《中国の脅威に対抗せよ》不肖・宮嶋が見た本邦初の日仏陸軍共同訓練「覇権拡大を指をくわえて見とるわけにはいかんのじゃ!」
文春オンライン / 2024年10月5日 6時0分
東北はすでに秋、ススキの穂を揺らす秋風に乗ってくるのは赤とんぼの群れとけたたましい銃声であった。
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本邦初の日仏陸軍による共同訓練
9月8日から宮城県陸上自衛隊王城寺原演習場とさらにヘリ移動した岩手県岩手山演習場で繰り広げられたのは本邦初の日仏陸軍による共同訓練「BRUNET TAKAMORI (ブリュネ タカモリ)24」作戦であった。双方とも幕末に活躍したフランスと日本の軍人やが、かたやハリウッド映画「ラスト・サムライ」のモデルにもなったといわれ、幕府軍の軍事顧問団として来日し、戊辰戦争では榎本武揚らとともに官軍と戦ったフランス陸軍ジュール・ブリュネ大尉の名字、こなた戊辰戦争で官軍の指揮をとった西郷隆盛のファースト・ネームから。幕府軍の顧問とそれに相対する官軍の指揮官というちょっと無理すじのネーミングである。
そして西郷隆盛は最後は西南の役を引き起こした賊軍の指揮官として討たれたはずや。さらにその名はここ東北地方では21世紀の現在でも憎悪の対象である。まあ勝負は時の運、昨日の敵は今日の友である。先の大戦では敵同士だった日仏であったが、現在は「力による現状変更を目論み」南シナ海の環礁を国際司法裁判所の判決をガン無視して、埋め立て軍事基地化するわ、すでに我が国の尖閣諸島周辺を自らの海とした中国や「21世紀になっても隣国が国防に充分な備えがないと見るや、ためらわず侵略し、民間人まで殺戮する国家が存在することを証明した」ロシアが共通の脅威となっているのである。
フランスにも日本にも迫る脅威
それにしても何もわざわざヨーロッパから日本と訓練するためだけにやってくるかあ? それがフランスにも日本にもおおありなのである。17日、今回の仏軍のカウター・パートとなった陸上自衛隊の第9師団長藤岡史生陸将とともに記者会見に臨んだ仏陸軍第6軽機甲旅団長ヴァランタン・セイラー准将は我々の目の前で開口一番こう言い放った。「フランスはこの地域に7つの海外領土を持ち、160万国民が暮らすインド・太平洋国家である」と。8月12日に幕を閉じたパリ五輪のサーフィン競技も南太平洋のタヒチで開催されたんや。タヒチはあのゴーギャンが晩年まで暮らしたフランス領や。
ついこのあいだ大規模暴動が発生、マクロン大統領自らが軍引き連れ駆けつけたニューカレドニアもフランス領や。そんな太平洋地域の島々の指導者のほほを札束でひっぱたたき、ドミノ倒しのように中国が覇権を拡大するのを指をくわえて見とるわけにはいかんのである。
かくして中国の脅威からの防波堤となりうる日本との共同訓練も必然となってきたのである。
いったん上陸を許すと侵略者の排除はむちゃくちゃ難しい
現にこの夏はラファール戦闘機2機、A330空中給油機2機をも従えたフランス航空宇宙軍が百里基地に到着、航空自衛隊のF-2戦闘機と共同訓練を繰り広げる一方、海軍はフリゲート「ブルターニュ」を日本に派遣。関東地方から沖縄沖太平洋上で、海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」に護衛艦「おおなみ」さらに潜水艦にP-1哨戒機も参加した日独伊仏豪の連合艦隊が各種戦術訓練「ノーブル・レイブン」作戦まで繰り広げたのは、先日 イタリア空母「カヴール」の記事 で紹介させてもろた通りである。
中国がロシアがウクライナを侵略したように台湾海峡を渡り、台湾有事が起こるや、我が国と東南アジア、中東、ヨーロッパを結ぶ重要なシーレーンが閉ざされ、インド太平洋地域に暮らす160万のフランス人も孤立してまう。フランスとしても日本で中国やロシアにフランス軍のプレゼンスを示すことで自国民とフランスの権益を断固守るという覚悟を国際社会に示すことにもなるのである。
