「トランプの負けは中国共産党が…」「9.11テロも『闇の政府』の…」トランプ信者(35)の驚きの主張とは〈アメリカ大統領選はどうなる?〉
文春オンライン / 2024年11月1日 6時0分
ミシガン州議事堂前に集まったトランプ支持者 2020年11月
〈 「自民党の総裁選でたとえるなら、高市早苗」トランプ陣営に潜り込んだ日本人ジャーナリストが明かす、トランプが選挙に弱いワケ 〉から続く
トランプの忠犬とみなされた当時司法長官のビル・バーでさえ選挙後に、司法省とFBI(連邦捜査局)が合同で調査したが、「今日に至るまで、大統領選挙の結果を覆すような大規模な不正は見つかっていない」と語っている。
しかし、その後も、トランプ陣営は、選挙結果に不正があったと主張し60件以上もの裁判を起こすが、全敗と呼んでいい惨憺たる結果に終わっている。
中国共産党が負けを仕組んだ…と主張するトランプ信者
しかし、それでもトランプの勝利を信じるのがトランプ信者なのだ。ミシガン州の州議事堂に集まってきた人たちの声を拾おう。
最初に声を掛けたのは、ライフル銃を抱えたニック・ラッセル(35=いずれも当時)だ。ミシガン州では、銃を所有するだけでなく、公然と持ち歩くことも州法で認められている。
選挙の結果をどう受け止めるのかと訊けば、「本当はトランプがミシガン州の選挙で勝利したんだ。けれども、CCPがそれを阻止したんだ」(実際、ミシガン州で勝利したのはジョー・バイデン)。
――CCPとは何なのか?
「中国共産党(Chinese Communist Party)のことだよ」
――はぁ……。
「開票日の夜、突然現れたバイデン票は、中国共産党が急いで印刷したものだ。習近平とジョー・バイデンが手を組んでトランプが負けるように仕組んだんだよ。バイデンの息子が、中国系企業の取締役を務めていて、南シナ海の島を中国共産党に売り渡すのに一役買っているんだよ。そのお返しとして、中国共産党がバイデンを勝たせたわけさ」
いろいろな疑問符が頭に浮かぶが、1つだけ訊いてみた。中国共産党はどこで投票用紙を印刷したのか、と。中国国内で印刷したのでは、開票日に間に合わない。
「アメリカ国内にも中国共産党の息のかかった印刷所がたくさんあるんだから、そんなのなんの問題もないさ」
――えぇ……。
即座には判断できない内容も多かったので、連絡先を教えてほしい、とお願いした。
「ダメだ。オレたちのやり取りは、中国共産党に筒抜けになるから。こちらからあんたの名刺のメールアドレス宛に、情報源のリンクを送るよ」
どこまで本気なのか?
どれだけの能力を中国共産党は持っているというのか?
書き取った男性の名前と住所で検索しても、それらしい人物もヒットしない。彼からメールが送られてくることもなかった。
9.11同時多発テロも「闇の政府」のしわざだと…
しかし、中国共産党が陰で糸を引いていると主張するのは、彼1人ではなかった。
州議事堂から車で1時間離れたフリントから来たというマイク・ピニュースキー(52)は、「いろんな公約を実現してきたトランプを110%支援する」と言い、「この選挙は民主党と中国共産党によって盗まれた」と語る。
「民主党と中共(CCP)がグルになって、アメリカの行く手を阻んでいるのは明らかだよ。どこからの情報かって? YouTubeやFacebookで探せば、いくらでも情報は見つかる。共和党はディープステート(闇の政府)に支配されているんだ。それは、今に始まったことじゃない。(2001年に起きた)9.11の同時多発テロも、当時の政権が国民を支配しやすくするために仕組まれたんだ」
――当時は、トランプと同じ共和党政権で大統領はジョージ・W・ブッシュ(子)ですよね。
「そうさ、ブッシュもディープステートの一員だったし、トランプに散々たてついたジョン・マケイン(元上院議員=2008年の共和党大統領候補、2018年没)も、同じだ。トランプはこの4年間、ディープステートという悪魔のような存在からアメリカを守るために戦ってきたし、その戦いはあと4年続くべきなんだ」
話を文字にすると、この人は大丈夫かな、と感じる人もいるかもしれないが、しゃべっている本人はいたってまともに見える。たとえば、たまたま入ったバーで隣に座れば、雑談の1つを交わしてもおかしくないような感じだ。
「武器を持って立ち上がるしかない」と語るトランプ信者も
2人とも、見て分かるように白人男性だ。白人男性を選んで声を掛けているわけではない。手当たり次第に声を掛けていっても、白人男性に行きあたる確率が圧倒的に高い。
この抗議集会の主催者であるケビン・スキナー(34)は、連邦最高裁の判決まで待つと語った。その腰には拳銃が刺さっていた(この時点では、まだ裁判の結果は出ていなかった)。
