「過去の歴史を反省しないままだと、同じことが起こりうる」朝鮮人虐殺の事実を知って…アメリカの大学に通っていた映画監督が抱いた“危機感”
文春オンライン / 2024年10月5日 6時0分
空音央監督
忍び込んだ夜の学校で、順番にDJプレイをする2人と、音楽に合わせ楽しそうに体を揺らす仲間たち――。映画『HAPPYEND』は、幼馴染の2人の友情と、その関係の変化を描いた青春映画だ。
舞台は少し未来の日本。顔認証ですぐに個人情報がわかり、街の上空にはニュース速報の赤い文字が流れる。
「大学生の頃に、政治性の違いから友達を突き放してしまったり、逆に自分も突き放されたりした経験があったんです。そうせざるをえなかったと思う反面、すごく悲しくてつらかった。その感情がこの映画の核になっています」
坂本龍一のコンサートドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』が各国の映画祭で上映、絶賛された空音央監督。本作が満を持しての長編劇映画デビュー作となる。
本作の主人公は幼馴染で大親友のユウタ(栗原颯人)とコウ(日高由起刀)。DJに憧れ、同じく幼馴染のアタちゃん(林裕太)、ミン(シナ・ペン)、トム(ARAZI)の5人でいつもつるんでいる。その日の2人の悪戯も、いつもの悪ふざけの延長のはずだったが……。校長(佐野史郎)は激怒し生徒たちを尋問。コウに「君は普通の日本人とデモグラフィックが違うから」と言い放つ。
「アメリカの大学に通っていたのですが、その頃に起きた東日本大震災が、自分の政治性が芽生えるきっかけになりました。その後、オキュパイ・ウォールストリートやブラック・ライヴズ・マターなどの運動が起こる中で日本の歴史にも目を向けるようになり、1923年の関東大震災と、それがきっかけで起こった朝鮮人虐殺という歴史的事実を知ったんです。なぜこのようなことが起きてしまったんだろうと衝撃を受けました」
2人の悪戯をきっかけに、学校にはAIによる監視システムが導入される。一方、巨大地震の危機を背景に政府は緊急事態条項を発令、街中では反対デモが行われていた。
「たまに日本に帰ってくると、数十年以内にまた大きい地震が起きるというニュースをやっている。過去の歴史を反省しないままだと、また同じことだって起こりうるという危機感がすごくあったんです」
学校のやり方に反発を覚え、社会への違和感からデモ活動にも関心を持ち始めるコウ。これまで通り、ただ仲間と楽しく過ごしたいユウタ。2人の間には次第にずれが生じはじめる――。
主演の2人は今回が演技初挑戦。等身大で演じる青春期の悩みには普遍性とリアリティが宿り、瑞々しい表情がまばゆく切ない。2人は共にオーディションで選ばれた。
「こればかりは直感的にこの人だと思うまでは決められないなと思っていたのですが、颯人が入ってきた瞬間、『あ、ユウタだ』って。なんだろう、笑ったときのくしゃっとした表情ですかね。由起刀も、出会ってすぐビビッと来たのですが、後々話してみたら韓国にも少しルーツがあったり、コウと重なる部分があって。みんな素のままで演じてもらえればいいという感じでした。
僕は俳優を演出した経験があまりなく、主要キャスト5人のうち4人が演技未経験ということもあって、何をどうしたらいいか悩んでいた時に、濱口竜介監督にアドバイスをいただく機会があったんです。濱口監督は『ハッピーアワー』で演技経験のない人を起用していたのでワークショップのやり方も教えてもらったのですが、大切なのは信頼関係を築いてリラックスした状態でやることだ、と。実際、ワークショップを通して5人が仲良くなっていき、カメラを回す頃にはみんな友達になっていました。主演の2人は本当に親友になって、いまはシェアハウスをしているそうです。青春時代のキャラクターを演じているんですけど、映画の現場そのものが、僕も含め、みんなにとって青春みたいな感じでしたね」
そらねお/米国生まれ、日米育ち。ニューヨークと東京をベースに映像作家、アーティスト、翻訳家として活動。2020年、志賀直哉の短編小説をベースにした監督短編作品「The Chicken」がロカルノ国際映画祭をはじめ、各地の映画祭で上映される。24年、『Ryuichi Sakamoto | Opus』公開。本作が長編劇映画デビュー作となる。
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映画『HAPPYEND』(10月4日全国公開)
https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年10月10日号)
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