「これはシングルじゃないな(笑)」「でも陽水さんの歌詞が届いてびっくり」大ヒット曲「アジアの純真」が生まれた瞬間
文春オンライン / 2024年10月9日 8時0分
©三浦憲治
奥田民生が作曲を手掛け、井上陽水が作詞したデビューシングル「アジアの純真」はどのように生まれたのだろうか? 1996年の大ヒットソングが生まれた瞬間、そしてレコーディングに取り組む日々をPUFFYのふたりが振り返った。(全2回の前編/ 続きを読む )
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「暇そうなふたりがいた」「暇しててラッキーでした」
――おふたりでユニットを結成したのが1995年。そして96年にデビューという流れですよね。
大貫亜美 なにを結成とするのかあやふやですけど、先生がやると言ったのは――。
吉村由美 それが95年。
亜美 じゃあ95年結成だね。その前からふたりでちょいちょい遊んでいて、その流れで一緒にやったりはしていたんですけど、その年に先生から声がかかって、PUFFYという名前が付いたんだと思います。
――民生さんは「暇そうなふたりがいた」という理由で、声をかけたそうですね。
由美 ふたりでやろうという話はしていたものの、実際にはなにもしてなかったときに、「同じ事務所(ソニー・ミュージックアーティスツ)に暇してるふたりがいる」って誰かが言ったんですよね。それで一度も会うことなく、声を聞くこともないまま、じゃあやろうということになって。暇しててラッキーでした。
亜美 私は何度か会ったことがあります。由美ちゃんより少し前に事務所に入っていて、私の担当だった新人発掘部署(SD制作部)の方が民生さんと仲よしだったんです。それでユニコーンのライブに連れていってもらって、民生さんに紹介されたのが最初でした。そのとき打ち上げに出て、「すごっ! 未知の世界だ!」と思って。その後も何度かデビュー前にお会いしたんですけど、初めて紹介されたときのインパクトが強かったです。
由美 私は初めて会ったとき、自分が言われていちばん失礼だなと感じることを思いました。「わっ、本物だ!」(笑)。中学生のときユニコーンを聴いていたので、同じ事務所の所属アーティストに民生さんがいて、とりあえずまわりに自慢してたんです。「民生と同じ事務所だよ」って。初めて会うまでは、ずっと呼び捨てだったんですよね。だから最初に会ったときも、心の中で「民生だ!」と思ってました(笑)。
――そんな民生さんから、一緒に音楽をやろうと持ちかけられて、どんな気持ちでしたか?
亜美 ただ「えー! わー! すごーい!」って(笑)。
由美 それがどれだけ大ごとか、よくわかってなかったんですよね。デビューすることの意味もよくわからなかったし、大勢の人たちが関わることも知らなかったので、本当に「わー!」だったよね?
亜美 うん、「わー!」だよ。
「正直なところ、これはシングルじゃないなと思ってました(笑)」
――デビュー曲「アジアの純真」を最初に聴いたのは、民生さんの鼻歌が入った状態のデモテープですか?
由美 はい。そのころ『amiyumi』という最初のアルバムを作っていて、その途中の1曲だったんです。これがシングルになるという認識もなく、アルバムの中の1曲という感じで聴いていたら、陽水さんの歌詞が届いてびっくりみたいな。
亜美 私も正直なところ、これはシングルじゃないなと思ってました(笑)。でも陽水さんが歌詞を書いてくださったこともあり、これはシングルで決まりだねみたいな雰囲気なんです、大人たちは。私は、まだなにもわかってなかったからなんですけど、「いやいやいや、本当ですか?」って。「大丈夫ですか、それで?」って心の中でずっと思ってました。
――陽水さんが書いた歌詞のインパクトは大きかったですよね。なにより陽水さんの存在感そのものが大きくて。
由美 陽水さんが初めてレコーディングスタジオに来られるときの、スタッフ全体のピリッとした雰囲気で、私たちはすごいことをしてるのかもしれないと初めて感じたくらいです。民生さんと私たちだけで作業をしていたときは、“あの奥田民生”ということを忘れちゃうほど普通に接していて、わちゃわちゃしていたのに、陽水さんが来ることになった瞬間、空気が変わって。
亜美 「君たち、ちゃんとしてね!」って言われて、怖かったよね(笑)。
「アジアの純真」歌詞の由来
――陽水さんと初めて会ったときに歌詞を渡されたんですか?