「もし最高裁でもトランプ陣営の訴えが認められないのなら、武器を持って立ち上がるしかない。そんなことはオレたちだってしたくないさ。でも、民主主義を守るにはそれ以外の選択肢はないじゃないか」
その言葉通り、2021年1月6日、連邦議会で選挙結果が認定される日、トランプの言葉に乗せられ、何千人もの暴徒が連邦議事堂に突入し、死者5人を出す大惨事を引き起こした。
浮動票を遠ざけるトランプ陣営の熱狂
では、冒頭の論点に戻ろう。
これだけ忠実な信者を抱えながら、なぜトランプは選挙に弱いのか。トランプを取り巻く熱狂は、強力な求心力となる反面、遠心力としても働き多くの有権者を遠ざけてしまうからだ。つまり、トランプの支持層は、広がりに欠けるのだ。
トランプを好きな人は好き、嫌いな人は嫌い。そこまではいい。どちらにしようか、と迷っている人までも、トランプの頑迷な姿勢が、支持から遠ざけてしまう。それがトランプの弱点だ。
先に挙げたように、トランプ信者は、投票者の3割前後を占める。もちろん、3割では選挙には勝てない。残りの2割はどこから来るかというと、浮動票である。極端に右側でもなく、極端に左側でもない、穏健派と呼ばれる人たちの投票が、勝負の行方を握る。人種と性別でいうと、郊外に住む裕福な白人女性が狙うべき浮動票となる。
ボランティア活動で聞いた郊外に住む、2人の白人女性の声を記しておこう。2人とも共和党員で、16年の選挙ではトランプに投票したが、20年はトランプには投票しないという。
キンバリー(48)は、以前の結婚で夫から家庭内暴力(DV)の被害を受けたことがある、と言う。
「トランプの言動を見ていると、どうしても自分のDVの体験を思い出してしまうので、拒否反応が出てしまうわね。ジョージ・フロイドの事件の直後も、ワシントンDCで催涙ガスを使ってデモ隊を追い散らすのを見ると、トランプに投票するのは二の足を踏むわ。我が家には5人の娘もいるので、なおさらね」
夫を亡くし今は一人暮らしだという70代のリンダは、こう話す。
「わが家は祖父母の代からみんな共和党支持者なのよ。親戚も全員ね。トランプの経済政策には大賛成よ。けれど、何でも力ずくで解決したがる姿勢には問題があると思うわ。ブラックライブズマターの運動で、デモをする人たちにも、武器を使ってでも抑え込もうとしているじゃない。それ以前に、もっと対話が必要よね。このままだと、トランプに投票する気にはなれないわね」
こうして20年の選挙でトランプは敗北を喫した。
政治の風はハリスへの追い風に
そのトランプに今回の選挙で、2度、大きな追い風が吹いた。
1度目は、現役大統領であるジョー・バイデンとの討論会。よぼついた足取りで、バイデンが会場に現れたとき、すでに勝負はあった。討論会でも、言語不明瞭のまま言い間違いを多発して、散々な結果となった。このとき、多くの無党派層が、バイデンに次の4年を託すのは無理だ、と思った。
2度目は、トランプが演説中に狙撃された時。直後に、しゃがませようとする警護隊を制し、右手を高く突き上げた。AP通信のカメラマンが、星条旗をバックに写真に捕らえた時だ。トランプに嫌悪感を抱く層までを、抱え込んだよう。これでトランプの勝ちは決まったかのようにも見えた。
しかし、政治の風は移り気である。
バイデンが自らの大統領選挙の出馬を取りやめ、カマラ・ハリス副大統領を後継指名した。民主党が迅速に一本化していくと、政治の風は逆流を始め、ハリスの追い風となって吹きだした。
トランプとの最初で最後となった討論会の冒頭で、ハリスがトランプに近寄り、簡単に自己紹介した後、握手をした時点で、討論会での勝利が確定した。討論内容でも、トランプを圧倒した。直後のCNNの調査では、視聴者の63%が、討論会でハリスが勝利したと判定した。
勝敗のカギを握る3つの州とは…
投票日を目前に控えた今、世論調査では、ハリスが一歩リードしている。
ならば、今回の選挙ではハリスが勝つのかと言えば、まだ勝負の行方は分からない。最後の最後までもつれるだろう。早計に勝ち負けを予測するのは、16年のトランプの大逆転に学んでいない愚か者だ。
今回の選挙戦で注目するべき州は3つある。1つは、私が1年間居を構えたミシガン州。その右隣のペンシルバニア州。ミシガン州の左隣のウィスコンシン州。この3州は、もともと“青い壁(青は民主党のイメージカラー)”と呼ばれ、20年以上、民主党が守ってきた。しかし、その3州を引っくり返したのが16年のトランプだった。
それが20年、再び、バイデンによって“青い壁”が出来上がり、トランプの敗北へとつながった。
24年も、この3州が最後まで僅差でもつれ、勝敗のカギを握ることになるのは間違いない。
(横田 増生)
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