「光る君へ」時代考証はどのように行われたのか?《「これまでにない画期的な大河ドラマ」の舞台裏》
文春オンライン / 2024年10月20日 6時0分
「光る君へ」で紫式部を演じる吉高由里子(右)とその父を演じる岸谷五朗 ©時事通信社
NHKで放送中の大河ドラマ「光る君へ」。このドラマで時代考証を担当している歴史学者・倉本一宏氏が、その舞台裏について綴った記事を一部紹介します。
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歴史学者が考える「光る君へ」の意義
紫式部(と藤原道長)を主人公とした「光る君へ」は、平安貴族が主人公となるはじめてのNHK大河ドラマである。これまで平安時代を舞台とした大河ドラマも、平将門や藤原清衡、平清盛、源義経など、すべて武家を主人公としたものであった。
2022年5月11日に、2024年の大河ドラマが「光る君へ」となることが発表され(たらしく)、私も指導している大学院生や何社かの出版社からのメールでそれを知り、5月13日にNHKからのメールで時代考証を務めるよう命じられた。
その時は、これで世間の関心が薄く、誤解されている部分が多い(遊んでばかりいるとか迷信深いとか)平安時代の歴史にも日が当たり、平安時代史の研究者仲間にも活躍の場が与えられて、平安時代史研究全体が盛り上がるのではないかと喜んだものであった。
なお、平安時代に対する誤解の多くは、『源氏物語』をはじめとする文学作品に描かれた内容を現実の平安貴族の姿だと考えてきたために生じたものである。これは平安貴族の真の姿を記録した古記録(和風漢文で記録された男性貴族の日記)を一部の専門家だけで独占してきた歴史学界の責任でもある。
また、「腐敗した京都の平安貴族を関東の武士が打倒した」という歴史観が、江戸時代から富国強兵の近代日本、発展段階論の戦後日本において、一貫して語られてきたせいでもある。
日本人はとかく歴史というと戦国時代や幕末・明治維新にしか興味がない人が多く、大河ドラマも今まで合戦の歴史を描いてきた。そこに登場する貴族たちは、たしかに惰弱で臆病で狡猾な連中であった。
「光る君へ」は、平安時代が日本の歴史の中では平和で豊かな時代であったことを提示する点で意義があると思う。
それはさておき、脚本家やスタッフにも平安時代に馴染みの深い方はおらず、制作にもずいぶんと苦労されていることと思う。しかし全員の懸命な努力によって、これまでにない画期的な大河ドラマになっているものと自負している。これまで関わってきたテレビ番組とは違い、まさに一大プロジェクトであるというのが実感である。
ただ、大河ドラマはあくまで脚本家の創作を基にしたフィクションであり、視聴者がドラマの中の設定やシーンを見て、それを史実と思ってしまうのは、はなはだ困ることである。
時代考証はどういう流れで?
ドラマはドラマとして楽しむとともに、私は史実と異なる設定に歯止めをかける役割を担わなければならないと考え、時代考証を引き受けることにした。ただ誤算だったのは、近年は毎年3人で分担している時代考証が、今年はどうも私1人しかおらず、1人で担わなければならなくて、まことに大変な仕事となっていることである。
まず脚本を作る前に「際限のない」メールのやりとりによって質問に答え、それを勘案して台本の草案を書いてもらう。そのファイルを読んで、ここは史実に合わないという箇所に赤を入れて返信することを何度か繰りかえし、最初の台本ができる。
※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 『光る君へ』時代考証の苦労と喜び 」)。
「文藝春秋 電子版」では、「光る君へ」に関連する記事、オンライン番組を多数公開中です。
【動画】 大石静×新谷学「『光る君へ』私の理想はあの男!」前編
【動画】 大石静×新谷学「『光る君へ』押し倒す女たちへのエール」後編
【動画】 直木賞作家・澤田瞳子「大河ドラマ『光る君へ』を10倍楽しむ! 紫式部の生きた時代」
【対談】 大石静×有働由美子「『光る君へ』でほのぼのとしたエロスを醸し出したい」
【インタビュー】 吉高由里子インタビュー「紫式部のセリフに『嘘でしょ⁉』」
【グラビア】 「日本の顔 吉高由里子」大河ドラマの現場でも弾ける笑顔は健在
【エッセイ】 倉本一宏 「『光る君へ』時代考証の苦労と喜び 」
(倉本 一宏/文藝春秋 2024年5月号)
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