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ペットショップの店長は「同じようなのでいいですよね。取り換えます」と…ペット購入後の“健康トラブル”に直面した飼い主たちの怒り

文春オンライン / 2024年10月4日 6時10分

ペットショップの店長は「同じようなのでいいですよね。取り換えます」と…ペット購入後の“健康トラブル”に直面した飼い主たちの怒り

チワワ ※画像はイメージ ©写真AC 

〈 「スコティッシュフォールドは『病気の猫』と見るべきだ」人気ナンバーワン猫種の“折れ耳”に隠された疾患 〉から続く

 かつて、犬や猫などのペットは拾ったりもらったりするものだった。しかし今や、ペットショップで購入するのが当たり前になっている。それに伴い、劣悪な環境で犬や猫を「大量生産」する繁殖業者の問題も顕在化してきている。

 ここでは、朝日新聞記者の太田匡彦さんがペットビジネスの裏側で奴隷のように扱われる犬や猫たちの実態を追った『 猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち 』(朝日文庫)より一部を抜粋。

 家族として家に迎えた犬や猫が病気にかかってしまっていた。そんな悲しいトラブルがあとを絶たないのは一体どうしてなのだろうか――。(全4回の3回目/ 最初から読む )

◆◆◆

あとを絶たない購入時の健康トラブル

 一部のペットショップチェーンが子犬・子猫の生体管理に力を入れる一方、全体で見れば、ペットショップで犬や猫を買ったら病気にかかっていた――といったペットに関するトラブルはあとを絶たない。犬の推計飼育数が減っているとペット業界関係者が危惧するなかにもかかわらず、たとえば国民生活センターに寄せられる相談件数は高止まりしている。

「先天的な形成異常である頭部頸椎接合部奇形(CJA)と診断しました。水頭症、頭蓋骨形成不全、不安定症(AAI)などを併発していますが、治療のすべがない」

 大学付属動物病院でそう獣医師から告げられ、東京都三鷹市に住む会社員の女性(35)は頭が真っ白になったという。2014年5月、大手ペットショップチェーンの店舗に何度も足を運んだ末、約30万円で購入した雌のチワワ。自宅に迎えてから、重大な先天性疾患が明らかになったのだ。

 2歳になっても、1日のほとんどをケージのなかで過ごさせるしかない。12時間おきに薬を飲ませる必要もある。治療費の負担は重い。ペットショップとの話し合いで「犬を返却していただき、購入額を返金します」と提案されたが断った。女性はこう話す。

「お金がほしいわけじゃない。病気の犬を繁殖させたり、売ったりしている業者がいることが許せない。犬にも命があるのに、そのことを軽く見られているのが悔しく、悲しい」

 国民生活センターには15年度だけで、ペット店などで購入した動物に関する相談が前年度比5%増の1308件寄せられていた(16年5月15日集計)。その大部分が「買ったら病気にかかっていた」などペットの健康にまつわる内容だったという。

「年1千超という相談件数は、各種相談のなかで目立って多い。状況が改善されないまま、相談件数が高止まりしているのは問題だ。トラブルが減らないため、購入時に病気の有無や保障内容についてよく確認するよう呼びかけている」(国民生活センター相談情報部)

「同じようなのでいいですよね。取り換えます」と言われ…

 トラブルが訴訟に発展するケースもある。埼玉県本庄市の会社経営者の男性(61)は2014年12月、愛知県に本社を置き全国展開するペットショップチェーンを相手に、購入した猫に先天性疾患があったとして、治療費や慰謝料の支払いを求める訴訟を起こした。

 近所のホームセンター内の店舗で、男性が雄のロシアンブルーを購入したのは14年7月。埼玉県川口市にある動物病院の院長名で出された「健康診断書」も一緒に受け取った。診断書は「耳(耳道内)」「心臓(聴診)」など13項目中12項目について「異常なし」とし、「陰睾」は「未確認」となっていた。

 ところが「ぽんず」と名付けたその猫を購入した当日、近所の動物病院に連れて行くと「胸の中央部分が陥没している。獣医師であれば気付かないはずがない」と診断され、検査をして漏斗胸であることがわかった。漏斗胸は多くの場合が先天性。重症化すれば呼吸障害を起こす。

 ペットショップの店長からは、「同じようなのでいいですよね。取り換えます」と言われた。男性は納得がいかず、チェーンの経営者に謝罪を求めると、役員から電話で「裁判してもらって構いません」と告げられた。男性はこう話す。

