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「15時間労働とむち打ち刑にピンハネも...」中国に派遣された北朝鮮の女性労働者たちの“奴隷のような生活”とは

文春オンライン / 2024年9月29日 6時0分

「15時間労働とむち打ち刑にピンハネも...」中国に派遣された北朝鮮の女性労働者たちの“奴隷のような生活”とは

デモが起きた南平地区=筆者提供

 今年の1月下旬、中国・吉林省の経済特区に派遣されていた北朝鮮の女性労働者たちが、北朝鮮が運営する会社に対し集団抗議デモを起こした。統制の厳しい北朝鮮国内では考えられない事件は、なぜ起きたのか。

 抗議デモが起きた現場は、吉林省和竜市「南平鎮経済開発特区」。「今回のデモは数年間、外部の出入りが徹底的に統制された閉鎖空間の中で、極度の精神的苦痛を受けてきた北朝鮮女性労働者たちに、会社の賃金未払いという苦痛が加わり、我慢できず爆発した事態だった」(中国の北朝鮮消息筋)

 デモは1月9、10日頃に始まり、女性労働者たちは1週間にもわたって会社の事務所の前で抗議を繰り広げたという。デモは瀋陽駐在の北朝鮮領事館から領事が来たことによって鎮静化。その後、現地に派遣されていた軍保衛司令部の保衛員がデモの主導者を探し出し、100人余りの女性労働者を北朝鮮に送還した。

「主導者らは金正恩委員長と国家の対外的地位を傷つけたことや暴力罪で、政治犯収容所に送られただろう」(同前)

デモが起きたことが漏れないよう、すべての携帯電話を調査

 事件後に南平地区にはデモの再発を防止する名目で、中国安全部要員と北朝鮮領事館職員が常駐した。中国安全部はこの事実が韓国や西側諸国に知られることを恐れ、旧正月期間中に北朝鮮労働者の携帯電話を全数調査し、通話記録と携帯メールの内容まで確認したという。

 今回の事件は、外貨を稼ぐ目的で設立された、北朝鮮国防省傘下の戦勝貿易会社で働く、2300人の労働者が起こしたものだ。

 工場では、賃金の未払いが発生しており、女性労働者たちは駐中北朝鮮大使館と駐瀋陽総領事館、北朝鮮労働党本部にその旨を申告していた。

 そして、申告を受けて内部調査が入ると、戦勝貿易会社社長は突如として自殺したのだ。

工場の社長が突如自殺して起きたある“異変”

 すると、社長の死で労働者の賃金全体の行方が分からなくなってしまった。怒りが爆発した労働者たちは管理者たちの事務室を訪ねて「自分たちの賃金を全額支払え」と抗議し始め、今回のデモへとつながった。

 戦勝貿易会社に勤務する2300人の北朝鮮労働者の多数は女性で、北朝鮮の保衛員によって5個のセクションに分けて管理されている。彼女らの工場での“生活”は悲惨そのものだ。北朝鮮労働者が生活する部屋には2段ベッドが4つあり、そこで寝泊まりをする。

 午前5時に起床し、6時から作業を開始する。昼食時間は1時間あるが、作業は午後9時まで続くため、彼女らは1日15時間労働を課せられている。

 さらに、生産量を増やすために残業を強いられており、長ければ一日に19時間労働を行う日もあるという。また、彼女らは就業中いかなるときも、ダッシュでの移動が課せられており、作業場で移動するときはもちろん、トイレに行くときでさえもダッシュを求められる。

「体罰」「食事抜き」...まるで“家畜”扱いの女性労働者たち

 このほかにも、事故を起こしたり怠慢な仕事とみなされた場合には、体罰のほか、一日中ご飯も食べずに退勤する時まで同じ場所に留め置かれる制裁が待ち受けている。

 この会社では生産を促すための手段として互いのセクションを常時競わせており、遅れを取る組には様々な不利益を与えるようにしているという。競争で最下位になった組は月1回の休日に休むことができず、工場の様々な雑用をしなければならない。

