156cm、38kgでバスケ名門校へ→全国制覇→五輪新記録…「小さいから無理と思ったことは一度もない」女子バスケ・町田瑠唯(31)の人生が変わった瞬間
文春オンライン / 2024年10月25日 17時0分
町田瑠唯/1993年3月8日生まれ、北海道旭川市出身。札幌山の手高校を卒業後、2011年にWリーグ・富士通レッドウェーブに入団する。2014年からは日本代表にも選出され、リオ、東京、パリと3大会連続で五輪に出場。ポジションはPG ©時事通信社
〈 パリ五輪は「やりきれなかった」…女子バスケ・町田瑠唯(31)が明かした、“涙の理由”と日本の強み 〉から続く
世界屈指のパスセンスを誇り、日本バスケットボール界を牽引する町田瑠唯(るい)選手(31)。所属する富士通レッドウェーブは、10月11日から開幕したWリーグで連覇を目指す。とにかく負けず嫌いだったという幼少期、身長を理由に「無理だ」と言われてもバスケの道を歩み続けた理由、今後の展望について聞いた。(全2回の2回目/ はじめ から読む)
◆◆◆
20cm以上の身長差があっても…「“壁”という発想はない」
――2020年の東京五輪では日本初の銀メダルに貢献しただけでなく、フランス戦では18本のアシストを決め、五輪新記録を樹立しました。162cmと世界に比べたら身長が20cm以上低いのに、どうやって壁を乗り越えてきたんですか。
町田 壁って思ったことはあんまりないんですよ。課題はたくさんありますけど、それをどうやって克服するかと常に考えているので、“壁”という発想はないですね。相手が大きければ大きいほど楽しいし、相手が強ければ強いほどチャレンジ精神が湧いて、かえってワクワクするというか。小さいから「無理」と思ったことは一度もないかな。
もちろん、周りからは何度も「その身長じゃ無理」と言われ続けてきましたけど、そのたびに燃えちゃって……。とにかく負けず嫌いなんですよ。
兄に負けるのが悔しかった
――その負けず嫌いはいつごろから醸成されたんですか。
町田 私は兄、姉の3きょうだいの末っ子で、物心ついた頃から私の遊び相手は5歳上の兄とその友達でした。彼らとは野球をして遊ぶことが多かったので、同じように打ちたかったし投げたかったので、一人でこっそり練習していました。今でも自主練を見られるのが苦手なんですが、この頃からですね。
家の中では兄とプロレスやK-1ごっこ。でも負けるのが悔しくて、何度も兄にチャレンジしていた気がします。
――そんな野球少女だった町田選手が、なぜバスケットに目覚めたんでしょうか?
「バスケやらない?」人生が変わった瞬間は…
町田 小2の時に父から「校内マラソンで1位になったら野球道具一式をご褒美に買ってやる」と言われて。この時も家の周りを走ったり、こっそり練習していました。その甲斐あってか1位になることができて。そのとき、友達からバスケを誘われました。それが後に小中高とチームメートになる高田汐織(しおり)で、彼女のお兄さんがバスケクラブに入っていて、「足の速い子を勧誘してこい」と言われたらしくて。好奇心で参加してみたら、バスケが面白かった。
それで父に「バスケをやりたい」というと、「待ってました!」と言わんばかりに、その日のうちにスポーツショップに連れていかれたんです。父は学生時代にバスケをしていたし、家ではNBAのビデオをよく見ていたので、私が同じ競技に興味を持ったことが嬉しかったのかもしれません。
でも私は、父の嬉々とする顔を見つつ「もう逃げられないかも」と覚悟しました。
コーチの父から練習後に説教されて…
――バスケは楽しかったですか。
町田 むちゃくちゃ楽しかったです。父の影響でNBAも知って。父はマイケル・ジョーダンが好きだったけど、私はジェイソン・キッドのパスやドリブルに釘付けになって……。ひたすら彼のプレーを真似ていましたね。父の教えもあり、小学生の頃にはノールックパスやレッグスルー、ビハインド・ザ・バック(背後でするドリブル)なども出来ていたような気がします。
――9~12歳は子供の運動神経が著しく発達する“ゴールデンエイジ”と呼ばれています。この時期に技を磨く大切さを、町田さんも実践していたんですね。
町田 たまたまですけどね。中学時代も父がよく練習を見に来て、教えてくれたりしてたんです。練習中にミスしたり、やる気がなかったりすると、帰る途中で車をとめて反省会することもありました。それが嫌で嫌で(笑)。でもバスケ自体はとても楽しかった。北海道代表で全国大会に出場したんですが、優勝には届かなかった。だから、高校では全国制覇したいと思ったんです。
「156cm、38kg」でバスケの名門校へ
――高校はバスケの名門・札幌山の手高校ですよね。周囲から反対はなかったんですか?