「家族として迎えた子を、この会社は、まるで鍋や皿のように考えている。経営者は謝罪もしない。そういう姿勢を直してほしいと思った」

 大阪府堺市に住む公務員の男性(44)の場合、同市のペットショップで購入した雌のパピヨンに、先天性の心臓病である動脈管開存症(PDA)が見つかった。特徴的な心雑音が発生するので、聴診だけでほぼ診断がつくとされる病気だ。

 ペットショップ経営者は犬の販売価格など約10万円を返金し、「(提携している)動物病院が健康だというので販売した」と話した。男性がペット店から渡された同市の動物病院発行の「健康診断証明書」には確かに、「先天性疾患の有無」という項目も含め、すべてが正常であるとしていた。 男性は12年5月、動物病院を相手に手術費分など約50万円の賠償を求めて提訴した。「家族になった以上、何があっても一生面倒を見るのが当然。先天性疾患だからといって、見捨てることはできない。獣医師には誠実な対応をしてほしかった」と振り返る。

 一審は勝訴したものの二審で逆転敗訴となり、最高裁に上告したが棄却された。判決では「ショップから依頼された獣医師が、子犬の心臓を注意深く聴診すべき注意義務を負うとはいえない」と告げられた。

 動物関係の法律に詳しい細川敦史弁護士は言う。

「生体販売の現場において獣医師の関わり方が形式的なものになっている。13年9月に施行された改正動物愛護法で、獣医師の果たすべき役割はより重くなった。消費者保護のためにも、獣医師にはより高度な職業倫理が求められていいと考える」

健康トラブルが減らないのはなぜなのか

 そもそも、ペットショップなどで販売される犬猫に健康トラブルが減らないのはなぜなのか。前出の経営者の男性が訴えたペットショップチェーン側の弁護士は、準備書面で次のように主張していた。

▽被告には胸骨陥没という認識はなかった

▽健康診断において、獣医師から本件猫に異常はないと診断されており、獣医師でも見逃す場合がある先天性疾患を、被告従業員が判断するのは難しい

▽ペットショップではペットをゲージ内で飼育保管しており、ゲージ内での運動量に限りがあるため、被告従業員らが本件猫の呼吸促迫や喘鳴に気付かなかったとしても不思議ではない(原文ママ)

▽犬猫といった愛玩動物(特にペットショップで販売される犬猫種)は、人間の好み(都合)に合わせて小型化したり新種をつくるために交配合を繰り返し、また、突然変異種を純血種とするなど、人の手によって血統が維持・左右されていることから、人間によって出生が左右される血統種愛玩動物の宿命として、雑種よりも、先天性疾患を持つ個体が必然的に発生しやすい

▽ペット購入時にはわからなくても、先天性疾患に起因して購入後に個体が死んでしまったり、重篤な先天性疾患が見つかったりすることも稀ではない

 つまり、ペットショップのショーケースのなかにいては確実な健康管理ができず、またそもそもペットショップで販売される犬猫には先天性疾患が多くて当たり前である、という趣旨の主張をしているのだ。

 犬の遺伝病などを専門とする新庄動物病院の今本成樹院長はこう話す。

「健康な子犬や子猫を作るのがプロの仕事のはずなのに、現実には、見た目のかわいさだけを考えて先天性疾患のリスクが高まるような繁殖が行われている。大量に販売する現場では、簡単な健康チェックしかなされず、疾患を抱えた子がすり抜けてくる。そして、病気の子はあまり動かないので、ショップの店頭では『おとなしい子です』などという売り文句で積極的に販売される。消費者としては、様々な疾患が見つけやすくなる生後3カ月から半年くらいの子犬や子猫を買うことが、自己防衛につながるでしょう」

 まじめに生体の健康管理を行っている会社は少なからずある。

 ただ当然ながら、多くの獣医師を社員として雇用したり、いったんすべての子犬や子猫を1カ所に集めてから流通させたり、また繁殖業者に直接指導をして遺伝性疾患の発生を抑制したり、といった取り組みには、相応のコストがかかる。

 そこまでのことができるペットショップチェーンは大手でも一部であり、またそもそも中小規模のペットショップになると、実態はなおさらずさんになりがちだ。販売する犬や猫の健康トラブルを起こすような業者が一定程度を占めているというのが、残念ながら、現実なのだ。

〈 不要になった繁殖犬を「埋めてるんだ」「農薬使ってんだよ」劣悪な環境で犬を育てるブリーダーの“残酷な実態” 〉へ続く

(太田 匡彦/Webオリジナル(外部転載))

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