綾野剛が“野生のバカ”になった理由は…『MIU404』星野源との“名バディ”が生まれるまで〈映画『ラストマイル』が話題〉
文春オンライン / 2024年10月8日 11時0分
「伊吹」と「志摩」の“バディ”を演じた綾野剛と星野源(TBS系『MIU404』公式Xより)
〈 当時31歳の石原さとみは“ほぼすっぴん”で…6年前の『アンナチュラル』が“予言ドラマ”と言われるワケ〈映画『ラストマイル』が話題〉 〉から続く
映画『ラストマイル』が公開35日間で観客動員数324万人、興行収入46.3億円を突破するロングヒットを続けている。ドラマ『アンナチュラル』(2018年)、『MIU404』(2020年/ともにTBS系)の出演陣が一堂に会するという豪華さも話題になっているが、なぜ3作品はこれほど支持を集めているのか? その背景をライターの田幸和歌子氏が読み解く。
『アンナチュラル』の4年後に生まれた『MIU404』が、より挑戦的な作品だった理由、綾野剛と星野源演じる“バディ”の誕生秘話とは。(全3回の2回目/ 続きを読む )
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「男2人のバディもの」という依頼で生まれた『MIU404』
『アンナチュラル』の放送終了から2年後。脚本・野木亜希子、演出・塚原あゆ子、プロデュース・新井順子らを中心にした制作チームが再集結した。野木の「10年越しの企画」として誕生したのが、綾野剛と星野源W主演の『MIU404』だった。
舞台は、警視庁・第4機動捜査隊(通称:4機捜)。働き方改革の一環で作られた架空の臨時部隊で、勤務は24時間制で次の常盤は4日後、「初動捜査の24時間」という限られた時間の中で事件解決を目指すのが仕事だ。
本作の出発点は、野木のもとにTBS系から「また『アンナチュラル』チームで何か作ってください」「男2人のバディもの」というざっくりした依頼あったことだったという(『アンナチュラル』の成功が切り拓いた10年越しの企画 野木亜紀子が語る、『MIU404』制作の背景—「Real Sound」2020年6月26日)。
『アンナチュラル』と比べて挑戦的な作品だった
コロナ禍で撮影の中断も余儀なくされたというが、派手なカーチェイスもあるスピーディーな物語は躍動感たっぷりでスリリングだった。また、非常に完成度が高くまとまっていた『アンナチュラル』に対し、『MIU404』は挑戦的な作品でもあった。あえて1話ごとに演出のトーンを変え、あおり運転や虐待、外国人留学生の労働問題、女性の貧困、違法ドラッグ、フェイクニュースなどといった社会問題にも深く切り込んだ。
重厚なテーマを扱いながらも、決して玄人向けの仕上がりにはせず、大ヒットに結び付けた要因には、キャラクターの魅力——人間関係の“エモさ”があったからだろう。特に、女性を中心に視聴者の心をとらえたのが、伊吹×志摩という「動×静」のバディだった。
綾野剛演じる「動」の伊吹と、星野源演じる「静」の志摩
「動」を担うのは、綾野剛演じる機動力と運動神経がピカイチの伊吹。勘や感覚を信じる男で、劇中の言葉を借りれば、「野性のバカ」だ。綾野の身体能力の高さをフルに活用し、物語全体にエネルギーを吹き込む効果ももたらしている。
一方、「静」の存在である志摩(星野源)は、冷静で鋭い観察力かつ社交力を持ち、先回り思考。言語化が苦手ですぐ話が脱線する伊吹に対して、論理的な志摩。すぐに人を信じる伊吹に対して、自分も他人も信用していない志摩。そう、2人は見事に正反対だ。
このキャスティングについて、野木は「どうせやるなら最近見てない感じの2人にしよう」と思い、「今までとは違う方向のあて書き」をしたとインタビューで語っている。たとえば、伊吹が野生みあふれるキャラクターになったのは、実際に警察に話を聞いたところヤンチャな人が多かったと感じたのがきっかけだった。さらに、綾野には「本当の“悪”を背負うような役や深刻な役が多かった」イメージがあったため、「明るいワンコっぽさを」出すようにしたという(前出の「Real Sound」)。
綾野と星野の“アドリブ”でバディの魅力が増した
さらに伊吹と志摩は、本人たちのアドリブで魅力が増した面もあったという。例えば、第1話では、志摩が伊吹に振り回され、冷静さを失うシーンがある。
〈「野性の感覚だけでしゃしゃってんじゃねえよ!(ゴミ箱を蹴飛ばす)……俺までマウントとっちゃったじゃねえかっ」〉
つい感情を爆発させてしまい恥ずかしそうにする志摩と、それを見て「なんだかテンション上がってきた~!」となぜか嬉しそうな伊吹。丸ごと可愛いし、今後の二人の関係性の変化が楽しみになるシーンだった。
この、星野がゴミ箱を蹴飛ばすのも、それを受けて綾野が「テンション上がってきた!」と言うのも、台本にはなく二人のアドリブだったことをプロデューサーの新井はインタビューで明かしている(「マイナビニュース」2020年6月27日)。
親子のような関係、シスターフッド…“名コンビ”があちこちに
本作に登場する“名コンビ”はこの2人だけではない。警察庁長官の息子のキャリア新人・九重(岡田健史、現在は水上恒司)とベテラン班長・陣馬(橋本じゅん)の親子のような関係性。努力で得た実績も正しく評価されず、容姿や性別によるものと判断されることに憤りを感じる隊長・桔梗(麻生久美子)と、桔梗が守ろうとする裏カジノ事件の情報提供者・羽野麦(黒川智花)のシスターフッドも見どころだった。
“バディ萌え”や“人間関係萌え”でテンポの良さを保ちつつ、事件の加害者・被害者それぞれの人生を深く濃く描く巧みさ。そしてそれらは表裏一体で「スイッチ」(誰と出会うか、出会わないか)で変わること、「スイッチ」1つで人生を間違えることはあっても、そこからまた人は変われるという“希望”を描いた『MIU404』。社会問題を扱いつつも「要素」の提示に終始せず、徹底した取材をもとにエンタメ作品に昇華させる――そうした野木の手腕が遺憾なく発揮された作品だった。
野木作品が与えた影響
しかし、『アンナチュラル』『MIU404』などがヒットした影響からか、近年は作り手の得手不得手を問わず、とりあえず社会派のニオイだけ漂わせる……というような作品が増えてしまったようにも思える。エンタメとして定番ヒット要素をおさえつつ、社会問題も、人間ドラマも描くというのは、膨大な情報量を縦軸と横軸で縦横無尽に編む野木のような“超絶構成力”が求められるのだ。
映画『ラストマイル』が封切られたのは、そんなふうに、野木亜紀子という脚本家が描く物語の“強さ”を改めて感じていた最中のことだった。( #3に続く )
〈 石原さとみ、綾野剛&星野源ら豪華キャストは「意外と出ない」…? 映画『ラストマイル』が日本社会につきつけたもの 〉へ続く
(田幸 和歌子)
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