は核保有国より少ない。米海軍の11隻の満載排水量10万t超の原子力空母は別格として、米海軍はさらに「カヴール」と同じくF-35Bやハリヤーの発着ができる軽空母ともいっていい強襲揚陸艦もいれたら20隻である。先述のロイヤル・ネイビー(英海軍)も第一次世界大戦末期にはすでに世界初となる空母のような全通甲板を持つ「アーガス」を配備し、現在も「クイーン・エリザベス」と1941年帝国海軍の航空部隊により撃沈された戦艦と同じ名の「プリンス・オブ・ウェールズ(英皇太子のこと)」の2隻のスキージャンプ台を備えた空母を就役させている。この2隻もスキージャンプ台と艦橋を2つ備えた独特の形状で満載排水量6万tを超える。

 フランスは原子力空母「シャルル・ド・ゴール」を1隻だけである。アメリカ以外で唯一蒸気カタパルトを備え、そのおかげで燃料満タン、重い核弾頭搭載のミサイルを吊った攻撃機にもなる「ラファール」M型戦闘機も発艦できる、フランスは世界で唯一核兵器を搭載した空母を運用していることになるが、核兵器の持ち込みを禁じた非核三原則を唱える日本には入港できんことになる。アメリカの原子力空母は建前上、核兵器を搭載してないことになっているので、横須賀を母港にできるのである。

 そしてパキスタンと中国との間で国境紛争を抱えるインド。ロイヤル・ネイビーの流れを汲むインド海軍がちょい前までは空母はロシア製やったが、現在は初の国産空母「ヴィクラント」を就役させている。なお艦載機はフランスと同じ「ラファールM」になるかもしれない。もひとつさらにスペインも「ファン・カルロス1世」を、タイ海軍までもスペインで建造された「チャクリ・ナルエベト」を保有しているが、空母として就役していた時期はほんとんどない。

空母は金がかかり、運用がむずかしい

 そして我らの隣国中国とロシア、この非友好的国家の二つまでもがいまは空母保有国なのである。ただし、中国はもと旧ソ連製の中古空母「遼寧」とその後は国産空母2隻を就役させているが、その生産国ロシアに至っては前世紀に就役した「アドミラル・クズネツォフ」1隻のみである。その1隻さえもまともに運用されたことはほとんどなく、事故と火災まみれとほとんどをドックに入ったまんまという体たらくである。つまり空母は、あの5580発という世界最大の核弾頭保有国であるロシアでさえもてあますほど、金がかかり、運用がむずかしいのである。

 そして最後に今回来日を果たしたイタリア海軍も「カヴール」のほかにも「ジュゼッペ・ガリバルディ」と2隻保有している。核兵器と違い、空母は先の大戦の敗戦国は保有できない条約もない上に、日本国憲法のどこにもそんなこと書いてないのである。ただ我が国は専守防衛の原則のもと、他国を侵略できうる空母の保有を政治的理由で「自粛」しとったものの、昨今の中国の「力による現状変更」による台湾、沖縄、尖閣有事に備え、空母保有に踏み切ったのである。あれだけ南シナ海の環礁を国際司法裁判所の判決を無視して、かってに埋め立て、軍事基地化し、フィリピン、ベトナム等と紛争をひきおこし、今や我が国の尖閣諸島周辺まですでに実質中国の海と化してしもうたのである。

空母機動部隊を実戦ではじめて使用したのは日本

 だが我が国には中国、ロシアにはないものがある。それは空母運用のノウハウである。ちなみに世界で初めて空母を製造、配備したのは先述の通り、英国やが、大規模な空母機動部隊を実戦ではじめて使用したのは日本である。戦後79年の空母空白期間を埋めるにはアメリカはもちろん、イタリア海軍との共同訓練は不可欠であろう。明治に入ってから創設された帝国海軍より先立つこと「ルネッサンス期」にはすでにイタリア海軍は活動しており、「カヴール」「アルピーノ」の艦尾にも掲げられたイタリア海軍旗にもその4つの海洋都市国家の紋章が描かれているとおりである。そしてやがて日本の“空母”となる「いずも」「かが」にも搭載されるF-35Bを今回「カヴール」は搭載してきているのである。

 これらの訓練が実際に役立つ日が来ないにこしたことはないが、隣国に国防に充分な備えがないと知るやためらわず侵略する国家が21世紀にもなって存在することを隣国は証明しよったのである。「備えあれば憂いなし」までまだ程遠い。

撮影 宮嶋茂樹

(宮嶋 茂樹)

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