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「ネットで『チック症の美少女』と言われ…」「私の動画が“ロリ扱い”で拡散した」トゥレット症の20代女性が明かす、病気に対する周囲の意外な反応

文春オンライン / 2024年10月20日 11時0分

「ネットで『チック症の美少女』と言われ…」「私の動画が“ロリ扱い”で拡散した」トゥレット症の20代女性が明かす、病気に対する周囲の意外な反応

インフルエンサーとして活動する「トゥレット症候群」のへちさん ©三宅史郎/文藝春秋

〈 同級生にイジメられ、無視されたことも…「大声で叫ぶのをやめられない」トゥレット症の20代女性が語る、病気を理解されずに苦しんだ学生時代 〉から続く

 自分の意思とは関係なく、声を発したり、身体を動かしたりしてしまうトゥレット症候群であるへちさん。

 インフルエンサーとして活動する彼女に、「チック症の美少女」として動画が拡散した経緯、日常生活や恋愛で感じる壁、トゥレット症候群への認知などについて、話を聞いた。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)

◆◆◆

治療中の動画が「チック症の美少女」と言われて拡散

――トゥレット治療用のマウスピースを試している姿を捉えた動画が、「チック症の美少女」として拡散していったとのことですが、その動画はどのような経緯で撮られたのでしょう。

へちさん(以下、へち) アメリカで治療してくれた先生は、いろんな人種のトゥレット症の人たちにマウスピースを試している動画を撮っていて、それを自分のYouTubeのチャンネルに出していたんですよ。で、マウスピース治療をした初のアジア人が、私だったんです。先生から「医療のためにも、あなたの映像を出していい?」って聞かれて「医療のためなら」ってOKして。そうしたら、その動画がロリ扱いで転載されていっちゃったみたいなんですね。

――動画の拡散を知ったきっかけは。

へち 友達から教えてもらったんです。「載ってるよ」って。動画自体は、高校の頃からアメリカの先生のYouTubeチャンネルにあったんですよ。で、高校を卒業して1年か2年の間に転載されていって。

 ほかにも近所の仲いい子とか、いろんな方面から「なんか、出回ってるよ」「見たよ」とか言われて「あああ~」って感じでした。

――ロリータ動画的な扱いで拡散してしまうのは、ちょっとアレですよね。

へち 当時は病みました(笑)。でも、後になってTikTokとかSNSで動画配信を始めたので、良くも悪くもアレで私を知ってもらうきっかけにはなりました。

マウスピース治療のメリット・デメリット

――アメリカでのマウスピース治療ですが、装着したら症状が止まったわけですよね。治療法として、もっと普及してもおかしくなさそうですけど。

へち ちょっとお金がかかりすぎるというのがあるんですよ。マウスピース自体が60万円ぐらいなんですけど、3、4ヶ月で擦り減ってくるので修理に出さなきゃいけなくて。その修理の費用も掛かるし、保険の利かないアメリカってなると大変なんですよね。あと、日本にいる場合は、アメリカまでの渡航費もバカにならないので。誰でも受けられる治療とは言い難いですね。

――受けやすくなれば、受け続けたいですよね。

へち 私は、もうちょっと年を取ったらやりたいかなって。マウスピースを入れることによって、顔の形が変わってくるから。TikTokやってるから、あんまり顔の形が変わるのはまずいかなって(笑)。

 私は入れてたら、ちょっと丸くなりました。もともと顔は細かったんですけど、丸くなっちゃって「あーあ」という感じで。

――日本では、マウスピースの普及は進んでいないのでしょうか。

へち 日本の歯医者さんたちが研究していて、アメリカのものとは違った形のマウスピースを作ろうとしています。

――アメリカで作ったマウスピースは、どれくらい装着していたのですか。

へち 高校を卒業して、留学して、20歳ぐらいまでは着けてたかな。4、5年着けてたら、マウスピースのおかげで歯が矯正されてきて、着けてなくても症状が軽くなったんですよね。

「そもそも他人のことなんて見ていない」ロンドン留学中に感じた日本との“違い”

――留学というのは、バレエで?