 ある時は一日中、体罰を受けなければならない時もある。大多数が女性であるこれらの労働者は、会社側のこのような非人間的な行為にも反抗できずにいる。

 こうした重労働のほか、新型コロナウイルス感染症が発生した初期には1セクションにつき3~5人の死者が発生し、深刻な状況だった。

 北朝鮮労働者の悲惨な労働環境に、投獄された経験のある中国人は「囚人たちも午前8時に作業現場に到着し、遅くとも夜9時には自分の部屋にいなければならない。ところが、これら北朝鮮女性労働者たちは中国の囚人たちよりも劣る最悪の環境で獣のように仕事をしている。このような現象は中国国内にはないだろう」と驚愕する。

 北朝鮮の女性労働者が、非人間的な待遇を受けていたことを裏付けるような現象も起きていた。

北朝鮮の女性労働者たちに起きていた「ある現象」

「中国に派遣された北朝鮮労働者の中には精神病患者が多いという。その理由は、中国に進出している北朝鮮企業の中で支配人たちが労働者を罵ったり、鞭打ちをしたりして、労働者たちが激しいストレスに苦しんでいるためだという」(別の丹東の消息筋) 

 こうした過酷な労働のあとに待っているのは、無慈悲に「ピンハネ」された給与の支払いだ。中国の会社が、現在この地域の北朝鮮労働者1人に支払う給与は日本円で約7万円だ。実際は中国の会社が北朝鮮の会社を介して支払う形をとっている。

 約7万円の給与の中で、南平地区の使用料などとして2万8000円ほどが支払われる。さらに、北朝鮮(軍部)の会社が使用料と同額を徴収し、平壌本社に送金する。こうして、北朝鮮労働者が手にする給与は、たったの1万4000円ほどだ。

「ピンハネ」された給与のうち、生活費の名目で毎月約1000円を指定された日に支払う必要がある。残りの約1万3000円は副社長(保衛員)が事務所の金庫に、封筒に名札をつけて保管しており、労働者が帰国する数日前に全額支払う。

 このようにする理由は、盗難などの事故防止のためという名分だが、徹底的に逃走(脱北)を防止するためだ。

 一方、北朝鮮の会社の管理者らは日本円で平均約6万円の給料を受け取る。それに加えてパートナーである中国会社から平均約10万円の感謝金を受け取る。この感謝金は労働者を虐待してまで生産量を増やしてくれたことへの対価だ。これら北朝鮮の管理者が受け取る月給と感謝金など16万~20万円のお金は労働者とは異なり、全額彼らのポケットに入る。

 こうした奴隷的な労働環境と、時には給与が未払いになる状況に、北朝鮮の女性労働者たちの不満が爆発し、1月のデモに発展した。今年1月の抗議デモ以後、労働者たちの月給は少し上がったが、北朝鮮当局の強い報復措置で、以前より長い時間、労働に従事させられているという。

労働者への賃金が未払いになった本当の理由

 抗議デモに参加した女性労働者は今後、海外に派遣される資格を剥奪されることになるという。今回の抗議デモに関して、戦勝貿易会社は賃金が未払いになった理由はコロナのためとしていたが、その理由は他のところにあったという。

「北朝鮮労働者の賃金を北朝鮮最高指導部の統治資金として送金したと聞いている」(匿名を求めた別の北朝鮮消息筋)

 過酷な労働環境にあえぐ出稼ぎ北朝鮮労働者たち。工場の懐事情は、未払いが発生するほど厳しい状況なのかというと、そうではないようだ。

 南平地区には、戦勝貿易会社のほかにも11もの北朝鮮国防省傘下の会社が進出しており、工場を管理する北朝鮮の保衛員などはまるで「貴族的」な暮らしをしている。

 彼らは仕事もせず、労働者の中から若くてきれいな女性を選んで“秘書”に任命し、時を選ばず男女関係に興じることもあるという。このような“秘書”たちもやはり仕事を全くせずに労働者を相手に色んな詐欺と権謀術数で女性労働者たちの金を巻き上げている。

 労働者が苦しみ、中枢が私腹を肥やす。国外でも繰り広げられる北朝鮮の“悲しい構図”に、北朝鮮の女性労働者たちはやりきれない思いを抱え、今日も長時間労働にいそしんでいる。

(朴 承珉)

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