集団リンチで殺害した女子高生をコンクリート詰めにして遺棄…「女子高生コンクリ殺人事件」現場の“足立区綾瀬”を歩いてわかった「事件の風化」(1988年の事件)
文春オンライン / 2024年10月5日 17時30分
事件現場近くを流れる綾瀬川(撮影:八木澤高明)
〈 女子高生を男4人で監禁・集団暴行・コンクリート詰めに…“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリ殺人事件」犯人たちのその後(1988年の事件) 〉から続く
1988~1989年にかけて起きた史上最悪の少年犯罪「綾瀬女子高生コンクリート詰殺人事件」。すでに事件から35年経った今もそこに住み続ける住民たちは何を思うのか? ノンフィクション作家の八木澤高明氏の新刊『 殺め家 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)
◆◆◆
「女子高生コンクリ殺人事件」の現場に足を運ぶと…
2009年の初めから、事件の現場となった足立区綾瀬を私は幾度となく歩いている。綾瀬駅で降り、現場となった家へと向かう。近年、綾瀬駅周辺は千代田線が直接大手町方面へ乗り入れていることもあり、子育て世代には、人気のある住宅地となっているという。事件が起きたのは今から30年ほど前のことだから、家を求める世代からしてみれば、過去の事件に引きずられる気持ちは希薄になっているのかもしれない。
パチンコ屋が目につく駅前の商業地域を抜けると、すぐに街の風景は住宅街となる。すると突然視界にラブホテルが現れ、その横には子どもたちが遊ぶ公園がある。あまりにアンバランスな景色に何ともいえぬ気持ちになる。
ここ綾瀬周辺は、高度経済成長期に入るまでは、水田地帯だった。宅地となる前に東京の外縁部にあたるこの辺りにはラブホテルが建ち、その後宅地化されたのだろう。それにより、一見すると野放図な景色が生まれた。
駅から、15分ほど歩いただろうか、湊の家があった住宅街の一角に出た。すぐ前には公園がある。家は事件後取り壊されているが、区画は当時のままである。
駅からここまで歩いてくる間、子供連れの若い女性が目についた。彼女たちの年齢は30代から40代だろう。事件のことは知っているに違いないが、どんな思いを抱いているのだろうか。
「うちは昭和47(1972)年にこのあたりの分譲住宅を買ったんです。4月に入居して、その一ヶ月か二ヶ月後にあの一家が移ってきました。あそこの家は当時の値段で1200万円ぐらいだったと思いますよ」
言葉の端々に東北訛りが残る近所の住民が、湊一家がこの土地へやってきた頃のことを覚えていた。
湊の家は取り壊されていると先に書いたが、事件当時、彼らが玄関を使わず直接二階から出入りするために使っていた電柱は、いまも家に寄り添うように残っていた。
1972年にこの地へと引っ越してきた湊の一家。ちょうど湊が生まれた年のことである。
共産党員だった両親は躾も厳しかったというが、いつしか湊は道を外れていった。
それにしてもなんであんな事件を起こしたのか。
事件現場近くの居酒屋に入った。店には若い二人組がビールを飲んでいた。カウンターに座り、焼き鳥をつまみながら、20数年前のこの界隈の様子について尋ねた。
「ここから50メートルも離れない場所に飯場が5件もあってね。ヤマから人が来ていたよ。都営住宅が出来て、仕事をまともにしない人間が多かった。子どもたちにも良くない環境だったよ。北綾瀬駅が出来てから、飯場が無くなって、前よりは環境が良くなったけどね」
二人組が帰った後、居酒屋の主人に事件のことについて尋ねた。焼き鳥を買いに来た加害者かその仲間たちのことを思い出してくれた。
「いつも若いのが二人組で塩の焼き鳥を買いに来たよ。手にタバコを押し付けられた痕がついててね。塩を買うってのは、酒飲みの証拠だよ。買う数はいつも4、5本だけどね」
手にタバコを押しつけられた痕があったというからには、主犯格のAに使い走りをさせられていた少年だったのかもしれない。
少年たちはどこで道を踏み外したのか?
たかが数本の焼き鳥を買いにくるどこにでもいる等身大の少年の姿、史上最悪の事件を起こした鬼畜の姿。少年と事件の大きさとのギャップに驚きとともに虚しさを覚えずにはいられなかった。果たして少年たちは、どこで道を踏み外し、鬼畜の所業に及んだのか。
コンクリート事件の現場周辺は、少しずつ風化が進み、彼らが遺体を遺棄した埋立地の周辺も家族連れが集まる海浜公園となっている。ただ、事件を犯した人間たちに宿った業はそう易々と消え去ることはない。
(八木澤 高明,高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))
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