兵庫県北端の漁港で獲れる“知られざる名物”…夏の風物詩として評判の「白イカ」釣りに挑戦してみると“まさかの釣果”が!
文春オンライン / 2024年9月20日 20時0分
これが日本海の名物、白イカことケンサキイカ
〈 チェックインしてからはサバイバルのごとく魚をかき集める…! 釣った魚を豪華なお造りにしてもらえる民宿「みたはま荘」の“ヤバすぎる魅力” 〉から続く
兵庫県美方郡香美町に位置する釣りができる宿「入り江の一軒家 みたはま荘」で日本海の絶景を前に釣り三昧、そして地魚料理を堪能した。
最終日は町に戻り、今回の旅の目的の一つでもある白イカを釣って、釣り人の特権を存分に活かした料理をいただこう。
夏の風物詩“白イカ釣り”へ
香美町の夏の味覚といえば白イカ。
イカは同属でも地方名が異なり、このあたりの地域でいう白イカとは標準和名ケンサキイカのことだ。関東地方になれば全く色彩の異なるアカイカと呼ばれるため、何イカなのか混乱することがある。
香住漁港でその日に水揚げされた新鮮な白イカは多くの飲食店でお刺身(活きイカ)として提供され、町の名物にもなっている。
新鮮なイカを食べることが比較的容易な環境。にもかかわらず、それでも船に乗って白イカを釣りに行くのが釣り人の性。今回の狙いは3つだ。
(1)活け造りでいただく
釣ったイカをそのまま捌いて、釣り人にしかできない超新鮮なイカを食べる。
(2)沖漬けを作る
生きたイカでしかできないとされる調理法。醤油やみりんなどを混ぜた調味料に生きたイカを漬け込んで、体内まで味を染み込ませた料理を作る。
(3)たくさん釣る
冷凍庫にいつもイカがある生活を送る。
遊漁船に乗って白イカを釣ることでQOLまで向上する……。なんともメリットだらけの釣行! 船でのイカ釣りは今回が初挑戦となるが、はたして目標は達成できるのか。早速集合場所へと向かう。
白イカ専門の遊漁船「日光丸」に乗船
但馬地区最大の港である香住漁港。南防波堤の中ほどに「日光丸」の乗り場がある。出船1時間前に到着すると、すでに多くの釣り人がタックルの支度を始めている。
最近の釣果情報を共有しあって作戦を立てる声が聞こえる。出船前の高揚感が現場に漂っていた。
私の持ち物はクーラーと、醤油とみりんを混ぜた秘伝(1:1)のタレのみ。そして車内には釣った白イカをすぐさま捌けるよう、各種調理器具を準備しておいた。万全だ。
イカ釣りといえば夜釣りがメインなのだが、香住漁港では他の遊漁船も含めて17時に一斉に出船する取り決めがあるそう。そして、広大な日本海であれど白イカが釣れる好漁場は決まっており、さらに釣り場への到着は先着順なのだとか。何となく船長の緊張が感じ取れた。
まだ日が高いうちに10隻ほどの船が香住漁港を出港。水平線を目指して散り散りに進んでいく。
「イカメタルゲーム」で狙う
「イカメタルゲーム」と呼ばれる船釣り専用のイカ仕掛けを使用する。仕掛けの下部にオモリの役割を果たす鉛スッテ、そして浮きスッテを二つ装着したシンプルな仕掛けだ。
海底まで沈めたあと、船長から指示されたタナまで巻き上げてイカを誘う。スッテのカラーや誘い方で釣果が分かれるため、ゲーム性が高く、全国的に人気が高まっている釣り方だ。
釣り場に到着すると、船長のアナウンスで水深やイカが遊泳する層が伝えられるため、私のようなイカ釣り初心者でも安心して釣りができる。明るいうちは「海底から5m以内を狙う」とのこと。しかし、本格的に釣れ始めるのは夜。それまでは船長から教えてもらった誘いでイメトレを行う。
2回しゃくって10秒止めたり、大きくしゃくってゆっくり竿を下ろすなど、アピールと食わせの間を織り交ぜた“誘いの組み合わせ”をどれだけ持つかが釣果の明暗を分けるそうだ。とりあえず5手ほど携え、夜の本番を待つ。
集魚灯が点き、雰囲気は一変…!
