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あまりの真面目さに…大泉洋も「結婚祝いのメールが送れなかった」すべてに全力の土屋太鳳が“精神医療ドラマ”に出ることの大きな意味

文春オンライン / 2024年9月14日 17時0分

あまりの真面目さに…大泉洋も「結婚祝いのメールが送れなかった」すべてに全力の土屋太鳳が“精神医療ドラマ”に出ることの大きな意味

第1話はAmazon Prime Videoで配信中

 通常、医療ドラマというのは多少の誇張や脚色こみでフィクションとして許されているような所がある。

 天才外科医がメスを振るって神のように患者を救ったり、聞いたこともない病名で余命数ヶ月を宣告された恋人が、さっき思いついたような新薬で奇跡の回復をとげても、観客はいちいち目くじらを立てたりはしない。もちろん医療関係者はやれやれとため息をついているのだろうが、それは小説からドラマまで、エンタメ界の長年の「お約束」みたいなところがある。

 だが、精神医療だけは別だ。長い差別の歴史を持ち、そしてロボトミー手術など苦い失敗の教訓を持つ精神科には、他の医療ドラマのようにスーパードクターやハッピーエンドの安直な演出が許されない。数えきれないほど作られる医療ドラマの中で精神科を舞台にした作品の比率が少ないのは、それだけ商業エンターテイメントと両立するのが難しい題材だからだ。

精神医療を描いた漫画作品がドラマに

 集英社の漫画雑誌『グランドジャンプ』で2019年から連載され、エンタメ連載漫画の激しい競争を生き延びて累計110万部を超えるヒットとなった、原作・七海仁、漫画・月子による『Shrink ~精神科医ヨワイ~』は、その両立の困難に挑戦し、危ういバランスを取りながら商業的にも成功をおさめた作品と言えるだろう。

 パニック障害、うつ病、発達障害、PTSDなどさまざまな個別の病と患者にスポットを当てつつ、派手な演出を抑えてリアルかつヒューマンタッチで描く連載は現在13巻におよび、2021年には第5回さいとう・たかを賞を受賞している。

 原作者七海仁氏は、テキストサイトnoteにおいてドラマ化決定当時のことを振り返っている。

 “ドラマのお話をいただいたのは、約1年半前、2023年春のことでした。

 実を言うと、当時ほかからもオファーを頂いている状況でした。

 2019年に連載を開始し、精神医療という、とても繊細で複雑でだからこそ面白いテーマを追ってきて、「もっと多くの人に届いてほしい」「皆でもっと『心』の話が出来たら」と願いながらも、メディア化に関してはさまざまなハードルがあるだろうから難しいかな…とも思っていたので、お話を頂けただけでも本当にありがたかったです。

 多くの方がおっしゃってくださっているように、確かに「3話は短いなぁ」などとも思いはしました。ですが、NHKの方々がドラマ(&関連番組)の制作を通して精神医療に真剣に取り組みたいと思っていらっしゃること、制作陣の皆さんが時間をかけて丁寧に良質なコンテンツを作りたいと望んでいらっしゃることが伝わってきて、悩んだ末、NHKのプロデューサーさんに「どうか『Shrink』をよろしくお願いします」とメールを書きました。”(2024年8月31日 note「ドラマ『Shrink ~精神科医ヨワイ~』第1話」より)

 本来困難な題材に他からもメディアミックスの声がかかるという状況の中、あえて3話のみのNHKを選んだ理由について、原作者はNHKスタッフの誠実な姿勢をあげている。

ドラマを見て「やはりNHKでよかった」と思った理由

 NHKのドラマを見てきた視聴者には、そしてこの『Shrink ~精神科医ヨワイ~』の制作スタッフ体制を見れば納得する人も多いのではないだろうか。放送される土曜夜10時は「土10」と呼ばれ、70年代から山田太一や向田邦子の作品を放送し、近年では『今ここにある危機とぼくの好感度について』『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』『やさしい猫』などの名作を作り続けている、日本のテレビドラマの名門と言える枠。

 演出は「きのう何食べた?」「大豆田とわ子と三人の元夫」などを手掛けた中江和仁。脚本は自ら小説『猫弁』シリーズを執筆するベストセラー作家でもある大山淳子。原作者と同じく全3話は短い、と思いつつ、ドラマ好きであれば「この布陣なら間違いない」と確信を持つような制作体制をとっている。