へち そうです。ロンドンに留学してました。

――あちらはチック症の人たちに対して理解を。

へち 留学先のバレエ学校での生活がハードすぎて、みんな自分にいっぱいいっぱいで、人の病気なんかちっとも気にしてなかった(笑)。あと、あっちは個人主義なところがあって日本ほど他人に関心がないから、電車とかで症状が出ても気にしないというか、そもそも他人のことなんて見ていないんですよ。

 日本だと、ちょっとでも変わった人がいるとバッと見たりするけど、そういうのがまったくないんです。なんなら馬の形した帽子を被って電車に乗ってる人とか、車内で楽器を弾いてる人とか、いっぱいいましたし。そういうのもあって楽といえば、楽でしたね。

――留学期間は。

へち 1年半留学して、20歳過ぎたあたりで戻ってきました。で、戻ってくるなり、体調を崩してしまって、ずっと寝たきりみたいな。いろいろと溜まっていたストレスが一気に出てきたのか、ありえないレベルで体調を崩しちゃって。3年ぐらい、ずっと家を出られなかったですね。

 出ても2週間に1回とか。家にずっといたらビタミンDが足りなくなると思って、窓から手だけ伸ばして陽の光を当てたりして。あと、甘い以外の味覚がなくなっちゃって、ひたすらチョコレートだけ食べたり。

TikTokで動画を投稿するようになった経緯

――そんな状態が3年も。

へち ちょっとずつ楽になってきて、「家でできる仕事はないかな」と思って、ブログを始めたりしたんですけど、全然向いてなくって。で、バレエをやってたということで、TikTokでダンスしてる動画を投稿するようになって、いまにいたるって感じですね。

――TikTokを始めて、良かったことは多いですか。

へち 最初はダンス動画しか出してなかったんですけど、顔が知られてきたら、啓発のためにもトゥレットのことを公表しようと思ってたんです。TikTokは拡散力があるから、だんだんと認知されるようになってきて。TikTokって、障害や病気に関心のない方もたくさん見てると思うんですよ。だから、そういう人たちにトゥレットに関する動画が届くのは、いいことなんじゃないですかね。

――反応もいいですか。

へち 始めて1年くらいして、トゥレットのことを公表して。そうしたら、拡散された動画のファンだって人がけっこう多くて。「あの動画のファンって?」と思いましたけど、うれしいですよね。

カッターで壁を切り、携帯を真っ二つに割ったことも…

――体調不良から脱したとのことですが、トゥレット症候群の症状のほうは。

へち いまもあります。最近困ったのが、着物を着る機会があったんですよね。で、後ろに帯が大きく付いてるじゃないですか。でも、背中の上のほうを触りたくなる運動チックがあって。帯が邪魔になって触れないので「ウワーッ!」となっちゃって。

――カッターやハサミを持っているときに症状が出てしまうと、危ないことも。

へち ケガしちゃう方もいます。刃物で切るだけでなく、なにかをガンガン叩いちゃって手をケガしたり、自分で歯を抜いちゃったり。

 でも、それは合併する強迫性障害による場合もあって。強迫性障害でケガをすることって、けっこうあるんですよ。私も、どうしてもカッターで壁が切りたくなっちゃうという時期があって。チックといえばチックなんだろうけど、強迫性症状からきてるのを強く感じました。

――壁を切ったりすると、スッキリするのですか。

へち あんまり、しないんですよね。どっちかというと「あっ、ヤバ」ぐらいの(笑)。「壁切っちゃった。賃貸だったのに」みたいな(笑)。

 正直、どうしていいかわからないところもあるんです。昔、ガラケーだった時代にケータイを真っ二つに割っちゃったことがあって。そのときは「あっ、割れちゃった」と思ったけど、どうしようもないというか、割りたくて割ったわけじゃないし。「どうしたもんかねえ」って。

最近は無意識に「キャー」「ニャー」と言ってしまう

――「背中の上のほうを触りたくなる」運動チックがあるとのことですが、意識して抑えることはできるものなのでしょうか。

へち ちっちゃな動きをして、逃がす。たとえば足に逃がすとか。「あ、くるな」となったら、足を上げたりして。でも、背中を触るぐらいのチックだったら、白い目で見られることもないんで。

 一応、抑えることはできるんですよ。「絶対に出しちゃダメ」って思うと、チックって抑えられるんです。中学、高校では、それを1日頑張ってやってたという感じで。ただ、どっと疲れちゃうんです。

――音声チックのほうは、最近だと。

へち 普通に声が出ますね。「キャー」とか「ニャー」とか、少し前にひと月ほどカナダに行ってたんですよ。弟が住んでるので、会いに行って。そのときは、音声チックが英語になりました。「ノー・ウェイ!」とか言ってました(笑)。

――「ノー・ウェイ」って、「信じられない」とか「ムリでしょ」といった意味ですよね。自分でも「こんなのが出ると思わなかった」と驚くようなものはあります?

