「“女性版安倍”の高市氏じゃなくてよかった…」石破茂新総理(67)の誕生に韓国は右も左も歓迎ムード…始まりは「ノーアベ」だった?
文春オンライン / 2024年10月1日 11時0分
石破茂氏 ©︎時事通信社
「石破茂総裁に決まって、ほっとしました」
石破茂氏が勝利した自民党総裁選を注視していた韓国政府のある関係者は、安堵した口ぶりでこう話した。
「決戦投票で逆転勝利したときは、思わずやったーと声をあげました。靖国神社参拝を明らかにするなど、高市早苗氏は韓国で“極右”として認識されています。高市氏が首相になれば韓日関係はかみ合わず、また関係が悪化するかもしれないとやきもきしていました」
「安倍元総理を批判し、韓日関係に前向き」
韓国の大統領府も、石破総裁誕生に歓迎ムードだった。決選投票の決着後、すぐに「新しく出帆する日本内閣と緊密にコミュケーションをとりながら韓日関係の肯定的な流れをつなげていくためにつづけて協力していく」などのメッセージを寄せた。
ニュースも速報で報じられた。聯合ニュースは「日本の次期首相に韓日歴史認識ハト派の石破茂」と歴史認識について触れて報じ、進歩系のハンギョレ新聞は決戦投票の様子を詳細に紹介。なかでも目を引いたのが記事中の写真で、「こわもて」のイメージからはほど遠い、猫を抱きかかげた満面笑顔の写真(フェイスブックから引用)だった。
保守系の朝鮮日報も「日本の次期首相に石破茂…右翼勢力とは異なる新しい歴史観」と今までの首相と異なる歴史観について触れ、石破総裁が自身のブログに書いていた「我が国が敗戦後、戦争責任と正面から向き合ってこなかったことが多くの問題の根底にあり、それが今日様々な形で表面化している」という言葉を引用した。
翌朝もトップで報じ、石破新総裁についての報道は止まらず、「非主流」「ミスター辛口」、「穏健派」というキーワードが並んだ。
保守系の東亜日報は「保守強硬派だった安倍元総理を批判し、非主流だった石破氏は有力政治家の中でも韓日関係に比較的前向きであるという評価がある」と書き、石破氏が2017年に同社のインタビューで「歴代総理が謝罪の意思を明らかにしても韓国で受け入れられないことへの挫折感は大きい。それでも納得してもらうまで続けて謝罪するしかない」と語ったことを紹介。日韓関係の前進に期待感をにじませた。
韓国では、石破氏の歴史観への注目がやはり大きい。中道系の韓国日報も、21年に同社が開催した国際フォーラムの席で石破氏が語った言葉を引いた。「領土と歴史問題については真剣に議論するが、両国の共通の課題解決のためにはさらに協力しなければならない。歴史問題から目を背けるのではなく、長い時間をかけてじっくりと議論しよう」というもので、靖国神社に参拝したことがないことも強調した。
進歩系のハンギョレ新聞も、日韓の歴史問題に対しては自民党の政治家の中では前向きな姿勢を保っていると評価している。しかし一方で「自民党の保守政治家として、日本政府の基本的な立場から抜け出すことは難しいだろう」とし、「靖国神社参拝はしないが、徴用工について(韓国の)最高裁判所が出した損害賠償判決は国際法違反として認めず、独島(竹島)領有権を主張していることからもそれが窺える。就任後は党内の保守派を今以上に意識する可能性があるだろう」と慎重な見方を示した。
同紙の人物像の欄では、政界入りからの歩みを丁寧に追い、離党し復党したこと、党内の主流派を辛口で批判して非主流の道を歩んできたこと、2020年には安倍晋三元首相のコロナへの不誠実な対策を批判して「このままでは自民党が終わる」と批判したエピソードなどを紹介している。
また、日本では珍しいクリスチャンであること、そして日本政界きっての鉄道マニアであることにも触れていた。
自衛隊の憲法明記やアジア版NATOには懸念の声も
歴史観などについては概ね肯定的な評価だったが、石破総裁の専門である安保分野については警戒感が漂う。東亜日報は「画期的な変化は難しいだろう」とし、「防衛大臣も務めた安保専門家だが、自衛隊の憲法への明記やアジア版NATO推進など韓国が簡単には受け入れがたい主張もしており、これが韓日の葛藤の火種にもなりうる」と牽制した。
ハンギョレ新聞も「自衛隊を国防軍として規定する憲法改正を主張するなど安保政策についてはタカ派」と紹介。進歩系のMBCは「日本の石破 アジア版NATO 核共有論争 米国と摩擦」と報じている。
「韓国で“女性版安倍”といわれて人気がありません」
政策分野によって評価は分かれるが、それでも進歩系から保守系までのメディアの行間からは、石破新総裁への“期待”がにじみ出ている。韓国では安倍元首相に対する拒否感が強く、「ノージャパン」のデモでは「ノーアベ」というプラカードも使われた。その安倍元首相と対立していた時期が長い“自民党のアウトサイダー”という立場が好感されていることは間違いない。中道系紙記者は言う。
「自民党の総裁選は韓国でも注目されていましたが、次期首相として待望されていたのは石破総裁でした。高市氏は、韓国で“女性版安倍”といわれて人気がありません。高市氏が有力候補としてあがってきたとき、韓日関係に携わる界隈は関係悪化の可能性に騒然としていました」
10月1日には石破茂新内閣がスタートするが、韓国がまず注目しているのは、ユン・ソンニョル政権が元徴用工問題で提案した「第三者弁済(元徴用工裁判の賠償金を代わりに支払う方式)」へ石破政権がどう出るかだ。韓国政府は日本企業からの寄付を期待しているが日本側が応じていないためだ。
前出の中道系紙記者は、「しばらく様子見といったところでしょうか」と言う。
「裏金問題などで自民党が支持率を大きく落とした状態です。解散選挙の結果は厳しいものになると予想されている。せっかく石破氏が総理になっても、総選挙で下野してしまえば元も子もありません。現在は解散選挙の日程や議席予想に注目が集まっています」と話していた。
(菅野 朋子)
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