「このお仕事を始めた時から不安症なんです」それでも奈緒(29)が“センシティブで難易度の高い役柄”に挑み続ける“納得理由”
文春オンライン / 2024年10月5日 11時0分
〈 「最近でもすごく落ち込むので(笑)。自信なんてないです」大ブレイクした奈緒(29)が「転機だった」と振り返る“あの名作” 〉から続く
NHK朝の連続テレビ小説『半分、青い。』で注目されて以来、話題作に出演し続ける奈緒。最新主演映画『 傲慢と善良 』でも確かな演技力で観客を魅了する人気女優に、演技への向き合い方、そして作品選びについて尋ねた。(全2回の後編/ 前編 を読む)
◆◆◆
奈緒の築いてきた、演技のスタイル
――奈緒さんは『半分、青い。』の後、数々の映画やドラマに助演して、印象深い演技を披露してきました。決して大げさではなく、どちらかというと抑制的で、細やかに心の機微を表現する、その演技のスタイルはどうやって築かれてきたものですか?
奈緒 そうやって言っていただいて、あらためて自分を振りかえってみると、私はこの仕事を始めたときからけっこう不安症なんです。それは先ほどお話しした自信のなさでもあるんですけど、役柄の中身や背景を自分のなかで埋めていかないとすごく不安なんですね。ひとりの人物を理解するのって、自分の人生経験では到底できないことだと思っているので。
だから現場に入る前の段階でしっかりと準備をします。こうすればこう見えるかなとか、こういうふうに見せたいなとか、いわゆるプランみたいなものを私はあまりたくさん持っていません。準備の段階で埋められるところを埋めておいて、現場に入ったら、あとはもう監督を信じてお芝居をする。もし私が埋めていった人物の中身が、みなさんに伝わったのだとすれば、それは監督がその瞬間を切り取ってくださったからなんだと思います。
演技に窮屈さを感じないのはなぜか?
――たしかに役柄の隙間をそうやって埋めているんでしょうけど、実際に目にする演技はとても素直で、事前に構築したという窮屈さをまったく感じません。きっとその場で心が動くままに演技をされているんだろうなって。
奈緒 そうですね、現場ではなるべく自由でありたいなと思っています。選択肢がたくさんあることもひとつの自由ではあると思いますけど、選択肢がありすぎると自分は選べなくなる性格なので、核となる部分だけちゃんと埋めておけば、あとは現場で起きることに自由に反応できるんじゃないかって。そのために埋めていくみたいなところはありますね。
今回の『傲慢と善良』だと、最初に萩原健太郎監督とお会いしたとき、私は事前に背景を作っていくタイプだとお話ししたんです。そしていろいろな演出家さんのタイプがあると思いますけど、事前にそれをすり合わせたほうがいいですか、それとも現場でセッションしていくほうがいいですかって相談して。萩原さんはぜひ共有していきたいですと言ってくださったので、事前にいろいろな話し合いをくり返しながら、お互いを信頼して作っていけたと思います。
大事にしている感覚
――事前に核の部分をしっかり作っておいて、現場では相手にただ反応する、ということですよね?
奈緒 はい、私は基本的に相手の方にセリフを言わせてもらっていると思ってるんです。ただ、その相手がいたから言わせてもらえたセリフではなく、自分のなかから湧きでてきて、こぼれてしまうセリフもある。そのどちらなのかと考えるのは、私が台本を読むときから大事にしている感覚です。
本当に向き合いたいものに取り組んでいきたい
――この1、2年は映画もドラマも主演作が続いています。しかもドラマ『あなたがしてくれなくても』(2023)、『春になったら』(2024)、映画『先生の白い嘘』(2024)など、“死”や“性”を題材にした作品が多かったですよね。その姿は自分自身をあえて追い込むかのように、難易度の高い作品に挑んでいるようにも見えますが。
奈緒 そういうセンシティブな題材をテーマにした作品のお話をいただく機会が多かったんです。それがいま自分に求められていることだとしたら、向き合いたいなと思いました。私自身は、私がどう見えるかより、自分はお芝居をやっていくと決めたのだから、本当に向き合いたいものに取り組んでいきたいと思っているんです。それがいちばん純粋なパワーになって、作品にも映ってくれるはずだから。
ここ1、2年はお仕事も忙しくなって、自分の無知が怖くなる瞬間がたくさんありました。だから知らないといけないことがもっとあるんじゃないかなと思って、作品を通してそこに触れさせてもらったような気がしています。
――みずから壁を設定して、それを乗り越えようとした、というわけではないですか?
