「おれを舐めるにもほどがある!」“伝説のヤクザ”安藤昇が力道山に激怒→自宅を襲撃…安藤組と“プロレス界の英雄”が対立した経緯
文春オンライン / 2024年10月19日 17時10分
昭和のヤクザ史に名を刻んだ“カリスマヤクザ”安藤昇 ©文藝春秋
〈 「頭と顔を蹴りつづけ、動かなくなった」“最強のヤクザ”がロシア人をボコボコにして殺害…安藤組大幹部・花形敬が起こした事件の顛末 〉から続く
昭和のヤクザ史に名を刻んだ“カリスマヤクザ”安藤昇。「安藤組」を立ち上げて昭和の裏社会と表社会を自由に行き来し、数々の伝説を残した。安藤組解散後は俳優に転身し、映画スターとして活躍。そんな安藤昇の一生を記した作家・大下英治氏の著書 『安藤昇 侠気と弾丸の全生涯』 (宝島SUGOI文庫)より一部を抜粋し、伝説のプロレスラー・力道山と安藤組が対立した経緯を紹介する。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)
◆◆◆
安藤組の大幹部らが喫茶店を占領
『純情』の開店は1時からであった。昼は喫茶店で、夕方の6時からバーに切り替えられる。
店が開くと、花田瑛一や大塚稔(ともに安藤組の大幹部)ら50人が真っ先にどっとなだれこんだ。50人が、別々のテーブルに座った。
そろってコーヒーを1杯注文した。コーヒー1杯だと、100円でおつりがくる。そこに、一般の客が入ってきた。が、50席占領されているので、座る席がない。ウェイトレスが、安藤組の引き連れて入った客に訊いた。
「あのォ、相席よろしいでしょうか」
「駄目だ。あとから、相棒が来ることになっている」
そのうち、レスリングのレフェリーをしている安倍治がフロアに顔を出した。
大塚は、髭をはやした安倍の顔をよく知っていた。『パール』というナイトクラブに出入りしていて、そこで大塚とよく顔を合わせていた。
フロアに姿を現わした力道山
安倍は、大塚の顔を見ると、大塚らの動きを察したらしく、すぐに引っこんだ。しばらくして、力道山が、フロアに姿を現わした。安倍といっしょである。大塚が、突然号令をかけた。
「うちの生徒全員、起立!」
50人が、そろって起立した。
大塚は、さらに大声を張りあげた。
「力道山に敬意を表して、礼!」
50人全員が、力道山に礼をした。
「着席!」
50人が着席した。
力道山は、いったん引き下がった。
が、安倍が大塚の席に使いとしてやって来た。
「力さんが、号令をかけた人に来てくれって言っている」
大塚は、啖呵(たんか)を切った。
「何も、おれが行く必要はない。話があるなら、向こうが来ればいいだろう」
安倍は、また引っこんだ。
「大塚、なんとかならないのか」元横綱の東富士が席にやってきて…
今度は、東富士(あずまふじ)が大塚の席にのっそりとやってきた。
東富士の、巨腹を利しての寄りは、“怒濤の寄り身”と形容されていた。優勝を6回もした横綱でありながら、力道山に誘われてプロレスラーに転向していた。プロレスラーとしての彼は、アメリカでは「動くフジヤマ」「ヨコヅナ・レスラー」といわれて人気があったが、日本での人気は、力道山に遠くおよばなかった。
東富士は、大塚のそばに来るには来たが、何も言わないで引っこんだ。
東富士は横綱時代も、「江戸っ子謹ちゃん」といわれ、淡白な性格と言われていた。
つぎに安倍が大塚の席にやって来て、苦りきった表情で頼んだ。
「大塚、なんとかならないのか」
「なんとかなるもならないもないね」
力道山と改めて話し合うことに
安倍は、今度は力道山を大塚の席へ連れて来た。そばで力道山を見ると、さすがに大きい。
力道山は、大塚の肩に手をやって言った。
「夕方の6時に、来てもらいたい。そのとき、話し合おう」
「わかった」
大塚も、ひとまず引きあげることにした。
大塚が、50人に声をかけた。
