妻に怒鳴り散らす父を母が羽交い締めにして…「今のうちに帰りなさい!」毒父に苦しめられ続けた男性がついに“反撃”した瞬間
文春オンライン / 2024年10月14日 11時0分
井上秀人さん 著者撮影
〈 竹刀で小学生の息子の顔面を殴り…「俺に逆らうな! 言うことを聞け!」自己中心的ですぐキレる“毒父”から受けた忘れられないトラウマ体験 〉から続く
突然キレて怒鳴り散らす父親の存在が、家の中を常にピリピリさせていた。小学生の頃、言うことを聞かなかったために、竹刀で顔面を殴られたこともあった。井上秀人さん(44)の父親は、そんな「毒父」と呼ばれるような人だった。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、井上さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。
『 毒父家族 親支配からの旅立ち 』(さくら舎)という著書を持ち、現在では心理カウンセラーとして活躍する井上さんに、父親の支配を振り切るまでの苦悩の日々について聞いた。(全3回の2回目/ 続きを読む )
◆◆◆
人生初めての選択
ちょうど単身赴任で父親が家にいなかったのをいいことに、井上さんは高校生で「アルコール」に手を出した。すると最初こそ罪悪感に苛まれたが、次第に「自由」や「力」を手にしたような気分になり、「親に復讐しているかのような高揚感」を感じるようになっていた。
飲酒によって、井上さんは「自分は自分をうまくコントロールできている」と錯覚するようになった。
「無意識に外的なものに依存してしまう根本原因は、弱い自分を認めずに、無理をし続けてしまうことにあります。それは、本来の自分を裏切り、苦しめることです。そして、“無理して律した自分”で接する相手に対しては、嘘をついていることになり、自分と相手、ダブルで裏切っていることになるのです」
今でこそこのように言える井上さんだが、当時は苦しみ、もがき続けていた。
「父にはことあるごとに『いい大学に入ることがその後の人生を決める』『学業ができない人間には価値がない』『男がお金を稼ぐことはものすごく大変なこと』などと言い聞かされてきました。そんな環境で育った僕は、『仕事は辛くてつまらないこと』だと思うようになっていました」
中学、高校とエスカレーター式に進んできた井上さんは、大学も同様に進んだ。
「自分の意思で主体的に選択して行動に移したことは一度もなく、動くときは周囲の意見を気にしての場合がほとんどでした。だから何か嫌なことがあるとすぐに諦めてしまい、何か1つのことに打ち込んだ経験は皆無。そんな中途半端な自分を見ないようにするため、遊んでばかりいました」
井上さんが人生で初めて自分の意思で選んだのが、就職先だった。
「父はもう、私が一流企業に入れないことがわかっていたのか、幸いなことに、就職先のことをとやかく言ってくることはありませんでした」
波風を立てないように生きる
大手飲食チェーンに就職した井上さんは、気づけばいつも目上の男性に気に入られるように振る舞っていた。上司や先輩に必要以上に気を遣い、相手の意見を全面的に受け入れ、自分の意見を主張することはほぼなかった。
「当時は自己主張することは相手を否定することだと思い込み、罪悪感さえ感じていました。ただ一方で、自己主張しても気に入られる人のことを羨ましく思ってもいました。自分が本当は何を考えているのか、どうしたいのか、自分でもよくわかりませんでした」
その結果、都合の良い人間として扱われてしまうこともあった。だが怒りの感情を表に出すことが一番の恐怖だった井上さんは、ぐっと我慢し続けていた。
他人から怒られることに対しても、強い恐怖を感じていた。
「幼い頃から『怒られないように』とばかり考えて、先回りする癖がついていました。また、自分に関係なくても、機嫌が悪い人がいる空間にいると胸が苦しくなり、無意識に自分のせいだと思えてソワソワしてしまい、機嫌を直さなくてはと考えてしまうこともありました」
他人から怒られることを極端に怖がるあまり、自分が怒ることもできなくなってしまっていた。
理解し合えない父子
25歳になる年に井上さんは、転職を決意。そして実家に顔を出した時に、父親に話した。
すると、
「転職先では生え抜きや年下の人間に負けることになるんだ! 負け犬になって後悔するぞ!」
と言い、案の定、断固として反対。
「父は転職を、『出世競争から外れること』と思い込んでいました。今思うと、父のように『辛い、大変だ』と言いながら一つの会社で働き続けるのではなく、僕は父とは違い、『自らの力で望む人生を選択する力や強さがあるのだ』ということを証明したかったのかもしれません」
