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「自民党の総裁選でたとえるなら、高市早苗」トランプ陣営に潜り込んだ日本人ジャーナリストが明かす、トランプが選挙に弱いワケ

文春オンライン / 2024年11月1日 6時0分

「自民党の総裁選でたとえるなら、高市早苗」トランプ陣営に潜り込んだ日本人ジャーナリストが明かす、トランプが選挙に弱いワケ

ミシガン州議事堂前にトランプの旗とアメリカ国旗が舞った 2020年11月

 ドナルド・トランプが2016年11月、大統領に当選した当夜、その意外な結果に誰よりも驚いたのはトランプ本人だった。

 当選が確定するまでの1時間あまり、トランプの様子は七変化した。混乱し、呆然とし、さらには恐怖にかられる。そして当選が確定すると、トランプは「幽霊を見たような顔をしていた」という。(出典:『炎と怒り トランプ政権の内幕』)

16年のトランプ勝利は薄氷を踏むような辛勝だった

 ヒラリー・クリントンと戦った選挙において、「世紀の番狂わせ」によって大統領の座を射止めたトランプには、選挙に強いのではないか、という誤解がある。

 しかし、トランプは選挙に弱い。

 たしかに、16年の選挙ではトランプは勝利した。獲得した選挙人数は、クリントンの232人に対し、トランプは306人。しかし、総得票数となると、トランプの約6300万票に対し、クリントンの約6600万票と逆転する。

 各州で、得票数で勝った方が、その州の選挙人を総取りするアメリカ特有の選挙事情により(例外あり)、こうした捻じれ現象が起こり得る。だが、その頻度はまれで、過去100年に行われた大統領選挙で2回だけだ。トランプvs.クリントン以外では、2000年に戦った、ジョージ・W・ブッシュ(子)vs.アル・ゴアだけ。

 トランプの16年の勝利は、世紀の番狂わせではあったが、薄氷を踏むような辛勝だった。

 20年の大統領選挙において、トランプは、現職有利と言われる選挙戦で、ジョー・バイデンに選挙人数でも総得票数でも負けるという完敗を喫している。過去100年において、敗北した4人目の現職大統領となった。

 それだけではない。

 22年の中間選挙では、敗北後もトランプが影響力を維持する共和党が、民主党に大勝利し、“赤い大波(赤は共和党のイメージカラー)”が、起こる、と予想された。しかし、蓋を開けてみれば、直前にトランプが大統領選挙への出馬を宣言をほのめかしたことが足を引っ張り、下院では共和党がどうにか過半数を維持したが、上院は民主党が主導権を維持する結果になった。

鉄板支持者は男性×30代以上×白人主義者

 トランプが選挙に弱い、と言えば、意外に思う人もいるに違いない。トランプの支援者集会に入るため、夜を徹して場外で入場を待つ支持者の映像を見たことがある人もいるだろう。徹夜してでも支援者集会に入りたいという支持者を持つのは、アメリカでもトランプだけだ。

 負けた20年の選挙結果を“不正だ”と言い募ったトランプの言葉に乗せられ、選挙結果を覆すため、銃やライフルを持って連邦議事堂を襲撃したトランプ信者のニュースを見たことがある人もいるはずだ。

 たしかに、何があってもトランプに投票するという鉄板支持者は存在する。けれども、この鉄板支持者があだとなり、トランプはいつも選挙で苦戦を強いられる。先の自民党の総裁選でたとえるなら、好悪が大きく分かれる高市早苗という立ち位置に近い。

 トランプの鉄板支持者は、投票に行く人の3割前後を占めると言われる。たしかに大きな影響力を持つ数字だ。しかし、3割前後という数字にしてしまうと、だれがトランプに投票しているのかという顔が見えてこない。

 私は20年の大統領選挙のためにアメリカのミシガン州に居を構え、トランプ陣営のボランティアとして1000軒以上の戸別訪問をこなした。それと並行して、トランプの支援者集会に参加して、トランプの投票する人たちの話に耳を傾けてきた。

 ボランティアと取材をはじめてすぐに分かったのは、人種による支持政党の片寄りである。

 共和党、特にトランプが大統領となって以降の共和党は、白人による、白人のための、白人の党という色合いを濃くしていった。トランプの支援者集会に行くと、その9割前後が白人で、そのうちの6、7割を男性が占める。白人男性が、トランプ陣営の太客(ふときゃく)なのだ。

 信者たちを最大公約数に沿って描き出すと、30代以上の白人男性で、最終学歴は高校か短期大学卒業が多い。宗教ではプロテスタントが多く、文化や性の多様性には反対の立場をとる。さらに、銃規制や人工妊娠中絶にも反対する。

「トランプが苦戦しているなんて、フェイクニュースさ」

 ボランティアをしていて、強く印象に残っているのは40代の白人男性。

 スマホ上に現れる選挙用のアプリに表示された地図に従って、家を訪ね、トランプへの投票を求めるというのがボランティアの仕事。

 戸別訪問を始めて間もないころ、ハリー(当時73)という白人男性の家を訪ね、アンケートを取りはじめようとしたところ、ウォルターと名乗る40代の息子が私たちの間に割り込んできた。

「なにぃ、トランプ陣営のボランティアだって。ならば、オレがアンケートに答えてやるよ」と挑みかかるように言う。赤のトランプの帽子を被り、迷彩柄のTシャツにもトランプの文字があった。その容貌には、映画『シビル・ウォー』(アレックス・ガーランド監督)に出てくる、赤いサングラスをかけた狂気をはらむ民兵を連想させる不気味さがあった。

 アプリの指示に従ってアンケートを始めると、ウォルターはこう言い放った。

「もちろん、トランプに投票するよ。なぜかって? トランプはこれまでオレたちみたいな労働者のために、多くの約束事を果たしてきてくれたからだ。経済状態は最高だろう。株価は右肩上がりだ。大統領選で、トランプが苦戦しているなんて言っているメディアもあるが、そんなのは全部フェイクニュースさ。トランプには、どうしたって、もう4年、大統領をやってもらわなければならないんだ」

 終始にこりともせず、こちらを値踏みするような視線を外さずに話し続ける。強烈なトランプ支持者でありながら、強い猜疑心がにじみ出ていた。

 しかし、これはボランティア活動なので、写真を撮ることはできなかった。

「トランプ支持者」と「トランプ信者」の違い

 2020年11月、テレビのニュース番組が、ジョー・バイデンの大統領選の当確を打つと、私はすぐ車に乗って、アパートから10分離れたミシガン州議事堂に向かった。負けを認めないトランプに倣って、トランプ信者たちが抗議運動を始めるのは分かっていた。彼らの主張を聞こうと思って足を運んだ。

 私は、トランプ支持者とトランプ信者という言葉を使い分ける。選挙で敗北が決定する前にトランプを支持していた人はトランプ支持者。選挙で負けが決まった後も、トランプが勝ったというウソを信じ込む人を、トランプ信者と呼んだ。信者たちは、トランプの勝利を信じて動き出した。

 1つだけはっきりしていることは、トランプが言い募る不正選挙などなかった、ということだ。

〈 「トランプの負けは中国共産党が…」「9.11テロも『闇の政府』の…」トランプ信者(35)の驚きの主張とは〈アメリカ大統領選はどうなる?〉 〉へ続く

(横田 増生)

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