ヒャダインが語る「“常勝”日テレの凄さと“エグさ”」

文春オンライン / 2018年5月17日 17時0分

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『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(戸部田誠(てれびのスキマ) 著)

  今や視聴率王者としてテレビ界をけん引する日本テレビ。てれびのスキマさんの新刊 『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』 は、1990年代、当時の絶対王者フジテレビを日テレが視聴率で逆転できたのはなぜか? を描いたノンフィクションです。実はてれびのスキマさんがこの本を書こうと思い立ったのは、ヒャダインさんとの 文春オンラインでの対談 がきっかけでした。取材を重ねて書き上げた本を手に再び、ヒャダインさん、てれびのスキマさんに対談してもらいました。

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日テレのバラエティ番組が苦手だった

ヒャダイン 『全部やれ。』読ませていただきました。面白かったです! めっちゃ調べて、たくさんの当事者の人に話を聞いて書いてますよね。

戸部田 そうですね。今までの本『1989年のテレビっ子』などでは、当事者に直接話を聞く取材というのは一切せず、表に出ている資料だけで書いてきました。それが「テレビ」というものを描く時の適切な距離だと思っていたので。でも、今回の場合、主役は日本テレビの社員たち。裏方の方々だったので、当事者の生々しい話を聞いたほうが面白いものが書けると思って色々な方にお話を伺いました。

ヒャダイン 皆さん、快く?

戸部田 そうですね。予定時間を大幅に超えてお話しくださった方もいて、お陰様で濃い取材になりました。

ヒャダイン 僕もさっき、日テレに出てきたばかりで。汐留帰りなんです(笑)。

戸部田 ああ、『PON!』ですね! 

 僕はこの本にも書いたんですが、正直言って、日テレのバラエティ番組が“苦手”なんですよ。だから『週刊文春』の編集部から「90年代にフジテレビを逆転した日テレのことを描くことによって、現在の日テレの強さの源流を探る連載を書いてみないか」と言われたときに、ちょっと躊躇したんです。そんなときに「文春オンライン」でたまたまヒャダインさんにインタビューして、日テレのことを伺ったんです。

いい意味で物凄く“下品”

ヒャダイン 「マスが好きなものを供給している日テレというのは大したものだなと。だからいい意味で日テレって物凄く“下品”」「ビジネスとしてちゃんとやっている。テレビの種火を消さないようにしてくれているじゃないか」って答えましたね。

戸部田 そうなんです。その「いい意味で下品」というのにすごく膝を打ったし、「テレビの種火を消さないようにしている」という視点に感銘を受けたんです。それで一気に取材や執筆に対するスタンスが決まりました。

ヒャダイン そんなきっかけになれたんですね!

フジのピカピカした感じが好きだった

戸部田 ヒャダインさんは90年代頃の日テレはどのように見ていましたか?

ヒャダイン 『(クイズ世界は)SHOW by ショーバイ!!』とか『(進め!)電波少年』がありましたよね。僕の地元では(日テレではなく)読売テレビで、10チャン。やっぱり僕はフジッ子だったので、番号的にも8と10で、10のほうが後ろなので、なんか下位互換みたいなイメージは若干ありました。で、『24時間テレビ』もあまり好きではなかったですし、正直、当時はフジのブランドっぽいほうが好きでしたね。フジのピカピカした感じが好きで、ちょっとやっぱり日テレは、テロップの発明とか、ワイプの発明もそうなんですけど、押しつけがましさがあって。バラエティとかクイズ番組でも、こう楽しめ、ああ楽しめと指定している感じがあって、正直、当時はあまりハマらなかったですね。

戸部田 それは今も変わらず?

ヒャダイン いや、今は正直、日テレ見ていますね。高橋さん(利之、『行列のできる法律相談所』など)、古立さん(善之、『イッテQ!』など)の、いわばネクスト土屋世代。

 高橋さん、古立さんの演出というのは、前の世代のフレーバーを残しつつも、こちらに余白を残しながら、視聴者の代弁をしてくれている感じが強い。『(月曜から)夜ふかし』(演出・古立善之)を見ていても、キテレツな素人さんが出てきたときに、テロップやナレーションが、視聴者の一つ上をいく刺し方をしてくれる。それが今っぽいなと思って。

 こっちにこうしましょうじゃなくて、視聴者がこう思っているから、代わりにもっとえげつない刺し方しておきました、と。

『イッテQ!』もそうですよね。演者のことをいじるんですけど、それは『電波少年』のときに松村(邦洋)さんとか、出川(哲朗)さんをボロボロにしたあの感じではなくて、演者にある一定のことをさせて、その行動にチャチャを入れる。という番組作りが『夜ふかし』『イッテQ!』『行列』『しゃべくり007』『深イイ話』に共通してますよね。そこらへんがちゃんと時代とも合っているし、僕もそのスタンスが好きなので、見ていますね。

「作品」でなく「番組」をつくる

―― この『全部やれ。』を読んで印象的だった部分はどんなところでしたか?