町田 そもそも、山の手は「160cm以下の選手をとったことがない」と聞いていたんです。当時の私は156cmで38kg。父にも「3年間試合に出られない可能性もあるぞ」と言われました。でも、上島正光さんという名物コーチがいて、Wリーグに50人ぐらい選手を送り込んでいる。だからこそ、ここで全国を狙いたいと思いました。
両親は「地元旭川の高校でもいいじゃない」と言っていました。でも、気持ちは変わらなかった。
ーー実際に進学してみて、どうでしたか?
町田 先輩たちはみな高身長で、とにかく「体を大きくしないと」と思いました。食べて食べて、吐くほど食べましたね。寮生活だったのですがそこで出る食事は量が多くて……。ラーメンにどんぶり飯2杯は食べてましたね。
――3年の時はインターハイ、国体、ウインターカップの高校3冠に輝きました。
町田 上島コーチの指導は、「教える」というより選手に「考えさせる」ものでした。練習の最後に、自分の克服したい技術を3分間だけ練習する時間があったのですが、3分しかないからみんな高い集中力を発揮する。この練習で集中力、判断力、決断力みたいなものを学んだ気がします。高校3冠を獲れたのは、何よりチームメイトに恵まれていたからですね。
――町田さんは、Wリーグのオールスター投票では毎年人気ナンバーワンです。でも、メディアに出るのはあまり得意ではないとか……。
町田 恥ずかしい……。注目されるのが苦手なんです。そもそもなぜ私が人気なのかも分からないし。
広瀬すずも「推しの選手」と公言
――女優の広瀬すずさんも「推しの選手」と公言していますよね。
町田 広瀬すずさんが応援してくださっているという話は、ネットニュースで初めて知りました。びっくりしましたし、とても嬉しかったです。テレビの取材か何かで2人で写真を撮るというので、その時ちょっとだけお会いしました。めっちゃ可愛かったです。でも話をする時間がほとんどなく、いつかじっくりバスケ談義してみたいですね。
ただ、私がバスケの魅力を語らなくても、女子バスケには高田真希さんや馬瓜エブリンのように伝えるのが上手な人たちがいます。喋りは彼女たちに任せた方が、女子バスケの面白さが端的に伝わると思うんですよね。
それにWリーグには魅力的な選手がいっぱいいるんですよ。最初は私が入り口でも、そこからWリーグに興味を持ってもらって、他の選手のプレーもぜひ見ていただきたいです。もちろん、私のファンになってくださることはとっても嬉しいです。
何よりも辛いのは、バスケが出来なくなること
――10月11日からいよいよWリーグ24-25シーズンが始まります。町田さんが所属する富士通レッドウェーブは前シーズンの覇者。どう臨みますか。
町田 どの試合も楽な試合はないと思います。チームとしても個人としても、昨年以上に成長していかなくてはいけない。じゃないと連覇は難しい。私にとって何よりも辛いのは、ケガでバスケが出来なくなること。昨シーズンは足を痛めて2か月離脱してしまったので、今シーズンはフルに出場したいです。ぜひ、たくさんの方に試合会場に足を運んでいただけると嬉しいですね。
――引退後のことは考えていますか?
町田 バスケットボール以外のキャリアも考えています。昨年、会社を設立してアパレルブランド「 MACCHI 」を立ち上げました。現在は日常的に着用できるカジュアルウェアを中心にオンライン販売を行っていますが、さらに幅広くブランドの価値を感じてもらえるような展開をしていきたいです。
でも、私はまだ引退は考えていません。バスケットが大好きだから、出来る限り長く現役を続けたいですね。
(吉井 妙子)
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