「全員、退席!」
50人が引きあげると、店の中には1人として客がいなくなった。開店日だというのに、一般の客は、1人も入らなかったことになる。
「美空ひばりが、力さんに会いに来ている」
大塚は、昼の喫茶店から夜のバーに替わる6時過ぎ、約束どおり『純情』を訪ねた。
専修大学の江藤豊がついてきていた。江藤は、テーブルに座ると、ボーイに言った。
「大塚が力さんに会いに来た、と伝えろ」
ボーイが引っこんだ。が、力道山は、なかなか出て来ない。
10分はたった。いいかげん嫌気がさしていると、ボーイがテーブルにやって来て言う。
「美空ひばりが、力さんに会いに来ている。力さんは、ひばりの前では話にならない、と言っている」
大塚の頭に、血が上った。
「夕方また来てくれ、と指定したのは、力道山のほうだぜ。そっちの都合で変更があれば、申し訳ないけど、また明日にでもとか、言い方というもんがあるだろう」
その夜、安藤昇のいる社長室に、森田雅(安藤組の大幹部)、花田瑛一が、大塚を伴って現われた。花田が、安藤に説明した。
安藤は、話を聞くなり、吐き捨てるようにいった。
「プロレスラーに、用心棒までされて、たまるか。用心棒は、われわれの収入源と同時に、縄張りの誇示だ。面子だ」
安藤は、じつは力道山については、前にも不快な思いがあった。
力道山がいきなり平手でホステスを殴った
つい半月前『東京クラブ』のホステスが、力道山に殴られたことがあった。そのホステスは、他のホステスの姉さんクラスのホステスだった。
そのホステスが、力道山に、「女を世話しろ」とせがまれ、断った。
「わたしは、やり手婆ぁじゃないんですからね」
すると、いきなり平手で殴られた。プロレスラー相手でも、空手チョップで相手は引っくりかえる。それを女がまともに平手打ちを食ったのだからたまらない。意識を失い、病院に担ぎこまれた。左の鼓膜が破れて聞こえなくなってしまった。
そのホステスが、「力道山をなんとかしてくれ」と安藤に訴えてきたことがあったのだ。
安藤は、あらためて思った。
〈力道というやつ、表面では英雄とまつりあげられているが、質の悪いやつだ。おれを舐めるにもほどがある〉
力道山の自宅付近で狙い撃ちに
安藤昇は、さっそく力道山攻撃を開始した。まず、大田区池上(いけがみ)の力道山の自宅付近に網を張った。
力道山の邸宅は、小高い丘の住宅地にある。門前は、割りに狭い道路に面している。恐らく、彼のキャデラック・コンバーチブルが通るにはやっとの道幅であり、その道に入る前にはどうしても速度をゆるめる。
安藤は、自ら自分の車マーキュリー・コンバーチブルに乗り、力道山の通る同じ道を走らせ、予行演習を繰り返した。
安藤は、助手席に乗っている子分たちに言った。
「おれの車でも、ここで一旦停止しなくてはならない。やつの車は、当然、停まることになる。この曲がり角の空き地の生け垣が、狙い撃ちにかっこうだ。いいな、この生け垣に隠れて、この道を通る力道山を狙い撃ちしろ」
安藤のもとに、生け垣に交代で隠れて狙わせている子分から電話連絡が入った。
「社長。力道山め、恐れて、家に寄りつきませんよ」
別の情報網から、電話が入った。
力道山は、弟子を3人車の横に乗せ、実弾を装填した猟銃をたえず携帯し、何処へ行っても寝る間も離さないらしい。
大塚稔は、『純情』に出かけ、ボーイにいった。
「とにかく、安倍を呼べ」
しばらくすると、プロレスのレフェリーの安倍治ではなく、東富士が出てきた。
〈 「懐に拳銃を忍び込ませ、車で銀座に向かった」“伝説のヤクザ”が力道山の殺害を計画…安藤組組長・安藤昇が起こした「力道山事件」の顛末 〉へ続く
(大下 英治/Webオリジナル(外部転載))
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