奈緒 壁というイメージはあまりなくて、本当に不思議と、いま私はこれに向き合わなければいけないと思う題材に出合えてきたんです。私のなかでも「これだ」というひらめきがあって。そういうご縁を大切にしてやらせていただいています。
いまの私だからこそ演じられた
――『傲慢と善良』もいま向き合うべきだと思った作品ですか?
奈緒 もともと辻村深月さんの小説が好きだったので、その実写化作品に出ることが夢だったんです。ただ辻村さんの小説を読みはじめたころの、10代の自分が『傲慢と善良』を演じられるかといえば、やっぱり題材的にできなかった。結婚する友だちも出てきて、自分の将来と自然と向き合わなければいけなくなったいまの私だからこそ、お話をいただいたときにやりたいと思いました。
第4の自分
――萩原監督と話し合いをしながら、役柄の準備を進めたということですが、具体的にお聞きするとしたら?
奈緒 たとえば「ジョハリの窓」かな。それは人物を4つの窓に分類して理解する方法なんです。「第1の窓」は自分も他人も知っている自己の姿。「第2の窓」は自分だけが知っていて、他人にはまだ知られていない自己。「第3の窓」は自分では気づいていないけど、他人が知っている自己。そして「第4の窓」がまだ誰にも知られていない自己です。
その4つの窓に、今回演じた真実について、それぞれ書き込んでいったんですよね。真実ってまわりにはこう見られるけど、実際はこういう部分があるかもな、というふうに。最終的に、映画を通して第4の真実が見つかるといいですね、というお話を萩原さんとしました。周囲の人たちも真実自身も知らなかった第4の自分に、ラストで気づけるお話になるといいなと思っていたんです。
――いまのお話を聞いて納得できました。というのも、今回の奈緒さんの演技を観ていて、役柄への理解だけでなく、理解できない部分も同時に呑み込もうとしなければ、これだけ奥行きのある演技にはならないと思ったからです。そうやって「見つける」作業をしていたんですね。
奈緒 それはこれまでの現場で学んできたことだと思います。上京してまだ間もなかったころ、長編映画としては2本目に出演した映画『リングサイド・ストーリー』(2017)の現場で、私は台本を読みながら「自分とは違う誰かにならなきゃ」とずっと考えていました。そのときの役は自分とは少し離れたものだったんです。
それで試行錯誤していたところ、武正晴監督が「ちょっと読んでみて」と言ったので目の前で台本を読んだら、武さんは「そんな声が出るんだ」とか「面白いからそれを使ったら」とか言ってくださって。そして「そうやって台本のなかで、どんどん自分を探していくんだよ」とおっしゃったんですね。それからは誰かになるのではなく、まず自分を見つければいいんだと考えるようになりました。
人を理解するために大事なこと
――『傲慢と善良』では、人を理解しようとすることの大切さが描かれています。この作品を通して、人を理解するために大事なことはどんなことだと感じましたか?
奈緒 やっぱり、まずは自分を理解することですよね。そして自分の価値観というものを理解する。価値観の違いという言葉がありますけど、じゃあ自分の価値観を誰かに伝えられるかと言ったら、私はまだその言葉が足りていないなって。
だから自分の価値観を人にちゃんと伝えられるようになりたいと、『傲慢と善良』に取り組むなかで思いました。どんなに不器用でも不細工でもいいから、伝えることを諦めなければ、それが誰かと理解し合うことにつながるんじゃないかという気がします。
撮影 深野未季/文藝春秋
(門間 雄介/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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