「学校行きたくない」と長女が不登校気味に…妻と別れたばかりの住職に訪れた「離婚後の絶望的な状況」の正体
文春オンライン / 2024年9月29日 6時0分
写真はイメージ ©getty
2017年、37歳のときに妻と離婚した、浄土宗・龍岸寺住職の池口龍法さん。離婚して間もない頃に、まず直面したのが「子どもたちの心のケア」について。小学生2年生の長女と幼稚園年長の長男――子どもたちに“母との突然の別れ”はどんな影響を招いたのか? シンパパ住職の奮闘記を綴った新刊『 住職はシングルファザー 』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
離婚してまず向き合うべきは、子供の心である。
私の心ももちろん疲弊していたが、「苦しみは糧にすべきものだ」という理解があるだけで気分に余裕があり、メンタルを病みそうな気配はなかった。
しかし、子供の心には、そんな余裕はない。
子供は、寝食をきちんとしていればそれなりに体は大きくなっていくが、心はひとりでに育まれてはいかない。夫婦仲が荒れていれば、子供の心はその影響をもろに受けてしまう。離婚というのは、大人よりもはるかに子供にとって過酷なものだろう。
離婚した時点では、私の子供2人の心はまだまだ幼かった。
学校に行きたがらない長女
まずは小学2年生の長女。
幼稚園から小学校にあがると、学校の宿題も翌日の授業の準備も、ひとりでできるようにならなければならない。朝は集団登校で出かけても、帰りはひとりで家まで帰ってこなければならない。つまり、親の助けを借りずとも、身の回りのことは「ひとりでできる」という感覚を身につけるのが、小学生になって必要とされることである。
しかし、娘はどうだったか。夫婦喧嘩に疲弊した両親にかまってもらえないせいで、生活がグダグダになってしまっていた。お風呂にも入らず、リビングで寝落ちしてそのまま朝を迎えることもよくあった。乱れに乱れた生活では朝もうまく起きられない。着替えぐらい年齢的にはもう自分だけでできて普通なのに、親が脱がせて着せてあげないといつまでもパジャマ姿。当然、宿題が終わっているはずもない。もたもたしているうちに、「ピンポーン」と集団登校班の呼び鈴が鳴る。その音は娘を怯えさせるだけで支度を急かす効果はなく、「すみません、今日も先に行ってください」と答える毎日。
私が学校まで送り、それで間に合えばいいが、遅刻するのは当たり前。学校に行く気にならないままずっと家に居ることもしょっちゅうだった。
もともと几帳面なタイプの子だったから、そのような日常にものすごくストレスを感じていたのではないか。子供がうまく生きられていないのを目の当たりにして、その原因が私にあると思うと、心がズキズキ痛んだ。思うにまかせない日常に、キレて泣きじゃくっていたこともよくあった。泣いている娘をなだめすかして、背中を押し、少しずつ忍耐力をつけて乗り越えさせてやるのが親の役割。それを繰り返して、幼稚園児から小学生へと成長していく。しかし、娘はそれができないままであった。
学校の先生も見るに見かねて、ときどき迎えに来てくれた。学校をあげて娘を気にしてくれている……私にとってはもう申し訳なさ満載の瞬間である。先生が来ると「学校行きたくない」と言っていた娘も、たいていはあきらめて登校していった。学校に行きさえすれば下校まで楽しく過ごし、機嫌よく帰ってくる。家庭訪問の時などに学校での様子を先生に聞くと、「友達と仲良くしてますよ」「勉強も困っている様子はないです」と、不登校に至る原因は見当たらない、という様子だった。
おそらく先生は「原因は家庭にあるはずだ」「夫婦仲が良くないのかもしれない」などと勘ぐっていただろうが、家庭の生活環境に介入するほどの「おせっかい」まではできない。離婚前、スクールカウンセラーへの相談を勧められて話を聞いてもらいに行ったこともあったし、児童相談所に足を運んだこともあった。もらえたのはせいぜい「夫婦仲良く温かい家庭を作ってください」「忙しくてもお子さんに向き合ってあげてください」という模範解答的なアドバイス。「頑張ります」とお礼を言いつつ、内心では「それができないから相談に来てるんだよなぁ」と虚無を感じて帰宅した。何度もお世話になる気にはとてもなれなかった。
お調子者の長男は元気で楽しそうだが…
さて、もう一方の長男は、幼稚園年長。姉とは違ってお調子者。のほほんとした楽天的な性格のムードメーカーで、家庭内不和をものともせず元気に通園し、幼稚園でも友達と仲良く打ち解けていた。
ただ、楽しく過ごせていればいいわけではない。幼稚園の頃は毎日の宿題はないけれど、集団生活である以上、ルールにのっとって生活することが求められる。いわば「元気にあいさつ」「ありがとうを言える」「嘘はつかない」などのような「しつけ」の基本を学ぶべき時期であろう。
私は子供の頃に「嘘をついたら閻魔さまに舌を抜かれて地獄に堕とされる」と脅され、底知れぬ恐怖を覚えた記憶がある。今どき閻魔さまへの恐怖感でしつけを行うのは流行らないかもしれないが、私たちが無数の命の縁によって生かされている以上は、人智を超えたものへの畏怖の念を教えるのは、幼少期に大切なしつけだろう。そこから、親や先生を敬う心がけや、世の中のルールを守る習慣も、おのずと身についてくる。
しかしながら、離婚前は幼稚園から帰っても親にかまってもらえず、制服のままiPadに没頭して、何時間もYouTube漬け。歯磨きや入浴の習慣もいい加減。幼少期のしつけが疎かだった悪影響が残らなければいいが……と淡い期待を抱いていたが、子育てはそんなに甘いものではないと後々に知ることになるのである。
〈 知育アプリで学ばせるつもりが、いつの間にか“YouTube沼”にドップリ…子育てに「iPad」を導入した住職の後悔「いい未来は見えなかった」 〉へ続く
(池口 龍法/Webオリジナル(外部転載))
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