「コカ・コーラの本社に『世界で一番忙しい空港』も...」アメリカ合衆国“ナゾの大都市”アトランタにはなにがある?
文春オンライン / 2024年10月10日 6時0分
アトランタ市中心部
アメリカのアトランタと聞いて、真っ先に思い浮かべる人が多いのは、おそらく1996年のアトランタオリンピックだろう。女子マラソンで銅メダルを獲得した有森裕子さんが発した「自分で自分をほめたい」という言葉は流行語大賞を獲得した。
サッカー日本代表がブラジルに1-0で歴史的勝利を果たした「マイアミの奇跡」を覚えている人も多いだろう。
しかしオリンピック“以外”で、アトランタに何があるかを複数あげられる人はそう多くないのではないだろうか。
アトランタはジョージア州の州都で、ジョージア州はフロリダの真上に位置している。日本からは直行便で約12時間。羽田・成田を飛び立った飛行機は、北太平洋を越え、アラスカ、カナダの上空を通過したのち、アトランタに入る。
仁川でもJFKでもない...「世界で最も忙しい空港」がアトランタに
アトランタの玄関口、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ空港は「世界で最も忙しい空港」と呼ばれ、実は発着便と搭乗客数が世界一多い。世界各国から、そしてアメリカ国内からも飛行機がひっきりなしに着いては飛び立っていく。
空港には都心部につながる地下鉄「MARTA」のほか、Uberのライドシェアが波のように車寄せに押し寄せている。Uberはスマホのアプリで行先を入力すれば、乗車時に名前を確認するだけで、あとは運転手との会話はいらない。アメリカに来たのに英語もほとんどしゃべらず手軽に移動できてしまう。
空港を出て高速を走ること20分、ダウンタウン・アトランタの摩天楼が近づいてきた。
Uberから降りて公園に向かうと、なんだか日本人の名前がたくさん彫られた石碑が...
ダウンタウンには、アトランタオリンピックが開催された1996年、近代オリンピック100周年を記念した「センテニアル・オリンピックパーク」がある。Uberから降りて公園に向かうと、ニューヨークのセントラルパークのような、いかにも中心街にある公園という風情の緑地が広がる。
公園の入口にはお馴染みの五輪マークが鎮座し、観光客を出迎えている。青々とした芝生は綺麗に刈られ、木陰には芝生の上でくつろぐ人たちも見受けられる。リスが木々を伝って走り回っており、ピクニックをするには最高の環境だろう。
ここには、アトランタ五輪で活躍した選手たちの「足跡」が残されている。公園の端の石に、アトランタ五輪でメダルを獲得した選手たちの名前が刻まれているのだ。せっかくなので、日本人選手の名前がないかを探してみる。
探し始めてすぐに見つかったのは、野球日本代表の選手たち。チームスポーツなので、ローマ字でかかれた名前がいくつも並んでいて見つけやすかった。この時の野球日本代表はまだアマチュア選手で構成されたチームで、日本生命時代の福留孝介選手(中日→メジャー→阪神→中日)の名前も見てとれた。
そして、有森裕子さんも「Bronze: Yuko Arimori JPN」としっかり刻まれていた。
綺麗に整備された公園は、アトランタ市民の憩いの場であり、かつてアトランタ五輪で栄冠に輝いた選手たちを静かに讃えていた。
“コカ・コーラ博物館”のとなりにも「世界的な博物館」が...
アトランタでオリンピックの次に有名なのは、コカ・コーラだろう。コカコーラ発祥の地であり、今でも本社が存在する。
「センテニアル・オリンピックパーク」のそばには、「ワールド・オブ・コカ・コーラ」という博物館が建っており、世界各国のコカコーラのラベルや昔の広告などがガイド付きで楽しめるそうだ。
そしてその「ワールド・オブ・コカ・コーラ」の隣には「国立市民人権センター」が建っている。
あの大ヒットした映画も...
ジョージア州のあるアメリカ南部は、かつて綿花栽培で栄えた地域である。綿花のプランテーションでは多くの黒人奴隷が使用されており、人種差別問題も深刻だった。
そのアトランタで「I Have a Dream」の名演説で知られるキング牧師が生まれ、1950~60年代に起きた公民権運動もこの街から始まったのだ。
キング牧師の演説は「いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である」と続き、故郷・ジョージア州の名前が出てくる。
アトランタは、『風と共に去りぬ』の舞台としても知られている。大農園のお嬢様として生まれたスカーレット・オハラが恋と南北戦争に翻弄されながらたくましく生きる姿は、日本では戦後1952年に公開されて大ブームを巻き起こした。
南北戦争で南軍の要衝だったアトランタは、北軍の苛烈な攻勢により、1864年9月に陥落した。小説の中では、炎に包まれるアトランタをオハラは命からがら脱出するが、史実でも補給庫が北軍の手中に落ちないように焼き払われていたのだった。
当時の面影を残す屋敷が、市街の中心部から北に15キロほど離れたアトランタ歴史センターに残されている。
「風と共に去りぬ」を感じさせる豪華すぎるお屋敷
邸宅の名前は「スワンハウス」。綿花ビジネスで隆盛を極めたインマン家の邸宅として、イギリスやイタリアの古典的建築様式を取り入れた折衷スタイルの建物だ。1928年の建築と南北戦争後ではあるが、『風と共に去りぬ』を彷彿させる豪奢な雰囲気だ。
それぞれのサイドで建築の趣は異なっており、裏に回れば大きなギリシア風の柱が出迎える。中にはガイドがおり、当時の生活や歴史背景について詳細な解説をしてくれる。
建物は地下にも降りることができ、スワンハウスの建築家が愛用していた18世紀後半から19世紀前半の食器が勢ぞろいしている。その数は圧巻だ。中国の食器に始まり、イングランド、ひいてはドイツのマイセンまで揃っている。
地下の壁一面がきらびやかな食器に囲まれた贅沢な空間で、この食器たちだけで博物館が作れてしまうのではないかと思ってしまうほどだ。
アトランタは近代オリンピック100周年という記念すべき土地であるほか、過去から続く南部アメリカの歴史の香りを今でも感じさせる、新旧折衷の大都市といえるかもしれない。
コカ・コーラのほか、デルタ航空やCNNなど有名企業が本社を置くアメリカ南部経済の中心地であり、『風と共に去りぬ』の世界観そのままの19世紀の雰囲気を残す歴史的な建造物も残っている。
アトランタに立ち寄る機会があったら、その新旧を堪能してほしい。
撮影=文春オンライン編集部
(「文春オンライン」編集部)
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