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「緊張していない。さすがだよね」積極的な指し手で白星スタートの西山朋佳女流三冠、次の相手は「絶対勝つ」宣言

文春オンライン / 2024年10月1日 11時0分

「緊張していない。さすがだよね」積極的な指し手で白星スタートの西山朋佳女流三冠、次の相手は「絶対勝つ」宣言

注目の対局とあって、多くの報道陣が集まった

〈 西山朋佳女流三冠はプロ編入試験第1局で勝利 意外と知らない「女流棋士」と「女性棋士」の違いとはなにか 〉から続く

 西山朋佳女流三冠による棋士編入試験。後編では、対局現場の雰囲気がどのようなものだったかを書いてみたい。

 朝の9時半過ぎ、東京・将棋会館には既に多くの報道陣が集まっていた。大きな勝負はたいてい「特別対局室」で行われるものだが、今回は「高雄」。将棋会館4階の高雄・棋峰・雲鶴は3部屋を合わせて大広間と呼ばれることが普通で、大広間すべてを使えば特別対局室よりは広い。もっとも、広く使うならば大広間の真ん中である棋峰を対局室にすればよかったのにという声もあった。これは両サイドに広く使えるが、床の間に当たる箇所がなくなるので、見栄えは落ちる。一長一短か。

先手に強い西山が後手番に

 振り駒の結果、西山の第1局は後手番となった。これで第1、3、5局が後手番、第2、4局の先手番が確定する。有利とされる先手番が少ないのは懸念材料だが、過去の棋士編入試験はいずれも受験者が第1局に後手番を引いており、そこで勝ったものが合格している。

 1局ごとに対戦相手が異なる編入試験と、同一の相手と戦うタイトル戦を比較するのはおかしいが、タイトル戦の五番勝負では基本的に第1局で先手を引く方が得だと見られることが多い。というより、もし0勝3敗のストレートで負けた時に先手番1回、後手番2回でそうなったのがモヤモヤするということのようだ。これが七番勝負だとストレートで負けても先後が2回ずつなので納得できる(せざるを得ない)ということである。

 特に西山は先後の勝率差が大きいと言われている。編入試験第1局開始の時点で、公式戦での先手番勝率は29勝19敗の6割4厘、女流棋戦での先手番勝率は108勝27敗の8割ちょうどであるのに対し、後手番だと公式戦は13勝23敗の3割6分1厘、女流棋戦では87勝40敗の6割8分5厘となっている。ちなみに試験直前までの24年度公式戦全成績をみると、先手勝率が5割4分ほどだ。

AIの示す評価値はまったくの五分と五分

 開始時の写真を撮り、大広間を退室。第1局の立会人を務めた中川大輔八段が詰める控室は3階の一室に用意されていた。この3日前に獺ヶ口笑保人新四段と吉池隆真新四段の2人がプロ入りを決めての初仕事として自らの調査書を書いていた部屋である。

 戦型は西山が得意とする三間飛車に。高橋は持久戦を目指した。先手玉は場合によっては居飛車穴熊への組み換えも見ている。序盤の進行について中川八段は「2人とも指し手が速いよね。戦型は予想していたんでしょう」と解説。続けて対局開始時の様子を「西山さんは場数を踏んでいるから緊張していないように見えました。さすがだよね。高橋君はソワソワしていた」と語った。

 序盤の注目点は30手目、ここで西山が指した中央への銀上りを「後手番でも積極的だよね。西山さんらしい。局面を自ら引っ張る姿勢がありありと出ています」と中川八段。

 もっとも、形勢は難しい。昼食休憩の時点でAIの示す評価値はまったくの五分と五分だ。だが再開後に西山が指した着手で、形勢はやや先手側に振れた。ここから本格的な攻防に突入する。

角打ちが勝敗を分けた

 午後になり、控室を千葉幸生七段が訪れた。「驚いた。(広めの)飛燕・銀沙じゃないんですね。次から西山さんの応援に女流棋士が多く来たらどうするんだろう」と。そして中川八段との検討が始まる。局面は直前に高橋が受け身の手を指した影響か、互角あるいはやや後手が指せるという様相を呈していた。

 この日に自身の対局があった棋士も試験の様子は気になるようで、たまたま会館内で筆者と鉢合わせした時「どうなってます?」と聞かれた。思わず「西山さんが指せるようです」と答えてしまう。もちろん離れた場所での会話だが、対局室に聞こえないように小声で話す。

