小学校教師(34)が生徒の子どもを妊娠…「夫がラブレターを発見」「車内で一緒にいるところを逮捕」当時13歳だった元少年から見た、2人の関係の真実
文春オンライン / 2024年10月21日 17時10分
メアリー・ケイ・ルトーノー ©Daren Fentiman/ZUMA Wire/共同通信イメージズ 「ZUMA Press」
「真実の愛か禁断の過ちか」。まるで恋愛ドラマの宣伝文句だが、このキャッチコピーの対象が、違法な関係を持ったあと長年連れ添った女教師と男児の実録犯罪であったなら、どう感じるだろうか。
近ごろ、再注目されているのが、1990年代にアメリカで起こったメアリー・ケイ・ルトーノー事件だ。世界中で話題を巻き起こした「美人教師」による児童性的虐待は、フィクションの題材にもなってきた。2000年代には英映画『あるスキャンダルの覚え書き』にてケイト・ブランシェットが、加害者の死後となる2023年にはアカデミー脚本賞候補となった米映画『メイ・ディセンバー ゆれる真実』にてジュリアン・ムーアが加害者に似た役を演じている。
メアリーが人気の「美人教師」になるまで
加害者のメアリー・ケイは、人生のはじめから注目に慣れていた。1962年に彼女が生まれたシュミット家とは「元祖トランプ」と呼ばれるカリフォルニアの極右政治一家で、抗議活動が邸宅に押し寄せることも珍しくなかったのだという。父は共和党議員および第三党の大統領候補にまでのぼりつめ、母親も幼い兄弟の子育てをメアリーに任せて反フェミニスト活動に邁進した。6人の子どものうち、2人の兄弟はそれぞれブッシュ大統領の副法律顧問、トランプ大統領の外交政策顧問という華々しい経歴を歩むこととなる。
「完璧な保守一家」のイメージが崩壊したのは1980年代。父親が10年にわたって大学の元教え子と不倫関係にあり、2人の隠し子を放置していたことが発覚して失脚したのだ。メアリーの幼馴染によると、父への憧れが壊れてしまった娘は夢の世界に生きるようになった。そして後に、父親の行動を「さらに酷いかたちで」真似ることとなる。
親から離れて音楽の道に進もうとしたメアリーだが、望まぬ妊娠、それにともなう親の意向によって、大学を中退し、気の合わない恋人スティーブと結婚することとなる。夫婦仲は良くなかったが、4人の子をもうけ、シアトルに移ると教員免許を取得して小学校の人気教師となった。
妊娠、逮捕、駆け落ち…そして結婚
この小学校で、事件が起こった。父の癌が見つかり、流産も経験する悲しみにあったメアリーは、担任していた6年生のサモア系男児、ヴィリ・フアラアウと関係を深めていった。大家族のなかで親にあまりかまわれていなかったヴィリの芸術の才能をサポートして旅行や宿泊を重ねるうちに、性的な関係、つまり児童性的虐待に発展したという。1996年当時、34歳のメアリーはヴィリの母親と3歳ほどしか違わず、13歳のヴィリはメアリーの長男と2歳ほどしか違わなかった。
1997年、夫がラブレターを発見したことで逮捕されたメアリーに、言い訳のすべは無かった。ヴィリの子どもを妊娠していたためだ。出産後、児童強姦罪を認め、翌年に刑期を終えると、未成年との接触禁止令をやぶり、またもやヴィリと逢瀬を重ねた。駆け落ちをしようとしていた形跡のある車内で一緒にいるところを発見されて再逮捕された後、ヴィリとの2人目の娘を出産して、夫とは離婚した。
2004年にメアリーが釈放されると、成人になっていたヴィリが彼女の接触禁止令を取り下げさせた。そして翌年、それぞれ43歳、22歳となった二人は結婚する。200人が招待された結婚式は、4000本の蘭が飾られ、ティファニーの食器が引き出物として贈られる豪勢な催しだった。
性犯罪という認識の欠如
ゴージャスな挙式を支えていたのは、犯罪大国アメリカの好奇心だった。当時、メアリーの事件は「真実の愛か禁断の犯罪か」といった観点で大きな注目を集めていたのだ。結婚式にしても、テレビ局が独占放送のため出資したものだった。
結婚後、メアリーは法律事務所、ヴィリはホームセンターで働いたが、2児を育てる親として、お金が必要だった。そのため「スキャンダラスなカップル」としてメディア取材を受け続け、ときには娘たちもまじえて愛を語っていった。
こうしたメディアの熱狂は、今では考えられないものだ。よく指摘されるのは、性別が逆、つまり女児が被害者だったならもっと非難されていたであろうこと。90年代当時、女性の性犯罪者という存在が認知されていなかったからこそ、世間はこの事件を禁断のラブストーリーのように扱って盛りあがったのだ。じつは、性教育から離されて育ったメアリー自身も、そのように考えていた。晩年まで、自分が犯罪を犯していた認識はなかったと主張しつづけていた。
ヴィリが34歳になった2010年代後半、つまり10代の子を持つ親として犯行時のメアリーと同じ年齢になったころ、夫婦は別居と復縁を繰り返すようになっていった。テレビでの受け答えも不穏になっていく。事件について質問されたメアリーは「あの時の関係でどちらがボス(上位)だったのか」ヴィリに問いつめていき、不安げな相手に「自分が追いかける側だった」と認めさせた。2019年に離婚が成立すると、メアリーは癌をわずらい、翌年、ヴィリと娘たちに見守られながら58歳で亡くなった。
つらく複雑だった元少年ヴィリの人生
元「美人教師」のメアリーが大女優に演じられていった一方、元少年にあたるヴィリのストーリーはあまり語られてこなかった。メアリーが服役中だった2002年、彼の家族が学区と警察相手に起こした裁判では、高校を退学したころのヴィリの非行や自殺未遂が語られている。少年にして親になったヴィリは、友人に悩みを理解されず、周囲から「強姦魔」として笑われたという。メディアから得たお金にしても、親が浪費していた。
20代のころには、DJとして「先生に夢中」と題した扇情的なクラブイベントを開催したこともあったが、だんだんとメディア上での姿勢は変わっていき「まだ自分が生きていることに驚く」ほどつらい人生を歩んだと告白していった。30代になると、親として、10代の娘たちが年上の大人と交際することに反対を表明。妻の死後には、同意にもとづいた夫婦関係だったとしながら、個人的に子どもに惹かれることはないし、仮にそうなったら「なんらかの助けを求める」とコメントした。
現在40代になったヴィリは、新たなパートナーと第3子に恵まれ、孫を持つ祖父にもなった。2023年、事件によく似た映画『メイ・ディセンバー』が公開されると、彼をモデルにしたような役が同情的に描かれて賞も受賞したことで、ふたたび脚光を浴びることとなる。しかし、ヴィリは、制作陣から連絡がなかったことに憤りを示し、自分が映画に協力していたら「傑作がつくれたはず」だと主張した。メアリーとの人生は、映画の描写よりずっと複雑だったという。四半世紀にわたり世間を騒がせた「愛か犯罪か」の真実を知るのは、本人だけなのだ。
(辰巳JUNK)
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