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著名人なりすまし広告には巨額制裁金を課すしかない《GAFAに甘すぎる日本の法体制》

文春オンライン / 2024年10月4日 6時0分

著名人なりすまし広告には巨額制裁金を課すしかない《GAFAに甘すぎる日本の法体制》

メタ本社 ©Sipa USA/時事通信フォト

著名人になりすました投資詐欺がSNSで急増している。自身の画像が悪用された実業家の前澤友作氏らは、なりすましの排除に本腰を入れないプラットフォーマーを厳しく批判しているが、のらりくらりとした対応が続いている。

◆◆◆

投資詐欺がSNSで急増

「グローバルの数字しか出せないというが、日本語で対応した件数なら回答できるはずじゃないか」

 今年3月、プラットフォーム(PF)各社へのヒアリングが行われた総務省の有識者検討会。質問をのらりくらりとかわすメタ社幹部に、検討会の委員らはいらだちを隠せなかった。

 質問者の念頭にあったのは、近年、SNSで急増している著名人なりすましの投資詐欺広告問題だ。自身の画像が悪用された実業家の前澤友作氏がX上でメタの無策ぶりを批判して一気に問題が注目され、報道も過熱していた。

 警察庁によると、SNS型の投資詐欺被害はここ数年、急増している。2023年の被害は2271件、約278億円にのぼり、被害者の4割は、メタが運営するフェイスブックかインスタグラム上の広告を見たのがきっかけで事件に巻き込まれたという。蔓延の背景には、事前審査の緩さに加え、掲載後のチェック体制の脆弱さもあるとされる。メタが日本語を理解できるコンテンツモデレーターを置いていないのではないかという疑いも指摘されていた。コンテンツモデレーションとは、違法情報やポリシー違反の情報を削除したり、利用者のアカウントを停止したりする管理のことだ。

「広告審査は広告によって大きな収益を上げているPFの責務だ」。検討会の委員の1人、弁護士の森亮二氏はこう語る。

 だが、メタの日本での対応状況を確認しようと意気込んだこの日のヒアリングは「全くの肩透かしに終わった」(森氏)。

 日本でのポリシー違反の件数やそれに対する削除などの対応件数を質問しても、メタは「コミュニケーションはインターネット上で行われるので、どこの国のものか特定できない」などと意味の通らない弁明に終始し、「では日本語で行われた違反への対応件数を」と求められても、「日本語は世界中で使われているので」などと正面から答えようとしない。

 実はメタは昨年10月、EU(欧州連合)向けに公表した透明性レポートの中では、EU域内で使われる公用言語ごとに、その言語を専門とするコンテンツモデレーション担当者の数を明らかにしている。例えば、フェイスブックの投稿監視はドイツ語で対応可能な人員が223人、フランス語だと211人いる一方、ラトビア語は2人だけ、アイルランド語はゼロ……といった具合だ。委員の1人がそれを指摘し、「(EUと同じように)日本語を専門とするコンテンツレビュアーの数を教えてほしい」と注文した。だが、メタからの回答はないままだ。

「なめている」のか?

「日本なめんなよマジで」。前澤氏は4月16日、X上でメタへの怒りをこうぶつけていた。ネット上の反応などからは、多くの人が共感しているようにもみえる。

 メタは日本をなめているのだろうか。筆者は必ずしもそうは思わない。単に、営利企業に対してコストのかかる作業を行わせるだけの法制度が、日本に存在しないだけである。

 メタは現在、コンテンツモデレーションの99%以上をAIに委ねていると説明している。AIによる自動審査の精度は十分ではないため、最終的にその国の言語や文化、社会状況を把握する人間が目を通さなければ、対応漏れや過剰な削除は当然に起きるだろう。人間を雇えばコストは膨らむ。それでも、そのコストをかけなかった場合、巨額の制裁金を科されるなど、より大きなコストの発生が予想され、それが得られる利益を上回ると判断すれば、企業は対応するはずだ。

 メタが、日本では開示しない言語ごとの対応人数をEUでは開示するのは、EUにデジタルサービス法(DSA=Digital Services Act)という強力な法律が存在するからだ。オンライン上の情報空間の安全とユーザー保護を目的に、PF事業者らに偽・誤情報や違法なヘイトスピーチなどのコンテンツについての一定の対応を義務付けるものだ。そして違反した場合は最大で全世界前年売上の6%の制裁金が科せられる。メタの2023年の世界総売上は1349億ドル。仮に6%の制裁金が科されるとすれば、今のレートだと日本円にして1兆2000億円になる。

 DSAは今年2月に全面適用されたばかりだが、欧州委員会は早くも4月30日、メタに対してDSA違反の疑いで調査を始めたと発表している。違反が疑われる行為の中には、日本と同様、詐欺広告に対する対応不備も含まれているという。メタは期限付きで報告を求められており、その回答が不十分であれば制裁金が科される可能性がある。

 日本では現在、冒頭の総務省の検討会でDSAに相当する法制度整備について議論している途中で、偽・誤情報や偽広告のモデレーションに関するPF規制は現時点では存在しない。今年5月に公布された「情報流通プラットフォーム対処法(改正プロバイダ責任制限法)」は、権利侵害情報については削除申請に対し一定期間内に判断し、結果を通知する義務など(迅速化規律)を定めているが、詐欺広告は違法情報に位置付けられていないため、この対象にはならないだろう(前澤氏のように写真を使われたケースは肖像権侵害に当たるので対象)。したがって、対応コストが非対応コストを上回ることが明らかな状況下で、対応しないというメタの選択は企業としてはある意味合理的なのである。

 なりすまし広告については著名人が声を上げたため注目されたが、PFの台頭で日本の利用者に不利益が生じているのにいつまでも手当てされない、ということは今回に限ったことではない。ただ、それらは日本政府の規制に対する慎重な姿勢に起因するのではないかというのが、PF問題を取材してきた筆者の問題意識である。さらに、規制の強化に強く反対しているのが日本の事業者であることも珍しくなく、結果として本来なら競争相手のはずの海外PF事業者を守っているのではないか、と思うこともしばしばである。

本記事の全文は、「文藝春秋」2024年10月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(若江雅子「 日本はGAFAに甘すぎる 」)。

 

全文 では、下記の内容について詳細に伝えています。

・端末等識別子を使ったデータ収集の問題

・サードパーティに縋る日本の業者

・機能していない制裁

・課徴金制度に反対する国内事業者

・EUの「対PF戦略」

(若江 雅子/文藝春秋 2024年10月号)

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