 勝敗を分けたのは90手目。西山が端へタダの角を王手で放り込んだ瞬間である。タダだがこの角は取れない。先手玉があっという間に寄ってしまう。高橋は取れる角を取らずに辛抱したが「角を打たれた瞬間、負けたと思った」と振り返っている。

 もっとも、厳密にはこの角打ちで決まったわけではない。西山自身は「本譜も負けていてもおかしくないかと思った」と振り返っている。角打ち以降は基本的に後手勝ちで推移していたが、先手に一瞬のチャンスが訪れた局面もあった。中川八段は「勝因は角打ち。ただ以下も対局者の心理としては難しい。先手に一瞬チャンスが訪れた局面も、それを生かせる手はいかにも指しにくい」と解説した。

棋士編入試験で幸先のいいスタート

 かくして西山は大きな白星を上げた。終局直後のインタビューでは「今日までに自分のできることはやるつもりで過ごしていました。高橋四段は受け将棋の居飛車党という認識で、難しい局面で力強い手を指されている印象がありました。今日の将棋は一手一手難しく、模様を張れた局面もあったと思いますが、形勢は好転していないのかと思っていました。ずっと気が抜けない将棋で、最後が幸運な面も大きかった。次局以降も準備して全力を尽くせるようにしなくてはいけないのかと思います」と語った。

 敗れた高橋は「本局は33手目あたりまでは準備をしていましたが、中盤の押し引きでもっとうまく指せなかったかなという思いはあります。終盤の入り口では駒損だったので、長引くと苦しくなる意識がありました。本局は自分の持っているものをすべて出し切って指しました。結果は今の自分の現在地かなと思います」と振り返った。

小山四段は「年代も実力も近く、ライバル」と評した

 この日のABEMA動画中継では小山怜央四段が解説を担当していた。小山四段も棋士編入試験を突破してプロ棋士になった1人である。またアマ時代には編入試験の受験資格獲得のため、プロ入り後はフリークラス脱出のために戦っている最中、西山とぶつかった経験もある。この2局とも双方にとって大きな勝負だった。後日、改めて話を聞いた。

「自分が編入試験の第1局を勝ったのは、もちろん大きかったんですけど、指した将棋の内容が悪くなかったので、この調子で頑張ればという思いもありました。プロになってからの対西山戦は、編入試験までもうすぐというのはもちろん知っていたんですけど、こっちもフリークラス脱出がありましたから。それに相手にとって大きな一番は頑張らなくてはいけない、いわゆる『米長哲学』ですよね。終盤まで粘らなくてはという思いで臨んでいました。

 自分にとって西山さんは年代も実力も近く、ライバル的な意識はありますね。試験の第1局については、大舞台でああいう手(端への角捨て)が指せるのは、心身ともに充実していることなのかと思います」

第2局は「僕は絶対勝つ」と宣言する山川泰熙四段と

 筆者は試験の2週間ほど前、8月27日に行われた西山の将棋を間近で観戦していた。女流名人リーグの対渡部愛女流三段戦である。さらにこの女流名人戦のわずか2日前に、西山は青森へ遠征して倉敷藤花戦を指していた。

 感想戦終了後、「忙しすぎませんか?」と尋ねると、「そうですね。でもこれからがもっとですから」という返事が。以降、編入試験までの対局スケジュールだけを書き出すと、

・8月31日、白玲戦第1局で福間女流五冠に勝ち

・9月4日、倉敷藤花戦準決勝で伊藤沙恵女流四段に敗戦

・9月6日、女流王座戦挑決で香川愛生女流四段に勝ち

 という状況だった。そのような中、対渡部戦の感想戦の最中に「千日手でも」と西山がつぶやいた瞬間があった。これほど対局が続いているのに、千日手も非としない。心身が充実していなければできないことだろう。

 まもなく第2局の山川泰熙四段戦が行われる。山川四段の師匠である広瀬章人九段から「山川は『僕は絶対勝つ』と言っている」という話を聞いた。世間の将棋ファンは西山応援が圧倒的多数だろうが、山川四段は自身のプライド(極論を言ってしまえば、試験官にかかっているのはこれだけである)にかけて意地を見せてほしいし、西山にはそれを乗り越えて自らの夢をつかんでもらいたいと願う。

写真=相崎修司

(相崎 修司)

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