東大→24歳で結婚→33歳で都知事選出馬 安野貴博と編集者のパートナーの形「結婚のKPIを設定し毎週シグナルを測っていた」
文春オンライン / 2024年10月9日 11時0分
黒岩里奈さん(左)と安野貴博さん(右)
2024年7月の東京都知事選に立候補し、15万4638票の得票数で5位となったAIエンジニアの安野貴博さん。「テクノロジーで誰も取り残さない東京へ」のポリシーの元に集った「チーム安野」の一員が、妻の黒岩里奈さんだ。33歳の夫婦は政治の未来をどのように描いているのか。パートナーの形を聞いた対談を『 週刊文春WOMAN2024秋号 』より一部を紹介します。
都知事選へ出馬は散歩中の雑談がきっかけだった
――安野さんに都知事選への出馬を勧めたのは黒岩さんだったそうですが、きっかけは?
黒岩 都知事選の2ヶ月ほど前にあった衆議院議員の補欠選挙中、「選挙期間を有権者との双方向のコミュニケーションの場にできたらいいよね」と話していて、「じゃあ貴博が出て変えればいいんじゃない?」と言いました。散歩中のなんでもない雑談だったんですけど、翌日には、「出馬を決めた」と言われてびっくりして(笑)。
安野 里奈の言葉を聞いた時、はじめは「何を言ってるんだろう?」と思いましたが、一晩考えてみると、確かに私がチャレンジする意味があるなと思えて、翌朝10時には、立候補の意思は固まっていました。
黒岩 選挙期間中に、候補者と有権者の双方向コミュニケーションをもっととれるはずだと言っていて。「今のテクノロジーを使えば、“候補者の名前を書く”以上の政治参加が可能になるはず」と、その時点で話していたよね。
安野 それが「デジタル民主主義」とも呼応するチーム安野の核になったということですね。
――とはいえ、安野さんの立候補に黒岩さんは不安はなかったですか?
黒岩 「おうおう、そうきたか」みたいな感じで、ポジティブに受け止めましたね。私は彼に対しては、常に驚かせて欲しいという欲望を持っておりまして。
――黒岩さんはパートナーに「驚き」を求めている?
黒岩 自分にとって「面白い」ことは非常に大切な要素で。編集者という職業病もあるかもしれませんが、「強い個性を持った才能と向き合っていたい」という願望は、プライベートでも同じかもしれないです。
プロポーズ時の提案書には「変化に対応し続ける」とだけ
――安野さんは、パートナーにどんなものを求めていますか?
安野 自分のやりたいことが明確にある、自律した方に惹かれます。里奈は、「文芸というフィールドで良い作品を生み出したい」という話をずっとしてるんですよね。自分を持っている方だなと思って、いいなと思いました。
黒岩 24歳で結婚したんですけど、プロポーズの時に安野から「二人の結婚生活に向けた提案書」という中長期プランのプレゼンを受けて。このプランには具体的なことは何もなくて、「変化に対応し続ける」ってことだけが書いてあるんです。
安野 そうだったね。
黒岩 印象に残ったのが、「人間の世界モデルの捉え方には3パターンある」という話で(と、ホワイトボードに成長曲線のようなグラフを書き始める)。この3つのグラフのうち、最も加速度的に変化するのが自分だ、と安野が言っていて。
安野 無理してグラフ書かなくて良かったんじゃない?(笑)。
黒岩 たしかになくてもよかった(笑)。で、「里奈はどの世界モデルでいきたい人?」みたいなことを聞かれて、私も「加速度的に変化する世界を見てみたい」と。安野と同じ方向性だったので、「お互いに握れたね」って話をしたんだよね。
安野 僕の認識としては、世界はずっと指数関数的に急速に変化し続けていると思っていて。そのスピードに自分が対応できるかどうかは別として、自分は変化を起こす側にいたい、という思いはずっと変わってないですね。
黒岩 この話って、お互いが何に面白さを感じるか、ということに直結するなと思ったんですよね。
――プロポーズの時、安野さんが「提案書」を作成したのはなぜ?
