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「小学校の卒業制作は洪水のあとの川から…」祖父が明かした“孫娘への思い”《能登豪雨中3女子》

文春オンライン / 2024年10月20日 7時0分

「小学校の卒業制作は洪水のあとの川から…」祖父が明かした“孫娘への思い”《能登豪雨中3女子》

住宅4棟が流された

「対面したら、温かい布団に寝かせてあげて、『ゆっくり休んで。お祖父ちゃんお祖母ちゃんももう少ししたらそっちに行くから、それまで待っててね』と声をかけてあげたいです」

 能登豪雨から10日が経過した10月1日の昼。安否不明者の1人だった石川県輪島市の中学3年生の喜(き)三(そ)翼(は)音(のん)さん(14)に関する無情な知らせを受け、祖父の誠(さと)志(し)さん(63)は、気丈に声を絞り出した。

◆◆◆

発見された女性

 輪島市から直線で170キロほど離れた福井港の沖合。漁船から「人のようなものが漂流している」と管轄の海上保安署に連絡が入ったのは、9月30日午後4時過ぎのことだった。発見されたのは、身長150センチほどの女性。身に着けていたジャージズボンのタグには手書きで「喜三」と綴られていた――。

能登半島地震で、自宅は準半壊

 9月21日、輪島市の塚田川が氾濫し、翼音さんの自宅を含む4棟の家が押し流されたのは、市の中心部から程近い山間の久手川地区。約7年前に翼音さんの父親の鷹也さん(42)が購入した戸建てから200メートルほど川下には、輪島塗の蒔絵職人である誠志さんの自宅兼工房があった。

 翼音さんの捜索が続いていた9月28日。誠志さんは孫娘への思いを小誌に明かしてくれていた。

「翼音は大事な初孫。小さい頃は私の家で一緒に暮らしていて、輪島朝市にもよく遊びに来とりました。中学に上がってから『ちょっと朝市の仕事も手伝ってくれるか』と頼んだら、翼音は『いいよ』と言って、土日や連休で来れる時は、朝市のお店を手伝ってくれるようになったんです」

 朝市の人たちにも可愛がられた自慢の孫だった。だが、1月1日の能登半島地震で、観光名所の輪島朝市一帯が猛火に包まれ、誠志さんの店舗も全焼。自宅は準半壊の判定を受けた。

「翼音も『祖父ちゃんを手伝うよ』と」

 その約3カ月後、金沢地区に避難した組合員有志が金沢市金(かな)石(いわ)港で「出張輪島朝市」を開催すると、そこにも溌剌とした翼音さんの姿があった。

「第1回の出張朝市以降も翼音は何度も手伝いにきてくれて。呼び込みから工芸品の包装、お金の扱いまで何でも完璧に任せられるようになっていました。輪島塗の仕事は、まだ震災前の2割程度しかできていませんが、私は再建するつもりでしたし、翼音も『祖父ちゃんを手伝うよ』と。この夏休みにも、富山県や白山市など、2人で出張朝市に行ってきたばかりやったんです」(同前)

金沢の高校を受験したい

 震災から間もなく、誠志さんと妻は、金沢市に近い野々市市に一戸建てを借りた。仕事と生活の拠点は輪島市から遠く離れてしまったが、翼音さんからは、嬉しい申し出もあった。

「翼音は来年、金沢の高校を受験したいと言って勉強を頑張っていました。『祖父ちゃんと祖母ちゃんの家から通っていい?』と。私らも『待っとるから、来いよ』と言っていました」

作品は洪水の後の川から

 絵を描くのが得意な翼音さんは、中学校で美術部の部長を務めていた。

「翼音に『高校でこっちに来たら漆の絵付けもやってみっか?』と聞いたら『やってみる!』と。小学校の卒業制作でやったことはあるんです。沈金彫りといって、15センチ四方ほどの板に柄を彫って、金粉を入れて。翼音はバラの絵を彫っていました。その作品は洪水の後の川から見つかりました――」(同前)

 あの日、能登半島北部の上空に発生したのが、集中豪雨をもたらす線状降水帯だった。その無慈悲な雨量は、午前8時から11時の3時間で輪島市の平年の9月1カ月分を上回った。

 当日朝、鷹也さんは仕事に向かい、長男はサッカーの練習試合に。母親は1歳の次女を連れ、室内で行われる保育所の運動会に出かけた。自宅に残っていたのが、長女の翼音さんだった。雨脚が強まり、心配になった鷹也さんは午前9時台に翼音さんとビデオ通話。彼女は外の激しい濁流を映しながら「海みたいになってる」と話したという。母親や友人も翼音さんに連絡をしていたが、午前10時には音信が途絶えた。

家が川に流されとるぞ!

 その前後、出張朝市で妻と富山県砺波市にいた誠志さんは、久手川地区の同級生男性から連絡を受ける。

「息子の鷹也ん家が川に流されとるぞ!」

 誠志さんの同級生ら周辺住民は、翼音さんの家から300メートルほど川下の小高い位置で、暴れ狂う塚田川を凝望していた。見覚えのある白い壁の家屋は、濁流に揉まれながら、川沿いにあるコンクリートの壁にぶつかると、轟音を上げて破砕したという。

着ていた服は娘のもので間違いない

 10月1日午後、輪島警察署に出向いた鷹也さんは、福井県の沖で見つかった遺体の衣類写真を確認した後、報道陣の取材に応じた。

「これからDNA鑑定をするので、まだ確定ではないんですけど、着ていた服は娘のもので間違いないと思いました」

 翼音さんが身に着けていたのは、鷹也さんがあげた人気ゲーム「モンスターストライク」の柄入りのスウェットだった。

「本当に見つかってくれてよかったです。これまで捜索してくださった警察、消防、自衛隊、海上保安庁、地元の漁師の皆さんには、この場をお借りしてお礼を言いたいです。ありがとうございました。娘にはお帰りと言ってあげたい」

 能登豪雨の犠牲者は、翼音さんを含めると、14人に及ぶ。なおも1人の行方と安否が分かっていない。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年10月10日号)

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