 筆者自身、放送された第1話と第2話を見て、やはりNHKでよかった、と思わざるをえなかった。抑制された上質な演出は、あえて視聴者を劇中音楽のリズムで駆り立てることをせず、静けさや街のリアルな生活音の中で物語が進む。スポンサーがつき、視聴率を競う民放のドラマでは、ある時は数字を取るために過剰な演出に走り、またある時はスポンサーの顔色を見て萎縮するジレンマと背中合わせだが、数々の名作を作り続けてきたNHKの「土10」ならその心配はいらないのだ。

 ドラマ放送に先がけて放送された特番『がんばりすぎないで。 ~ドラマ「Shrink」精神科医ヨワイの現場から』では、順天堂大学医学部精神医学講座の加藤忠史主任教授が精神医療の監修、アドバイザーとして患者役の演技にまでタッチする様子が映された。「こういうことが毎日、日本中で起きているんです、でもこうやって映像になったことがなくて」専門家がそう語る作品に仕上がったのは、やはりNHKならではのことだろう。

どんな役でも全力で演じる土屋太鳳の特異性

 もうひとつ、今回のドラマでさすがと思わされたのはキャスティングである。主人公の精神科医弱井に中村倫也、看護師の雨宮に土屋太鳳という配役は、今日本の俳優でこの2人以上に役に合う俳優はいないのではないかと思うほどフィットしていた。

 土屋太鳳が主演した『マッチング』という映画が今年公開された。『ミッドナイトスワン』で知られる内田英治監督が「今度はヒューマンドラマではなくサスペンスやスリラーをやってみたいと思ったんです」「『ベタかな?』と思いましたが、プロデューサー陣が企画を気に入ってくれて、背中を押してくれたんです」(映画パンフレットより)と語る通り、ある意味ではマッチングアプリを題材にした企画もののスリラー映画だ。だが、映画を見れば多くの観客が感じることだが、土屋太鳳はこの映画で「企画ものスリラー」の演技をしていない。

「私が役を演じる時、どんな役でも根っこにしているのが、小学6年生の時に聴いた『ひめゆり学徒隊』の方のお話です。(中略)戦争と(主人公の)輪花の状況は、規模も理由も一見違うかもしれません。でも人が人の命を奪う状況は同じです」

『マッチング』のパンフレットのインタビューで、土屋太鳳は真正面からそう語っている。正直な話、筆者も映画ライターをやっていて、企画もののサイコホラー映画のインタビューでひめゆり学徒隊の戦争体験の話を真剣にしはじめる若手女優なんてこの時代に見たことがない。でも、それが土屋太鳳なのである。彼女にとって「あれはヒューマンドラマ、これは企画もののスリラー」なんて中途半端な区別はなく、どんな役でも人間として向き合い全力で演じる「乾坤一擲」があるだけなのだ。

 公開された『マッチング』を見ていると、「少しベタなスリラー」を撮るはずだった内田英治監督が、土屋太鳳の演技に引きずり込まれるように彼女のアップをカメラで追い始めているのがわかる。撮るはずではなかった人間の物語、ヒューマンドラマを土屋太鳳が作り出し、映画全体のコンセプトさえ動かしているように見える。共演の金子ノブアキが「土屋太鳳ちゃんはアスリート。体も強いけど魂も強くて、鋼のような人です」と語るとおり、乾坤一擲、生真面目さの塊のような「剛」の俳優と言える。

あまりの真面目さに大泉洋も「結婚祝いのメールが送れなかった」

『帰ってきた あぶない刑事』で共演した柴田恭兵や、『マッチング』のクライマックスで演技の火花を散らし合った斉藤由貴が、「この役が太鳳ちゃんでよかった」(柴田恭兵『あぶない刑事インタヴューズ「核心」』)「良い意味で驚きました」(斉藤由貴『マッチング』パンフレット)と、娘を見るように目を細めて土屋太鳳を賞賛するのは、無理にでも軽くふざけなくてはいけなかった彼らの世代にとって、照れずにひたむきになれる土屋太鳳の真剣さがまぶしく、また頼もしいからかもしれない。

