「自分が積極的に応援するタイプの選手ではなかった…」熱烈なスワローズファン尾崎世界観が明かす“青木宣親”への本音
文春オンライン / 2024年10月2日 11時0分
©文藝春秋
現役引退を発表した東京ヤクルトスワローズ・青木宣親外野手が10月2日、引退試合を迎える。MLBでの6年間を含むプロ21年間で、積み上げたヒットは歴代5位の2728本(9月30日現在)。
稀代のバットマンの引退に寄せ、熱烈なスワローズファンであるミュージシャンにして作家、尾崎世界観にその思いを聞いた。9月10日に共著の『 青木世界観 』(文藝春秋)を上梓した尾崎にとって、青木宣親とはどのような存在なのか――。(全2回の1回目/ 続き を読む)
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この時期なので、嫌な予感はしたんですが
――引退の一報はどのように受け止めたのでしょうか。
尾崎世界観(以下、尾崎) 発表の数日前に連絡をいただきました。ライブで地方に行っていて、空港に着いたタイミングで電話が来ていて……。この時期なので、嫌な予感はしたんですが。そんな風に連絡いただけて嬉しかったけれど、やっぱり一番は寂しい、残念という気持ちです。自分が「今までお疲れさまでした」と言うのも何かおこがましいと思ってしまう。ずっと見ていたいと思って応援していたので、単純に悲しむのが一番正しいのかなと今は感じています。
――引退を発表したはずなのに、出場選手登録されて以降はヒットを重ねています。
尾崎 先日のDeNA戦でもウェンデルケン投手のインコースのもの凄いストレートを打っていましたよね。ビジター球場でもあれだけ凄い歓声で迎えられて、各球団の監督や選手からリスペクトされているのが伝わってくる。本当に凄い選手だと改めて感じます。
――『青木世界観』は第9章のテーマが「引退」です。年齢を重ねることや、青木選手が考える引き際ということに率直な思いを話してくれています。
尾崎 取材はだいぶ前で、当時は自分もまだ、遠いところにある出来事として聞いていました。あの時、青木さんはどういう思いだったのか……心は決めていなくても、言葉にすることで気持ちの輪郭がよりはっきりしたのかもしれない。あの頃に戻れるなら、改めて質問してみたいことが沢山あります。
積極的に応援するタイプの選手ではなかった
――青木選手の存在というのは、尾崎さんの中でどういう風に変わっていったのでしょうか? 本の冒頭には2005年から2011年のスワローズ時代について「自分が積極的に応援するタイプの選手ではなかった。(中略)正確に言えば応援すらさせてもらえなかった」と書かれています。
尾崎 突然出てきて、あっという間に中心選手になって、圧倒的な成績を残していたという感じです。小学生の頃からヤクルトを見続けてきてそんな選手は見たことがなかった。自分の中にデータがないから、まるで助っ人外国人選手を見ているようでした。しかも、淡々と自分ができることをやる、そんなクールなイメージで“応援すらさせてもらえなかった”というのがぴったり当てはまります。
――メジャーリーグを経て、2018年にスワローズに復帰した後はどうでしょう?
尾崎 まずヤクルトに帰ってきてくれたことに驚きました。朝の5時に友達から連絡が来て、ニュースを見た時の喜びは今も忘れられないです。特に前シーズンが96敗した年だったので。そこからまた、当たり前のように成績を残して、その上でプレースタイルも大きく変わっていた。まるで別人になっていて、すぐに強く惹きつけられました。
――こんなに熱い選手だったんだ、と驚くことも多かったとか。
尾崎 そうですね。喜怒哀楽の全てが、自分のためというより、チームのためにあるというのが印象的でした。メジャーに行く前は自分のための感情すら押し殺しているイメージだったので。
――本を作るにあたって、今まで分かり得なかった青木選手の内部を掘り下げていくような時間になったと思います。「青木宣親」とはどんな人間だと感じましたか?
パワプロで言うと…
尾崎 青木さんは本当に“変わらない”方だと思います。取材もそうですが、会見もヒーローインタビューも、おそらくベンチで選手と話している時もそうだと思う。人として安定していて、周りに対しての感覚が一定なんです。でも、実はそう見えるだけで、青木さんの方では細かい微調整をしているはずです。
ちょうど打席で相手投手に合わせて少しずつフォームを変えていくように、常に自分を見つめ直しながら、相手に対して自分をフィットさせていく。それも堂々と振る舞いながら、自分というものを相手に一番いい状態で当てていく……。パワプロで言うと、人としてのミートカーソルが本当にデカいんです(笑)。
――『青木世界観』は「チャンス」、「才能」、「技術」など9章あり、各テーマを通してまさに青木選手の「世界観」を窺い知ることができます。
尾崎 タイトルだけは最初から決まっていました。これは青木さんが決めたものなんです。ある日、「青木世界観がいいと思う!」って。
――尾崎さんが最も印象に残っている部分はどこでしょうか?
尾崎 この章、というよりは全9章を通して、どんな角度から話を聞いても、まったく同じところにたどり着くのが印象的です。それだけプロ野球選手は1つのところに向かって考え、行動し、積み重ねている。あらためてなぜ自分がプロ野球を好きなのか、青木さんが好きなのかが分かりました。あとは高校から大学のはじめくらいまでの部分は、まだ固まり切っていない時期の青木さんを知ることができて嬉しかったです。
――青木選手自身も高校時代は「とてもプロ野球を目指せるような選手ではなかった」と言っていました。高校の修学旅行で部屋を抜け出して……というエピソードも楽しいです。
尾崎 その頃の青木さんと、今の青木さんが繋がる感じがしないんですが、あるところで急に変わる。凄いところまで行く人はそういう“向こう側に選ばれる”瞬間があるのかもしれないですね。選ばれて、残り続ける。もちろん、青木さんがそこに見合った努力をされてきたからこそだと思いますが。
引退会見で花束を贈呈した村上選手が見せた涙
――尾崎さん自身が影響を受けた部分はありますか?
尾崎 常に周りのことを考えている、という部分です。自分は周りに厳しいけれど、自分にもすごく厳しくしている。それについてのブレはないんですが、青木さんは真逆です。厳しさもあるけれど、それについての伝え方がすごくうまいと思う。周りに対する接し方は、本当に理想的だと思います。
――本の中でもチームや若手選手、特に村上宗隆選手への思いを語っています。厳しい言葉にも見えますが、引退会見で花束を贈呈した村上選手が見せた涙こそ“答え”ですよね。
尾崎 青木さんは引退する理由の一つに、チームのため、というのを挙げていました。チームが変わらなきゃダメだ。そんな風に考えて辞められる選手は本当に一握りだと思います。
――このタイミングで『青木世界観』という本を生み出せたことについては、どう感じていますか。
尾崎 これまであった野球選手の本とは違うものを、という目標を掲げてやってきましたが、それも青木さんが本当に深い考えを持っていて、かつそれを言語化できる方だったからこそ成立したと思っています。さまざまな角度から言葉をぶつけることによって、やっと出てくるような言葉がある。それを残していくことは必要だし、ましてやとても偉大な選手のそんな言葉が本という形になるのはとても嬉しいです。
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青木選手と尾崎世界観さんとの共著『 青木世界観 』は好評発売中! 「引退」の他「チャンス」「才能」「勝利」など9つのテーマについてふたりが深く語り合った唯一無二の対話集です。
〈 野村克也でも、古田敦也でもない…尾崎世界観を熱烈なスワローズファンに誘った“意外な選手”とは 〉へ続く
(佐藤 春佳)
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