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《「呪術廻戦」が完結》両面宿儺は冨樫義博だった…? 芥見下々が挑んだ「幽☆遊☆白書」という“ジャンプ漫画の特級呪物”

文春オンライン / 2024年9月30日 6時0分

《「呪術廻戦」が完結》両面宿儺は冨樫義博だった…? 芥見下々が挑んだ「幽☆遊☆白書」という“ジャンプ漫画の特級呪物”

五条悟 公式YouTubeより

〈 「呪術廻戦」の最大のテーマとは何だったのか…アニメ版で追加された漫画にはない“特別なシーン”の意味「俺みたいにはなるなよ」《ついに完結》 〉から続く

「呪術廻戦」のもう1つの大きなテーマは、やはり「呪い」だろう。

  本作における「呪い」は人間の負の感情から生まれたものの総称で、「呪力」や「呪霊」といった作品世界の中核にある設定だ。

『呪術廻戦』の魅力がもっとも現れた外伝的なエピソード

  同時に、第1話で虎杖が「人を助けろ」という祖父の言葉に対して「面倒くせえ呪いがかかってんだわ」と言う場面からもわかるように、ある価値観を内面化して、自分の行動や考え方を規定してしまうことも「呪い」として表現されている。

  海野つなみの漫画『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社)が2016年に連続ドラマ化されて以降、特に恋愛や労働の場面で、万人が正しいものだと思い込んでいる歪んだ価値観を内面化して苦しむ姿を「呪い」に例える表現は定番化している。『呪術廻戦』が描く「呪い」にも同じ意味が込められているように感じる。

  SNSが普及したことで、悪意のこもった無責任な言葉に一喜一憂している私たちは、新しい時代の「呪い」に晒されていると言って間違いないだろう。そういった現代的な気分を少年漫画の枠組みを通して描いていたのが『呪術廻戦』だったのではないかと思う。

  それがもっとも的確に表現されていたのが、第8巻に収録されている「第64話 そういうこと」だ。

  この回には、中学時代に虎杖のことを好きだった小沢優子が登場する。中学時代に太っていた小沢の体型をクラスメイトが揶揄する中、ご飯の食べ方や書く文字が「すげー綺麗なんだよ」と虎杖が話しているのを聞いて「虎杖君は私の知らない私を見てくれる」と彼女は喜んだ。

  しかし「痩せた今の自分なら虎杖と付き合えるのではないか」と思ったことに対して彼女は自己嫌悪し、「私は私が嫌いな人達と同じ尺度で生きている」と、かつて自分を傷つけた外見至上主義という「呪い」を自分自身も内面化していたことに気づいてしまう。

  1話完結の外伝的なエピソードだが、『呪術廻戦』の魅力がもっとも現れた回だったと思う。

「佐藤黒呼かよ」を筆頭とする『幽☆遊☆白書』へのオマージュたち

  また、高校生になって身長が15cmくらい伸び、東京に来た環境の変化によるストレスで痩せたという小沢に対して、虎杖の仲間の釘崎野薔薇が「佐藤黒呼かよ」と軽くツッコミを入れる。佐藤黒呼とは冨樫義博の漫画『幽☆遊☆白書』(集英社、以下『幽白』)に登場するキャラクターである(後に結婚して真田黒呼に)。

  黒呼は中学の時は太っていたが、その後、身長が伸びて体重はそのままだったため、痩せた体型になった、というキャラクターだ。その意味で『呪術廻戦』の小沢は黒呼へのオマージュと言える回だが、こんな細かいエピソードをよく引っ張ってきたなぁと感心した。

  1990~94年にジャンプで連載された『幽白』は、霊界探偵の浦飯幽助が仲間と共に妖怪と戦うバトル漫画で、鳥山明の『DRAGON BALL』と井上雄彦の『SLAM DUNK』と並ぶ90年代前半のジャンプを代表する大ヒット漫画として語られることが多い。

  しかし『DRAGON BALL』と『SLAM DUNK』が万人が楽しめるジャンプ漫画としていち早く古典化したのに対し、『幽白』は古典化を拒むような、独自のカルト感が漂っていた。

『幽白』は、ジャンプ漫画の「特級呪物」だった

 『幽白』というと、バトル漫画として盛り上がる暗黒武術大会編が語られることが多いが、本作がカルト化したのは仙水忍が登場する魔界の扉編からだ。

  かつて幽助と同じ霊界探偵だった仙水忍は、人間が妖怪を虐殺する光景を見たことで人類に絶望し、人間界と魔界を繋げて人類を滅亡させようと目論む。

  魔界の扉編は、人間に対する絶望と不信が全面に打ち出された暗いエピソードで、物語の暗さに引きずられたのか、絵柄も不安定で禍々しいものへと変わっていった。

  その後、唐突に最終回を迎えた『幽白』は、綺麗に物語を終えることができなかったため「途中で破綻した失敗作だ」と言う人も多い。だが、漫画としての完成度を超えた禍々しい魅力が『幽白』には存在する。先鋭化した絵柄の奥に、週刊連載でボロボロになった冨樫の心境が見え隠れする私小説的な漫画として、当時の読者に「呪い」を残した。

  言うなれば『幽白』は、ジャンプ漫画の「特級呪物」とでも言うような作品だった。

  そんな『幽白』の残した「呪い」を喰らい、両面宿儺=冨樫義博の作風を自分のものとしてどこかで取り込むことができるかという戦いに、芥見は『呪術廻戦』で挑んでいたのではないかと思う。

夏油傑が闇堕ちしていく姿は、仙水忍と重なる

  だから『呪術廻戦』を読んで一番強く感じたのは、当時の『幽白』が持っていた禍々しい気配だ。中でも、五条悟の親友の呪術師・夏油傑が闇堕ちしていく痛々しい姿は、仙水忍の姿と重なるものがあり、他のシーンを見ても『幽白』の設定や絵柄を引用している場面が目に付く。

  おそらく前半の山場となる「渋谷事変」編までは、かなり意識的に『幽白』終盤をなぞろうとしていたのではないかと思う。「死滅回游」編になると物語のトーンが少し変わり、芥見自身の持ち味である不思議なユーモアが滲み出るようになるのだが、それでも『幽白』や冨樫義博の気配は、最後まで消えなかった。

  かつて『幽白』は、少年少女に大きな「呪い」を残した。『呪術廻戦』もまた、新たな特級呪物として現代の少年少女に大きな「呪い」を残すのではないかと思う。

(成馬 零一)

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