「エンゼルスでの6年間を忘れることはない」名門・ドジャースで大活躍の大谷翔平が、移籍直後に語っていた“古巣への率直な思い”
文春オンライン / 2024年10月12日 11時0分
ドジャースの大谷翔平選手 ©文藝春秋
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今や世界的なスター選手となった、ドジャースの大谷翔平。そんな大谷と一対一で向き合い、インタビューを続けているのが、ベースボールジャーナリストの石田雄太氏だ。大谷は石田氏とのインタビューの中で、どんな言葉を紡ぎ、どんな思いを語っているのか。
ここでは、石田氏の新著『 野球翔年II MLB編2018-2024 大谷翔平 ロングインタビュー 』(文藝春秋)より一部を抜粋。ドジャースに移籍した理由を語った独占インタビューを紹介する。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)
◆◆◆
“名門”ドジャースの印象
――今シーズンからドジャースのユニフォームを着てみて、このチームに感じている印象はいかがですか。
「エンゼルスって和気藹々(わきあいあい)としたフレッシュな雰囲気があって、若い選手も多いじゃないですか。エンゼルスへ入団したときには僕も若手でしたし、先輩たちにも温かみがありました。今年の僕はバッターのほうでプレーしていますからドジャースでは野手の人たちと接する機会が多いんですが、野手の年齢層がけっこう高めで、エンゼルスとはまた違った感じのプロフェッショナルな雰囲気があります。
チームとして団結する側面を持ちつつも、個人としてやるべきことを大事にしているという……練習からひとりひとりが集中して、やるときはやる、エンゼルスの良さとはまた毛色の違ったスタイルを感じています」
――歴史のあるドジャースに伝統のようなものを感じることはありますか。
「今のところは、これがそうか、というものはとくになくて、むしろ名門なのにすごく柔軟だなと思うことのほうが多いですね。新しいことに対して寛容だし、新しいことをいち早く取り入れていく感性を持っている感じがします。
これだけのお金を使って、本当に優秀な人にいち早くアプローチしていく柔軟性があるし、同時にマイナーシステムも充実させている。僕はマイナーへ行ったことはありませんが、ドジャースの一番の強みは育成だと思っていて、スプリングトレーニングに来ていた招待選手やマイナーの選手と接したら、それこそ毛色の違いを感じました。僕もそれなりの歳になりましたし、ドジャースの若い子たちが何を目的に練習をしているのかを見ていたら勉強になりました」
大谷にとって、ドジャースはどういう存在だったのか?
――12年前、花巻東からドジャースに行くことを決めていれば、ピッチャーとして、そのマイナーからのスタートになったと思います。7年前、ファイターズからエンゼルスを選んだときもドジャースは熱心に誘っていたと聞きますが、ナ・リーグにDHがなかったので投打の2つは今の形と違っていたでしょう。となると、ずっと縁があるように見えるドジャースは大谷さんにとって、どういう存在だったんですか。
「同じドジャースという球団ではありますが、高校を出たてのときとは内部の状況も編成の人も変わっていると思うので、今とは違うチームだと思います。ただ僕がこちらに来た2017年で言えば、当時の編成担当の方々は今とほぼ変わっていません。
だから比較するならそのときかなと思うんですが、もし僕がドジャースの編成の仕事をしていたとしたら、僕がエンゼルスを選んだことについて、いろいろ考えるところがあったと思うんです。同じエリアの別のチームに行かれてしまって、それはフロントとしては複雑な気持ちがあったんじゃないかなと……それでも僕のことをその後もずっと評価し続けてくれて、いい選手はいい、欲しい選手は欲しい、と熱烈に勧誘してくれました。
感覚的なものなので言葉にするのは難しいんですが、あえて言葉にするなら、最後までオファーを出し続けてくれたその姿勢に『ウチは名門だから』というところはまったく感じませんでした。だから最後、決めるとなったとき、僕の心の中で何か感じるものがあったんでしょうね」
2017年にエンゼルス移籍を選んだワケ
――2017年と2023年のドジャースは何かが変わった、ということですか。
「2017年のときには25歳ルールがあったのでお金云々のところは度外視するしかないんですが、正直、そのときに投打の2つをこういうふうにやっていくという明確な態勢、ビジョンを持っている球団はありませんでした。
僕のほうにも本当に2つできるという確信はなかったし、メジャーリーガーとしてのキャリアをスタートさせるとき、そのために必要な環境を選ぶとしたらどこなのかを考えたら、エンゼルスだというのがそのときの僕のフィーリングでした。僕の中ではドジャースが変わったというより、僕のほうのフィーリングが2017年はエンゼルスと合った、今回はドジャースと合った、という感じです」
――そのフィーリングが結果的に大谷さんを正しい道に誘ってくれたと思えますか。
「エンゼルスはエンゼルスで、もちろんよかったと思っています。6年間のエンゼルスの環境は素晴らしかったし、あのときの選択は間違いではなかったと言い切れます。あちこちケガをしたせいで試合に出られない期間もあったので、そこは貢献できなくて申し訳なかったと思っています。
ただ、自分にとってもチームにとっても、2つをやりたい方向へ順調に進んでこられたのは、エンゼルスという球団の持っている色が強く影響していたからだと思います」
僕の中でエンゼルスでの大事な6年間を忘れることはない
――エンゼルスの色、というのは?
「チームの色、ファンの人の色……ファンの人は本当にやさしくて、野球への熱もありながら過激すぎることもなく、温かみがありました。選手もフロントの人たちも、みんながそうでした。そのおかげで僕はストレスフリーに野球ができたと思うんです。
今なら、結果が出ずに何か言われたとしてもそれは慣れた環境の中で結果を出せない自分の実力のせいだと受け止められますけど、メジャー1年目のスプリングトレーニングでまったくダメだったとき、いろいろな人がいろんなことを言う中で、フロントの人、選手、ファンの人たちが本当に温かくて、『まだまだ開幕してないんだから』というスタンスを貫いてくれました。
あの温かさに助けられたから、その後の成長曲線を右肩上がりの放物線で描くことができたんだと感謝しています。僕の中でエンゼルスでの大事な6年間を忘れることはないし、いい思い出はたくさんあります」
「死ぬ間際にならないとわからないんじゃないかな」
――誰も歩んだことのない投打の2つをやるという礎を、結果的にはファイターズでもエンゼルスでも築き上げることができました。大谷さんの言うフィーリングって、どういうものだったと思っていますか。
「FAの交渉のとき、話をさせてもらった球団のオーナーの人たち、フロントの人たち、代理人のスタッフ、みんなが『結局、どこへ行っても正解だと思う』と言ってくれたんです。野球に携わっているひとりとして、そういう素晴らしい人たちが他球団のオーナーであり、フロントであることは、誇らしい気持ちになりました。
つまり人生には枝みたいな選択肢がいっぱい広がっていて、その都度、自分で選んできたんですが、もしかしたらどっちを選んでも結果的に行き着く先が一緒だったという場合もあると思うんです。何が正解だったのか、何が失敗だったのかは、死ぬ間際にならないとわからないんじゃないかな。その瞬間、よかったなと思えれば全部がよかったし、ダメだったなと思うようならどう転んでもダメだっただろうし……」
(石田 雄太/Number Books)
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