ヒャダイン 日テレがカギ括弧付きでいう“下品”な理由というのが全部これで詳らかになりましたよね。すべてのものごとには理由はあると思うんですけど、品のなさというのが脈々と受け継がれたものなんだ、という。結果を出すための手段として「品がなくあれ」ということだったんですよね。

 そこはやっぱりフジテレビという大きな敵がいて。追い続けているうちに途中からフジテレビという存在がほぼ仮想敵に変わってきているようなところも面白い。もともとは大きな敵だったはずなのに、仮想敵に向かって自分たちを高め合っている感じが、この本を読んで、やっぱそういうことなんだなというのはわかりましたね。

戸部田 取材した日テレの方たちが共通しておっしゃるのは、自分たちがつくっているのは「作品」でなく「番組」なんだと。それって、ヒャダインさんがマツコ(・デラックス)さんの番組(『夜の巷を徘徊する』)でおっしゃってた「永代まで残る曲をつくろうと露とも思ってない」「刹那刹那で、その時代を華やかにできればいい」という考え方に共通するんじゃないかなって思うんですけど。

ヒャダイン そうですね。だから日テレにすごくシンパシーを覚えて見ているのかもしれない。なんか、自分がやっていることって後世に残ることではないし、芸術作品とも言い難いんですけど、エンタテインメントではあるとは思うのです。だからホント、瞬間風速だけ吹いて、その刹那で楽しければそれでいいということなんですよね。バラエティ番組だってそうじゃないですか。その番組での発言が命取りになって、10年、20年覚えられてしまう、なんてレアケースもたまにはありますけど、僕がクイズ番組に出て間違えようが、誰かが嫌なことをしようが、みんなバラエティだから忘れていくんですよね。

 でもその場、その場で視聴者の感情は動く。日テレのやり方というのは、反感を買うこともあるとは思うんですけど。五味さんの数字至上主義的なやり方とか。

戸部田 『エンタの神様』や『SHOW by ショーバイ』などの生みの親である五味さんは「毎分視聴率表」をつぶさに分析して演出するやり方をしてきました。

ヒャダイン とてもエグい。なので、僕、『エンタの神様』とか、正直あまり好きじゃなかったんですよ。だけど、ものをつくる側になってから見ると、すごくおもしろい作り方をするなと思うんです。容赦なくネタを編集するし、テロップ出すし、お笑いのネタでテロップ出すって(笑)。

 ネタ終わりの余韻も、ズバコンと切ってしまう。ホームビデオでももうちょっときれいにフェードアウトするわという勢いで(笑)。言葉が乾かないうちに坂上みきさんのナレーションがはいってきて、「続いては……」と。でも、すごく戦略的に作っているなというのを感じますよね。いまの視聴率が時代に合った指標なのかは分からないですけど、そこで「OK、わかりました」と腹を括って、何が何でも視聴率を取るというのが日テレなんだというのを、この本を読んで確信を得ましたね。

毎日、視聴率という成績表を突きつけられて

戸部田 今回五味さんにも話を聞きました。五味さんの言葉で印象的だったのは、テレビは毎日、視聴率という成績表を突きつけられているようなもんだと。視聴率が悪ければ自分がやってきたことを否定されているようなものでツラいんだけど、それを何かのせいにせずに向き合うんだと。『SHOW by ショーバイ!!』で初めてクイズ番組をつくったときには、他局のクイズ番組を全部見て、その仕組やセットに至るまで研究して、それをまとめたのがノート7冊分になったそうです。ヒャダインさんは音楽をつくる際、そういう売上の動向とか周りの研究とかはされるんですか?

ヒャダイン 一応チャートとかチェックしたり、ビルボードでいま流行っている音楽とかを聴いたりはします。でもそんなもんですかね。もちろん今トレンドのものは全部チェックしますけどね。

 すごいなと思うのは、僕も一曲だけ曲を書かせてもらっているBOYS AND MEN(ボーイズアンドメン、通称ボイメン)という名古屋のダンスボーカルグループ。常に売上枚数を出すことを目標にしているので、オリコンが集計するギリギリのタイミングに合わせて、えげつないまでの予約会を始めて、枚数を積むんです。

 僕、そういう五味さんとかボイメンの戦い方は全然アリだと思うんです。なんでアリかと言うと、番組が評価されているということになるわけじゃないですか。それで「見られている」ということは、スポンサーも付きやすいし、社内でも説得力が出る。ボイメンだって、CDが売れているという事実、例えばお茶の間まで浸透するような曲はなくても、売れているという事実は事実なので、番組に起用してみようかとなると思う。そういったネクストステップが踏めるというのは非常に大きい。だから日テレもそういうやり方をやっているのかなと思います。実際それでネクストステップをどんどん踏めて、新しいことにも挑戦できるわけですしね。

お金がなかったら何もできない

戸部田 (90年代当時日テレの社長だった)氏家(齊一郎)さんも「とにかく視聴率でトップを獲れ。トップになれば色々なことがついてくる」と大号令をかけていたそうです。