しかし父親は、「俺の言う通りにすればいい」「お前のために言っているんだ」と繰り返すばかり。
井上さんは、「父に話さなければ良かった」という後悔に押しつぶされそうになると同時に、すーっと冷めていくような感覚を覚えた。
「結局、父は変わらないんだな。もうこれ以上、何を言っても無駄だ」
そう思うと不思議なことに、井上さんの目から涙が流れ落ちていた。
「人生で初めて、父に自分の本当の気持ちを真正面から伝えようと勇気を振り絞ったのに、結局無駄でした。父が理解してくれるんじゃないかと淡い期待をしていた自分を情けなく感じると共に、『もう一生理解し合えないんだな』と、気持ちの糸がプッツリ切れてしまいました」
その翌朝、父親は「もし転職するならもう、お前は井上の姓を名乗らなくていいからな」と言った。
「社会人になっても、父の言いなりの自分。父を恨み、父のせいにすることで、僕は自分の弱さから逃げ続けていました。そうでもしないと、心身のバランスが取れなかった。僕は父に依存していたのです」
井上さんは、転職するのをやめた。
数日後、父親は得意そうに、「俺は正しかっただろう?」としつこく同意を求めてきた。
「少しでも父に期待した自分が愚かだったんだ。もう父に期待してはいけないんだ」
井上さんは心の中で何度も自分に言い聞かせながら、父親に「そうだね」と答えた。
「なんてことしてくれたんだ!」
同じ年に井上さんは、職場で出会い、2年ほど交際していた同い年の女性の妊娠がわかったことをきっかけに、結婚を決めた。
それぞれの両親に挨拶を済ませ、結婚に向けて順調に進んでいたが、両家顔合わせの食事会の時、事件は起こった。
彼女の両親とは何度も顔を合わせており、井上さんをとても可愛がってくれていた。特に彼女の父親は、親しみを込めて、「秀人」と呼び捨てで呼んでいたのだが、井上さんの父親はそれが気に入らなかったようだ。
「何で俺の息子を呼び捨てにするんだ!」
突然激昂した井上さんの父親は、周囲が驚きのあまり言葉を失うほど、1人でひたすら暴言を吐き、彼女の両親を罵倒し続けた挙句、「ふざけんな! やってられるか!」と言って家に帰ってしまった。
会をぶち壊された井上さんは、とにかく彼女の両親に平謝りしたが、両親よりも彼女の方が、「私の両親が侮辱された」「あんなお義父さんとやっていけない」と憤慨。結婚が白紙に戻ってしまう。
「僕自身もすごく傷つきましたし、『なんてことしてくれたんだ!』と思いました。それでも、何度も謝罪に伺ううち、向こうの両親が『もう気にしなくていいよ。水に流そう』と言ってくれたため、何とか結婚することができました」
もう二度と実家には帰らない
まもなく子どもが生まれ、1年ほど経った頃、井上さんは妻と子どもを連れて実家に帰省。すると、またしても事件が起こる。
井上さん夫婦が家を買おうとしていたことから住宅ローンの話になり、妻が、
「自営業だとローン組むの大変だよね」
と口にした瞬間、
「サラリーマンなら楽だと言いたいのか! サラリーマンを馬鹿にするな!」
と父親が激怒。
我を忘れたように怒り狂い、井上さんの妻に怒鳴り散らす。
それでも負けず嫌いの妻は一歩も引かない。両家顔合わせの時のことから、これまで我慢してきたことも含め、対等に言い返す。
だが、機嫌よく遊んでいた子どもが、祖父の大声にびっくりして泣き出してしまったことから、妻は子どもをあやすことに専念する。
孫が泣こうがお構いなしに大声を上げ続ける井上さんの父親に対し、この時初めて母親が父親に刃向かった。嫁や孫に手を上げかねない夫に恐怖を感じたのか、「今のうちに帰りなさい!」と叫びながら父親を羽交締めにしたのだ。
このことでさらに激昂した父親が、逃れようと暴れた拍子に腕が母親の口元に当たり、切れて出血。それを見た妻が「警察を呼ぼう! 呼んでもいいレベルだよ!」と言うのと同時に、井上さんが動いた。
母親に代わって父親を押さえつけ、
「こんなことをするなら、もう二度と実家には帰らない!」
と言い聞かせる。
父親は、「ああ、二度と来るな!」と井上さんに言い返し、「お前も二度と顔を見せるな!」と井上さんの妻に捨て台詞を吐くと、リビングから1人去っていった。
この日から井上さんは、実家に帰らなくなった。
〈 「お酒は僕にとって“力の象徴”でした」飲酒量が増え、妻に隠すように…“毒父家庭”で育った男性がアルコール依存と復讐心から脱することができたワケ 〉へ続く
(旦木 瑞穂)
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