しかしたとえ空と海を守れてもいったん上陸を許すと侵略者の排除はむちゃくちゃ難しい。現に我が国は北海道北方領土をソ連、その後のロシアに不法占拠されたまま79年間、手出しもできない。それを倣った韓国に島根県竹島を奪われて居直られても、政府は友好と話し合いを説くしかないのである。話し合いで領土を奪還した国家なんぞないと百も承知で。
かくして自衛隊はロシア軍によるウクライナ侵攻、中国による台湾有事も念頭に離島防衛、奪還からさらにつっこんだ市街地戦闘も含めた対ゲリラ・コマンドゥ作戦「BRUNET TAKAMORI 24」をフランス軍と実施するに至ったのである。
所は宮城県王城寺原演習場内に造られた銀行、ホテル、スーパーまで模した市街地戦闘訓練施設では建物内に潜伏したゲリラを掃討する近接戦闘に人質救出作戦が、さらにそこからヘリ移動して岩手県岩手山演習場では山間部に潜伏、その後侵攻してくる敵ゲリラを掃討するため実弾を使用した総合射撃訓練まで行ったのである。
時はおりしも秋、所もススキが穂を垂れ、赤とんぼのつがいが小銃の銃口とも知らず、羽を休める季節感丸出しの東北の演習場内である。この共同訓練の主な目的も対ゲリラ・コマンドゥ作戦つまり列島に潜入してきた小規模のゲリラ部隊掃討戦に関わる戦技技量の向上である。そのカウンター・パートとして実際今も戦闘が続くレバノンやイラクで対ゲリラ戦の実戦経験豊富な仏軍は最適なのである。
あのコソボで見た外人部隊に日本でお目にかかれるとは
派遣規模も昨年仏領ニューカレドニアで実施された「BRUNET TAKAMORI 23」の小隊規模から仏軍50名、自衛隊側100名からなる中隊規模にスケールアップし、来年は大隊、連隊規模にまでスケールアップするかもしれんのである。しかも日本国内での初の日仏陸軍の共同訓練である。
それにしても日本国内の演習場で銃弾とともに飛び交うフランス語がこんな近くで耳にでけるとは、想像もできんかった。さらに今回派遣された仏軍部隊の左腕に輝くエンブレムにわが目を疑った。そこには「LEGION ETRANGERE」と、なんと「外人部隊」やんけ。あのコソボで、ジブチで見た外人部隊にこの日本でお目にかかれるとは夢でも見んかった。
ドーランの下に隠れた肌の色も様々、東南アジア系にアフリカ系、中には日本人もいるはずで、実際コソボでもジブチでも話を交わしたこともあった。また手にする小銃もコソボやノルマンディで見慣れたブルパップ式のごついFA-MASでなく、外人部隊が手にすると小さすぎるM-4! いつからFA-MASやめたんや。
いやいやよう見たら「Heckler & Koch」に「MADE IN GERMANY」の刻印があってM-4やなしに、より精度が高く、浸水にも強いHK416やんけ! さよかいな……歩兵の基本的武器である小銃が自国製やなしに独製とは……隔絶の感がある。しかもほとんどすべての小銃のピカティニ・レイル(機関部と銃身部四方に固定されたギザギザ・レイル)を備え、その上部にはダット・サイト(発光式低倍率照準器)が装着され、さらに各人種、体格に合わせフォア・グリップ(前縦グリップ)まで装着してるのである。もちろん脱落、紛失防止のための紐やビニールテープ、空薬莢受けもしてる兵もいない。
それに並んで一斉射撃に臨んだ陸上自衛隊第39普通科連隊員が手にする89式小銃は統一したかのように、全員オープン・サイト(スコープ無しで標的、照星、照門を肉眼で合わせる)にオプション無しである。
そのあたりが速射性にすぐれ、各人が自由に武器をカスタム化でき、度重なる実戦を経て戦術や武器を臨機応変に変えてきた仏軍といまだ憲法下では軍隊と認められないばかりか、専守防衛を旨とするため、領空侵犯機に撃たれるまで危害射撃もできないばかりか、厳しい安全基準と規則のせいで、小銃1丁カスタム化できない我らが自衛隊との違いである。
撮影 宮嶋茂樹
(宮嶋 茂樹)
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