日没が過ぎ、船内の集魚灯が点くと、それまでとはまるで雰囲気が変わる。
海上にぽつんと明かりが灯るため、周囲に小魚も集まり、白イカ回遊の期待が高まる。すると早速、「白イカが釣り上げられた」と船長のアナウンスが流れる。釣人たちの表情が引き締まる……。
船長の教え通りに誘いを入れると、竿先が「ズシッ」と重くなる。巻き上げる。スッテとは明らかに違う重量感。時折ズン、ズンと抵抗するような生命感が伝わる。ついにイカがスッテを抱いたのだ。離されないようにゆっくり巻き上げると、細長く透き通ったイカの姿が現れた。
淡く紫がかった体色から時に透明へと、まるで液晶ディスプレイのように滑らかに変化していく様子が美しい。状態によって赤とも白ともとれる色調の変化こそ、ケンサキイカの地方名の由来ではないだろうか。釣った後は足元に用意された流水バケツで泳がせておき、時合を逃さないよう、すぐさま次の一投を投じる。
今度は竿先が跳ね上がるような、力が抜けるアタリがでる。水深30m先から伝わるイカのアタリは小さくても微妙な違いがあるため、集中して楽しむことができる。
2匹目はやや胴長が短い個体だったが、小さいほど身に甘味があって極上らしい。危ない、大きいイカばかりを求めるところだった。
ある程度釣れたところで中サイズの白イカを沖漬けのタレに漬け込む。生きたイカを使うことでタレが全身に染みわたり格別な味わいになるそうだ。
初めての白イカ釣りであったが、スッテの色を変えたり、誘いに変化をつけたりしながら、船長のアドバイスのおかげで25杯も釣ることができた。当初の目的の一つ「冷凍庫にイカがある生活」が達成できる釣果だ。
また、日光丸では、船長が全てのイカの墨袋を抜いてくれるサービスまである。なんとも至れり尽くせりだ。
帰港してすぐに活け造りにとりかかる
車にはすでに調理器具を準備していたので、船からイカを輸送して迅速に捌いていく。胴体と足を切断してしまうとすぐに絶命するので、少しでも生きた状態をキープするため軟骨部分を残して胴体を切り離す。
胴体の皮を剥くと、見たことのないほど透き通った身が現れる。アニサキス対策で全体に切り込みを入れたのち、細切りにする。最後に切り離した部位に重ねると、白イカの活け造りが完成!
圧倒的な鮮度のお造り。これぞ釣り人の特権。3切れほど一気にいただく。
何という美味さ……。
新鮮なイカでしか味わえないコリっとした噛み応えを残しつつ、硬すぎないイカらしい柔らかさをもった身質が絶妙である。そして醤油の塩味が抜けると、溢れるような甘味が口に広がる。白イカの最大の美味さはこの圧倒的な甘さではないだろうか。
残りの2匹も生きているうちに捌いてあっという間に完食してしまった。人生初の船のイカ釣りは大成功に終わったといえるだろう。
帰宅した後も楽しみは続く……
沖漬けにした白イカはアニサキスが寄生している可能性があるため、帰宅後すぐ48時間冷凍しておいた。解凍後に輪切りにしていただく。刺身で食べた食味とは違い、食感はねっとりしており、タレが染みてまろやかな味わいになっている。
まだ我が家の冷凍庫には20杯の白イカが残っている。イカ富豪となった私はしばらくの間、日本海の余韻に浸りながら、イカをアテに晩酌を楽しむのだ。
◆◆◆
同取材の内容をまとめた動画をYouTubeにて公開中です。ぜひご視聴のほど、よろしくお願いします。
(ぬこまた釣査団(大西))
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