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「編集者たちの婚活を聞いて、“住んでいる世界が違う”と思った」『成瀬は天下を取りにいく』作者が「地方の婚活」を描いた“きっかけ”

文春オンライン / 2024年10月8日 11時0分

「編集者たちの婚活を聞いて、“住んでいる世界が違う”と思った」『成瀬は天下を取りにいく』作者が「地方の婚活」を描いた“きっかけ”

(左から)新川帆立さん、宮島未奈さん

『成瀬は天下を取りにいく』で2024年の本屋大賞を受賞した宮島未奈さんの新刊は 『婚活マエストロ』 (10月刊、予約受付中)。結婚の入口である婚活を取り上げた。

 一方元弁護士で『元彼の遺言状』『競争の番人』が相次いでドラマ化されるなど次々とヒット作を送り出す新川帆立さんは、 『縁切り上等!―離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル―』 (23年刊)で、結婚の出口ともいうべき離婚を題材にした。

 今、大注目のお2人が作品やご自身の経験を通して、結婚について大いに語り合った。 『週刊文春WOMAN2024秋号』 より一部を抜粋・編集し掲載する。

◆◆◆

なぜ今「婚活」を描くのか

――今回、宮島さんは『婚活マエストロ』で結婚の入口をお書きになりました。なぜ結婚をテーマにしたんでしょうか。

宮島 『婚活マエストロ』に関しては、完全に編集者のオーダーです。担当編集者が婚活パーティーを主催する会社でバイトしていた時の話をしてくれたんですが、それが面白かった。そこでパーティーにフォーカスを当てました。婚活というより、婚活パーティーの話なんです。だから、「新感覚の婚活小説」と言っています。

新川 婚活の話で40歳の男が主人公だと聞いたから、その男が婚活をする話だと思うじゃないですか。ところがそうではなく、婚活パーティーの司会をするというから、そんな切り口思いつかないよって。

宮島 担当編集者がバイトしていた会社は、婚活パーティーで東京を元気にしようとしていたらしいです(笑)。小説に出てくる会社のように、ホームページは古いし、パーティーでは、キーボードで効果音を弾くところまで司会者一人が何もかもやる。それを聞いて、これは運営視点が面白いと思いました。

――秀逸なのは、健人が婚活マエストロの鏡原さんとサイゼリヤに行って、普段は食べないデザートをオーダーする場面。カップルになる意味の描写が最高でした。

宮島 書いて自分でもびっくりしました。ストーリーもまさかこういう展開になるとは、最後まで書かないとわからなかった。

新川 リズム派の人はそうなんですよ。私もそれです。このキャラはこうだろうなって、書いているうちに自然にわかるんです。

宮島 ライブのような感覚(笑)。1行書いて、次の1行はこれだみたいな感じで書いています。

婚活をあえて「爽やか」に書く理由

――一方で、新川さんは離婚事件を専門に扱う弁護士の松岡紬が主人公の『縁切り上等!』で、結婚の出口を書かれたのはなぜですか。

新川 元々は恋愛小説を書きたかったんですね。でも、新潮社さんにそう言ったら、流されて(笑)。「リーガル(法律もの)ですかね」と言われ、じゃあリーガルで恋愛が絡むとなれば、離婚弁護士を登場させればいいなと。

宮島 すごく面白かったです。元弁護士さんだからこういう話を書けてうらやましいと正直思ったんですけど、よくよく読んだら別に法律の要素がなくても書けるなと気づきました。

新川 そうなんです。法律要素を要求されたので、まぶしました(笑)。だから全然書けますよ。

 勝手な提案ですが、宮島さんに不倫ものを書いてほしいです。宮島さんにしかできないバランスの不倫ものが生まれると思う。『婚活マエストロ』にしても、婚活というテーマはもっと不条理に、嫌な感じで書けるのに、そうはしないバランス感覚がすごい。

宮島 婚活小説でいうと、私は『婚活1000本ノック』(南綾子著)が大好きで、これと同じアプローチだったら絶対にかなわないと思ったんです。だから違う方からいこうと意識しました。

新川 宮島さんの作品はよく「キャラ立ちしている」と言われると思うんですが、キャラというよりむしろ世界観や筆のタッチが重要なんじゃないかと思うんです。ちょっと変わったキャラクターだったとしても、変なパースをつけず、すっと普通に書くから意地悪にならない。

 リアルな人間は必ず歪なところがあるから、それを普通に書けば必ずちょっと変な人になったり、キャラ立ちしたりするはずだと私はみております。

宮島 作者がわかっていないことを。すごい(拍手)。

――『成瀬~』の主人公も、『縁切り上等!』の紬先生も、ある意味変な人です。主人公の造形はどう意識されているんですか。

新川 実は『縁切り上等!』を書くのはしんどかったんです。なぜなら、結婚はしてもしなくてもいいよね、という結論にしなければいけないということが見えていて、そこに向かって書く必要があったので。

 ただ、すごく結婚したい子が結婚しなくてもいいと気づく話だと、説教くさくて古い感じがしてしまうなと思いました。もっと自然体で、別に結婚したくないけどな、ぐらいの子をポンと出す方が現代的だと。そういうさまざまな計算のもと、作っています。

宮島 成瀬に関しては、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉なんです。「こち亀」の両さんみたいに周りを巻き込み、破天荒で、みたいな感じですね。書いているうちにこうなりました。なぜ成瀬がこんなに人気なのか、ちょっとわかりません(笑)。

編集者たちの婚活を聞いて「住む世界が違うと思った」

――『婚活マエストロ』は、婚活パーティーを東京ではなく、地方都市を舞台に描いたところが新しかったのではないかと思います。

宮島 最初に婚活というテーマを提案された時、編集者さんたちが周囲の婚活について語ってくれたんです。アプリで相手を見つけたとか、内縁関係がどうとか話してくれたんですが、住んでいる世界が違うと思った(笑)。私はずっと滋賀に住んでいて、周りで全然そういう話を見聞きしない。だから婚活パーティーを地方でやるというアイデアが浮かんできました。

 以前、テレビ番組で、新川さんが嫌だったこととして「女に生まれたことと地方に生まれたこと」を挙げていらっしゃったのを見て、その言葉はすごく刺さりました。

新川 あの放送の後、実家から「あんなこと言っちゃいけません」と電話がかかってきて、そういうところが嫌なんだよ、って(笑)。私は宮崎県育ちですが、本を読む子が周囲にいなかったし、トップ大学に進学すると今度は女というだけで色メガネで見られる。東京で男に生まれたら、もっと素直でいいヤツになっていたんじゃないか、と思ったりとか。

 スタート地点が自分の性格と遠いところにあって、心地よい場所にたどり着くのに時間がかかりました。

宮島 私は女に生まれたことはそれほどではないけど、静岡出身なので、地方で生まれたことに関しては共感できます。出版社の編集者って東京出身で、いい学校を出ている人が多いイメージ。それがめちゃめちゃうらやましかったりしますね。

※お二人のパートナー観や“リズム派作家とノンリズム派作家”の違い、新川帆立さんの新刊 『ひまわり』 (幻冬舎、今秋発売予定)について語った全文は、現在発売中の 『週刊文春WOMAN2024秋号』 にて読むことができます。

みやじまみな/1983年静岡県富士市生まれ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞などを受賞。2023年同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。

しんかわほたて/1991年アメリカ合衆国テキサス州ダラス生まれ。宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2021年に『元彼の遺言状』でデビュー。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

(内藤 麻里子/週刊文春WOMAN 2024秋号)

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