 言うまでもなく土屋太鳳のような女優の本領は、『Shrink』のような社会的背景を持った、中途半端に演じることのできない作品でこそ発揮される。困難なテーマ、難しい題材であるほど、日本映画やドラマは土屋太鳳のような俳優を必要とする。その意味で『Shrink』に土屋太鳳を選んだNHK制作のキャスティングはさすがの目利きというか、ベストの選択と思える。

 しかし一方で、そうした土屋太鳳のあまりの真面目さに見ている方が心配になるのも事実だ。「太鳳フォント」とファンの間で呼ばれる、活字のように整えられた手書き文字。時間と体力を消費するであろうその手書き文字を土屋太鳳は被災地への寄せ書きはもちろん、あらゆるメッセージに書き記すのだ。

『土曜スタジオパーク』のコメントで大泉洋が、土屋太鳳にメールすると、軽い内容でも真剣に書いた長文の返信が返ってくるので、負担をかけそうで結婚祝いのメールが送れなかった、あの5分の1の長さでいいんだよ、と笑っていたが、それは土屋太鳳を見るファン、周囲の人々の多くが感じていることなのだろう。そんなに一生懸命で、そんなに全力を続けて、本当に大丈夫なのか。それは『Shrink』のテーマともリンクする。

正反対の中村倫也との相性はぴったり?

 中村倫也と土屋太鳳の演技スタイルは正反対である。常に全力、持てるすべてを役に注ぎ込む土屋太鳳を剛とするなら、融通無碍、カメレオン俳優と呼ばれるほどに変幻自在な中村倫也は柔のスタイルだ。番組でのインタビューを見ていても、すべての質問にインタビュアーの目を見て真正面から答える土屋太鳳に対して、中村倫也は時にするりとジョークで身をかわす。彼の、どことなく武術の達人を思わせるような呼吸と間合いを読んだしなやかな身ごなしは、彼の演技の中にもエッセンスとして常に存在する。常に渾身の一撃の土屋太鳳に対して、中村倫也の演技には対象と距離を取るジャブとフットワークがある。

 中村倫也の柔らかさの中心には、もちろん硬質な真剣さが存在する。本人も何度も語るように、不遇の若手時代に抱えた葛藤や、多くの本を読み考える知性は、最近でも石原さとみ主演の『ミッシング』、野木亜紀子脚本の『ラストマイル』での追い込まれた男の演技でみごとに発揮されていた。それはどこか、重い過去を持ちながらあえて軽く振る舞う『Shrink』の精神科医・弱井ともリンクする。

 NHKのニュースLIVEでインタビューを受け、「医師の役はたいへん。簡単にやりたいとか言っちゃダメです」と、演じるにあたり資料の本を読んで勉強をしたことを明かしながら「まずは知ることで適切な治療を受ける1ページ目になれば」と語る中村倫也は、原作が尊重してきたテーマの難しさ、重さをよく知りながらエンタメの軽さと両立できる、最適のキャストに思えた。

 俳優と役を単純に重ねてしまうのは、あまりにも安直すぎるかもしれない。『赤羽骨子のボディガード』で演じた異色の殺し屋役も好評を博し、野木亜紀子脚本の『海に眠るダイヤモンド』のトリプルヒロインの1人も決まっている土屋太鳳の俳優活動は今、絶好調と言ってもいい。

 しかし、「私もカメラの前で動悸が止まらなくなったり、セリフが出てこなくなったことがあった」と語る土屋太鳳が、次々とオファーが舞い込む大役をすべて「全力で」背負い込んでしまいはしないかと、1人の観客として不安に思う時もある。そんな時、この『Shrink』のストーリー、「がんばりすぎないで」というShrink特番のタイトル、そして中村倫也の強い軸を持つ柔軟さが、彼女の生真面目さを少しだけほぐしてくれればと願ってしまうのだ。

 土10での全3話は最終回を迎える。だが、これほど見事な演出とキャスティング、そしてまだ多くのことを語り続けている原作のことを考えれば、『Shrink』には第2章、セカンドシーズンがあってもいいのではないかと思うのだ。いつかその機会がもしあるとするなら、しなやかでタフに成長した弱井と雨宮、そして中村倫也と土屋太鳳に再会することを楽しみに待ちたいと思う。

(CDB)

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