ヒャダイン お金がなかったら何もできないですもんね。いまフジテレビを、見ていても思います(笑)。

戸部田 4月からの新キャッチフレーズが「変わる、フジ 変える、テレビ」ですけど……。

ヒャダイン それで、ガッツポーズとっているのが坂上(忍)さんと梅沢(富美男)さんと林(修)先生という、すでに他局の番組でも出演している人たち……。新番組の初回は見ていないから、なんとも言えないんですけど、予算が少ないのかなという印象を受けてしまいます。

 予算が少ないから番組のクオリティが保てない。クオリティが保てないから、また予算が少なくなるという……、負のスパイラル。でも肝心の意識は変わらないという。

 久保みねヒャダ(久保ミツロウ、能町みね子、ヒャダイン)の3人で『フジテレビ批評』という番組に出たときに、「これからフジテレビ、どうすればいいですか」みたいなことを聞かれて。僕が「お台場にあるのがよくないと思うので、引っ越すべきです」という話をしたんですよね。「お台場ってどうですか」ってアナウンサーの方に聞いたら、「いや、私たち、入社したときからお台場だったので、他はよくわからないんですよ」と。それではダメだと思うんですよ。比較するのもやめてる。

 例えば、夜中の飲みのつき合いとかって、お台場にいたらしんどいじゃないですか。パッと行くところが、汐留(日テレ)だったら新橋とか、ざらにあるわけだし、六本木だって近いし。だから六本木に引っ越したテレ東なんて、まさに大成功だと思うし。そういった飲みとか、人間としてのコミュニケーションというのをないがしろにしてはいけないなと思うんです。

飲み会で業界の垣根を越える

戸部田 今回の本で改めて光を当てたいと思ったのが加藤光夫さん(故人、『元気が出るテレビ!!』など)なんです。

ヒャダイン すごい方だったと初めて知りました。

戸部田 取材したほとんどの方が、自分の恩人だったり、功労者として名前を挙げるのが加藤さん。90年代には日テレの編成部長として活躍された方です。

 その加藤さんはすごく飲みの席を大事にされる方だったそうです。「加藤光夫の三段重ね」などと呼ばれるほどで、たとえばスポンサー、代理店、日テレ関係者それぞれと同じ日に時間をズラして飲む。すると、そのまま残った人と新たに来た人との交流の場に自然となっていったっていう。それが風通しの良さにつながって日テレが元気になっていく過程としてすごく重要だったんじゃないかと思います。

ヒャダイン フジテレビも河田町にあった頃は、そういうことができたと思うんです。分岐点ですよね。

大部屋戦略が生み出すものとは

戸部田 じつは今回、本を書く過程でフジテレビ側にも取材を行ったんです。それでフジの方がおっしゃっていたのは、河田町の社屋では、1フロアに制作、編成、営業が全部まとまっていたことが大きかったと。

ヒャダイン NHKの『新春テレビ放談』で、テレ東の伊藤さん(隆行、『モヤモヤさまぁ~ず』など)がいらっしゃっていて、いろいろ聞いたんですけど、やっぱり大部屋らしいです、六本木の新社屋。そこは縦割りにしないようにと。ああ、この会社はなんて安泰なんだろうと思いました(笑)。

戸部田 フジテレビはその頃、1フロアもそうなんですけど、やっぱり編成がちゃんと部屋の真ん中にあって、しかも年齢もあえてバラバラに配置して、部署の違う人同士を話しやすくしていたと。なるほどなと思いました。

ヒャダイン どうしてもフジの話になっちゃいますね(笑)。でも日テレって、節約上手っすよね。日テレのギャラが高くないというのは、芸能人の中では言われますね。

戸部田 え、そうなんですか(笑)。

ヒャダイン でも、それが日テレのえげつなさの真髄じゃないかと。

戸部田 ほう、それはどういうことですか? (第2回へつづく[5月18日公開予定])

 

『全部やれ。』を書くきっかけとなった対談「“テレビっ子”ヒャダインが語るテレビのこと」
http://bunshun.jp/articles/-/1236
http://bunshun.jp/articles/-/1237
http://bunshun.jp/articles/-/1238

 

ヒャダイン/前山田健一。1980年、大阪生まれ。3歳の時にピアノを始め音楽キャリアをスタート。京都大学を卒業後、2007年より本格的な音楽活動を開始。ももいろクローバーZ、私立恵比寿中学やでんぱ組.incなど様々なアーティストへ楽曲提供を行う。自身も『PON!』(日本テレビ)などTV、ラジオレギュラー多数。

戸部田誠/1978年生まれ。2015年にいわき市から上京。ライター。ペンネームは「てれびのスキマ」。お笑い、格闘技、ドラマなどを愛する、テレビっ子ライター。『週刊文春』『週刊SPA!』『水道橋博士のメルマ旬報』などで連載中。新刊は日テレがいかに絶対王者フジテレビを逆転できたのかを描いた『全部やれ。』、主な著書に『笑福亭鶴瓶論』、『1989年のテレビっ子』など。

(「文春オンライン」編集部)

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