由美 そのときは歌詞のリサーチ? たぶんPUFFYってどんな子たちなんだろうって、それを知るためにいらっしゃったんです。そのとき私はハモりのパートがわからず、えんえんブースで歌入れしてたんですけど、ガラスの向こうを見たら陽水さんと亜美ちゃんがこっちを見てニヤニヤしていて。ふたりで座って、なにか話してたんだよね?
亜美 そうそう。陽水さんが椅子を持ってきて、「君にインタビューするからここにいらっしゃい」って。たしか生い立ちからなにから聞いてくださったんですよね。私は幼少期の2年半くらい韓国のソウルに住んでいたので、それがアジアっぽい歌詞につながったのかなって。インタビューからなにをくみ取ってくださったのか、ほかにはよくわからない感じになってましたけど(笑)。
由美 私も同じようにインタビューされましたけど、「アジアの純真」につながる話はあまりなくて。この子たちならなにを書いてもいいと思ったのかなって、勝手に解釈しました。
――民生さんの鼻歌を陽水さんが書き起こしたらああなった、という説もありますよね。
由美 ああ、陽水さんがそんなことをおっしゃってましたね。でも果たしてそうなのか?(笑)
亜美 あはは。ね?
陽水さんの歌詞は「みんな歌ってみ」と思う気持ちよさ
――ちなみに民生さんと陽水さんのコンビは、その後も「渚にまつわるエトセトラ」(1997)、「オリエンタル・ダイヤモンド」(2007)の2曲をPUFFYに提供しています。
亜美 民生さんと陽水さんはお互いを尊敬しあっていて、キャッチボールがすごく上手くいってるふたりですよね。ユニットも組んでらっしゃいますけど、お互いが好き同士で、細かいことを言わなくても理解しあえる。陽水さんはこう来るだろうな、奥田くんはそう来るよね、みたいな感じで。
由美 陽水さんの歌詞を最初に文字で見ると、「え!」とか「は?」とか思うんです(笑)。でも歌うとめちゃめちゃ歌いやすい。それは3曲ともそうですね。どの曲も歌っていて気持ちよくなる。文字で見るのとまったく違うなって。だからみんな歌ってみ、って思います。
――「アジアの純真」のレコーディングでは、民生さんの歌のディレクションが厳しかったそうですが。
由美 いま思うと厳しかったよね?
亜美 そうだね。何回も何回も、ふたりの声が合うまでやり直して。いま思うと、どえらい手間をかけてくれたんだなって感じます。
由美 ビブラートはいらないって言われたのを覚えてます。もともとできないんですけど(笑)。とにかくまっすぐ歌ってほしいって言われました。
「民生さんは野良犬を2匹保護したみたいなノリだったんじゃ…」
――「アジアの純真」は96年5月にリリースされて大ヒットを記録しました。そのとき民生さんと喜びを分かち合うようなことはありましたか?
亜美 なかった気がする。けっこう立て続けにレコーディングがあって、私たちは馬車馬のように働いていて(笑)。次の曲、また次の曲みたいに、どんどん、どんどん。民生さんとはよく会ってたんですけど、ヒットを喜ぶことはなく、もちろん褒められることもないし。一緒に「疲れたね」って、はあはあ言いながらやっていたと思います。
――その後も民生さんのプロデュースによる楽曲が次々にリリースされましたが、民生さんとは音楽の話をよくしたんですか?
亜美 音楽の話は……したかな?
由美 うーん。民生さんは釣りのアレ、ルアーをコップに入れる練習ばかりしてたよね。
亜美 紙コップを立てて、そこを正確に狙うキャスティングの練習をいつもしてるんです。上手く入ればコップは倒れないんですけど、外すと倒れるので、私たちがタタタタと行って、それを起こすという。ずっと犬みたいに(笑)。民生さんは野良犬を2匹保護したみたいなノリだったんじゃないですか? こいつら意外と言うこと聞くかもなって。
――プロデューサーとアーティストという関係とはイメージがだいぶ違いますね。
由美 お弁当が届いたらお味噌汁を作る係とか、年下らしいこともやってたよね。エンジニアの方は濃いめが好きだから、お湯は少なくとか。
亜美 私がチューブから出して――。
由美 私がお湯入れて(笑)。「はい、どうぞ」って回してたでしょう?
亜美 楽しかったね(笑)。
由美 そういう後輩っぽいことをちゃんとしてました、当時は。
撮影 三浦憲治
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〈 「ふたりで話しているんですけれど、民生さんからもし…」達成したらPUFFYが解散するかもしれない“最終目標” 〉へ続く
(門間 雄介)
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