へち それは、いっぱいあります。「ノー・ウェイ」は、話していた相手が言っているのを聞いて「あれ、どういう意味だったっけ?」って調べたんですよ。その日に。そしたら、その日の夜に「ノー・ウェイ!」って出てくるようになって。

――印象に残った言葉が出てしまう。

へち そうみたいです。私の場合は、ですけど。

――「キャー」というのは、悲鳴の「キャー」になるのですか。

へち 単に音声として出ちゃうんですよ。「ニャー」に関しては、猫を飼い始めてから出るようになって。

トゥレット症を公表して「生きやすい」と感じるワケ

――カナダの人たちは、トゥレット症候群に理解がありましたか。

へち 弟はカナダで大学生をしてるんですけど、「誰もバカにする人はいないよ」って聞いてます。大学に重度のトゥレットの子がいたそうなんですけど、その子が自習室で勉強していても誰もなにも言わないし、悪く言うものじゃないという雰囲気ができてるみたいで。

 その雰囲気ができてるということは、トゥレットが病気であるっていう理解が根本にあると思うんですよね。広く認知されていた感じがします。

――日本は、まだまだですか。

へち ちょっとずつ寛容な社会になってきたかなと思います。私のTikTokでも、チック症って聞いたことあるとか、知ってるという反応が増えた気がします。「全然、大丈夫だよ」みたいな感じで言ってくれる人も多いし。あと、私に関しては、TikTokでトゥレットを公表していて、知ってくれているというベースがあるので、生きやすい感じはありますね。

――それでも、日常生活を送るうえで苦手なこと、行くのを避ける場所などは。

へち 歯医者さんとか美容院は避けますね。動くといろいろ大変なので。あとはやっぱり、静かな場所も行くのは躊躇しますよね。

付き合ってた人に「チックって遺伝するの?」と聞かれて…

――某ユーチューバーとのコラボ動画で、恋愛事情の話題が出ていましたが、恋愛面でもトゥレット症候群であることを気にしますか。

へち 相手からどう思われるのか、めちゃめちゃ気にしますね。私が好きになって、病気が理由でフラれたら、ほんとに傷ついちゃうので。

 昔、付き合ってた人に「チックって遺伝するの?」って聞かれたことがあって。遺伝子に不合格のハンコを押された気持ちになっちゃって、すごいショックだったし、一瞬で冷めました(笑)。

――トゥレット症候群は、パッと見でそうだとわからないうえに理解されにくいところもありそうですね。こうしてお話をうかがっていますが、へちさんがトゥレットだとはわからないです。

へち いま、出てないですよね。そう、初めて会う人の前や馴染みのない場所では出ないんですよ。それで「全然、チック出てないじゃん」とか言われるんですけど、けっこう凹むんですよね。そんな深い意味はないんだろうけど、「そういうことじゃないんだよな」って。

メディアでは重症な人が取り上げられるが…

――トゥレット症候群に限らず、障害や病気の見られ方、捉えられ方に問題がありそうですね。

へち メディアで取り上げられるのって、重症な人が多いんですよ。おそらく、そのほうが映えるから。で、それがチック症だ、みたいな印象になっちゃう。でも、私みたいなタイプのほうが多いんです、ずっと出ている人よりも慣れた環境とか家では出るみたいな。そういう誤差や誤解が生まれるんですよね。

――他者から、どう接してもらうのが理想ですか。

へち なにも気にせず、普通に接してくれれば。それでも、初対面の方の前でチックが出て「えっ、どうしたん?」って驚かれたりすると、ちょっとズキンと来ちゃうんですけど(笑)。来ちゃうんですけど、そこで説明していくのも大事なことだなと思っているので。自分が心を強く持って、説明していくのが一番いいかなと。

 そうすることで、認知が拡大されるし。認知の拡大がないと、見守る優しさみたいなのも生まれないと思うので。

撮影=三宅史郎/文藝春秋

(平田 裕介)

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