安野 新卒で入ったコンサルティング会社でクライアント向けに経営計画を作って提案していたので、結婚というものに対しても中長期の計画を示すのが筋ではないか、という考えのもとですね。コンサル用語でこれを「プロポーザル」と言うので、原義の通り、里奈にもプロポーザルしました。
黒岩 今回の選挙もだけど、学んだことをすぐ活かすタイプだよね。
安野 「演説ではカタカナを控えるように」ってアドバイスもすぐ取り入れたしね。そうやって素直に成長を果たすタイプです(笑)。
黒岩 コンサル的だなと思ったのが、結婚にあたっての役割が因数分解されていて、さらに、その役割に対してどういうKPI(評価指標)を設定しシグナルが測れるかを、毎週土曜日に送られてくるフォームに記入してフィードバックするというシステムも作っていたこと。
安野 会社のストレスチェックなんかに着想を得て作りましたね。
黒岩 でも、私が面倒になってしまって、3回くらいで終わっちゃった。
安野 毎週打ち込む手間があったから、サステナブルなシステムかというと、そこは失敗だったね。
出会いは「マインスイーパーが世界一速い人」と「新しいプロダクトを生み出す面白い人」
――お二人は東京大学の同級生という間柄ですが、馴れ初めは?
安野 大学1年生の時から共通の友人も多く、顔見知りではあったんです。
ちゃんと喋ったのは大学3年の時、エクストリームな人に取材するという教育プログラムの一環で、「マインスイーパー(PCゲーム)が世界一速い人」ということで、里奈にインタビューした時ですね。
黒岩 私の彼に対する当時の認知は、「新しいプロダクトを生み出す面白い人」。彼が大学のシラバス(授業計画)とSNSで流行っていた授業実況を連携させたシステムを作って開放していたんですが、自分は授業に出ない学生だったので、「こんな便利なものを作ってくれる人は最高だ!」と思ってたんです。
安野 その後、大学の総務課に呼び出されて怒られたけどね(笑)。
――では最初からお互いに好印象だった?
安野 横で見ていたらクリックのスピードがすごくて。やっぱマインスイーパー強い人っていいな、と思いました(笑)。
黒岩 「面白い人」というのは、当時からずっと変わらないですね。あと、友だちから言われて思い出したのは、私は本当に人の悪口をよく言うんですけど、「そんな里奈から、安野の悪口だけは聞いたことがない」と言われて。
ただ、卒業後に連絡を取り合って付き合うことになった時、告白された場所が新宿のカラオケ館で、しかも、『渇き。』っていう人間不信になるようなグロい映画を観た後だったので、いろんな意味で「今ここ?」とはなりました。
安野 あれがベストタイミングでしたよ(笑)。
指輪ではなくMacBookを“パカッ”
黒岩 プロポーズも、当時同棲していたきったない部屋で、指輪ではなくMacBookを「パカッ」と開いて例の提案書をもらったんですけど、「私の望む“パカッ”はそれじゃない!」と言って、ベタなプロポーズを仕切り直してもらいました。
――結婚にあたって、家事についての取り決めもあった?
黒岩 お互い一切何もしない、という意味での折半をしていますね。その結果、家がひどいことになってるんですけど。
安野 ある程度以上に散らかっていると、むしろ下手に手を付けてしまう方がどこに何があるかわからなくなってしまうので、2週に1回ハウスクリーニングの方に来ていただいて、それで終わりです。家の「散らかり度合い」を許容する方が、実は家事コストを極端に下げられるという考え方。
黒岩 それはプロポーズの時も言ってましたね。むしろ私の方が明らかに家事の苦手度は上回っていたので、「この契約、乗れるな」と。
あと、お互い自分のご飯は自分で面倒見ることも最初に合意しました。私自身、結婚する時には既に仕事をしていて、毎日夫から食事の有無を確認されるのはキツいなと思っていたので、それも良かった。
●自律的な2人が当時法律婚を選んだ理由や、31歳の結婚生活の危機の対処方法、夫の健康や身だしなみのケアを求められる政治家の妻像への考え、そしてデジタル民主主義の実現に向けてなど、対談の全文は『 週刊文春WOMAN2024秋号 』でお読みいただけます。
文・小泉なつみ 写真・橋本篤
あんのたかひろ/AIエンジニア、起業家、SF作家。1990年生まれ。開成高等学校卒、東京大学工学部システム創成学科卒業。ボストン・コンサルティング・グループを経てAIスタートアップを2社起業。
くろいわりな/編集者。1990年生まれ。桜蔭学園高等学校卒、東京大学文学部国文学研究室卒業。KADOKAWAを経て、2020年文藝春秋入社。『青くて痛くて脆い』(著:住野よる)、『指先から旅をする』(著:藤田真央)、『令和元年の人生ゲーム』(著:麻布競馬場)、『婚活マエストロ』(著:宮島未奈)などを担当する。
(小泉 なつみ/週刊文春WOMAN 2024秋号)
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