党首討論で石破茂首相が“急に腰が重くなった質問”とは? 一度上げた手を戻し、両手で身体を起こすようにゆっくりゆっくりと…
文春オンライン / 2024年10月12日 7時0分
野田佳彦代表との党首討論中に、天を仰ぐ石破茂首相 ©時事通信社
10月9日午後、衆議院解散に先立って行われた石破茂首相と野党トップによる党首討論には、石破首相の「ストレス」があちこちに現れていた。
筆者が特に気になったのは、立憲民主党の野田佳彦代表との討論だ。野田代表は、“議論”をしようと石破首相に呼びかけて話しはじめた。
党首討論なので、カメラは演台に立つ者に向けられている。つまり、野田代表が話している間、石破首相の表情はほとんど画面に映し出されない。質問をどういう表情で受け止めているかは国民にとっても興味があるはずで、話していない側の表情もワイプなどで見せて欲しいと思ってしまった。
それでも、時折映される表情からは、石破首相のいらだちや不快感が見てとれた。とりわけそれが現れていたのは、質問を受けてから立ち上がるまでの「速度」だ。
序盤は立ち上がり方にも話し方にも余裕があったが…
野田代表はまず「政治資金規正法の見直し」に話を始めた。「企業献金の禁止からスタートすべき」とする野田代表に、石破首相は資料を横に置くと、ひじ掛けに手をつくことなく椅子からスッと立ち上った。そこには何の躊躇もいらだちもない。柔らかく淡々とした声で「お金に左右されない政治を作りたい」と答えた。
だが「政治とカネ」の話が派閥の裏金事件の議員たちに絡むと、そのスピードは変化する。野田代表がいわゆる裏金議員について「相当程度非公認になる」という首相の発言にかみつき、実際は裏金議員のほとんどが公認されることに「大半が公認」ではないかと指摘。さらに裏金議員に政党交付金から血税が支給されることは国民感情から理解できないと発言した。
それを受けて石破首相は、ややスローに立ち上がった。「裏金は決めつけだ」と前かがみで野田代表を睨むように答え、野党議員からヤジが飛ぶとこれを右手を掲げて制した。さらに声音を変えて語気を強め「(裏金ではなく)不記載だ」と言い切った。
立ち上がり方はスローでも、質問は想定内、回答についても自信があったのだろう。
さらに野田代表は、裏金議員を公認しないことについて「厳しいように見せかけている」と、処分の軽さを指摘した。それを聞いた石破首相は「お答えします」とサッと立ちあがった。先ほどよりも明らかに速い。
自身が2度無所属で選挙を戦ったことを上げ「公認がないことがどれほど辛いのか」と処分の重さを主張し、「甘いとか、いい加減だとか、一切考えていない」と語気を荒げて言い切った。
公認しなかった議員が選挙に勝った場合に追加公認するかを聞かれた時は、石破首相の微妙な線引きが見てとれた。
野田代表が「早く総選挙をやって、早くみそぎをすませて、早く要職つけようというお考えか」と聞く間、「みそぎをすませて」までは頷いて聞いていたが、「要職につけようと」で首を傾げて横に大きく振ったのだ。
公認を与えることを野田代表は「お墨付きを与える」と表現したが、石破首相にとって選挙によって国民の信託を得た議員こそが、国民から「お墨付きをもらった」と言えるのだろう。自民党の議席数を増やすためにも選挙に勝ってお墨付きを得れば追加公認はするが、要職につけるつもりは現段階ではなさそうだ。
派閥の裏金疑惑の質問になると、急に腰が重くなり…
石破首相が椅子から立ち上がるスピードが一気に遅くなったのが、派閥の裏金疑惑についての質問の時だった。
野田代表が「あなたは新しい事実が出てくれば再調査すると何度も言った」と再調査を求めると、石破首相は一度上げた手をひじ掛けに戻し、両手で身体を起こすようにゆっくりゆっくり椅子から立ち上がり、「再調査を否定するものではない」と低い声で述べた。
すぐに野田代表が「再調査をやるのか、やらないのか」と畳みかけるが、石破首相は立ち上がりかけた身体を一瞬止め、ゆっくりと立ち上がって「最大限の努力をしてきた」と答えるにとどめた。この問題を追及されている間、石破首相の腰はどんどん重くなっていった。党内への忖度があるのか、党内力学が働くのか、断言できないことへの引け目と答えることへの躊躇を感じさせる。
石破首相が「追及されたくなかったこと」とは
石破首相の動揺が現れたのは、野田代表が「予算委員会を開いて(裏金議員を)証人喚問させてくれ」と裏金問題を追及した時だ。石破首相は椅子のひじ掛けを握るようにさすっていた。これは、落ち着かない気持ちや感情をなだめる時に見られる仕草だ。
苦笑いを浮かべて身体を重たそうに持ち上げ、声のトーンを下げて「予算委員会の開催は国会でお決めいただくこと」と回答。
「その上で」と出てきた言葉は予算委員会に絡めた「石川や能登半島の方々の困窮を改善する」ための予備費の話題だ。「野田代表もご存じのように」と話題をすり替える。これ以上、派閥の裏金問題について追及されたくなかったのだ。
全体を通して印象的だったのは、この討論のあいだ石破首相は立憲民主党の政策や野田代表の考えを問う姿勢を一度も見せなかったことだ。野党が本格論戦を求め、討論時間が通例の45分から1時間20分に延長されていたが、石破首相は問いかけられたことに答えるのみで討論というよりも国会答弁のようだった。
総選挙に向け、国民が判断できる材料をできるだけ提供すると述べていた石破首相。果たしてこの短い期間に、石破内閣のメッセージは国民に伝わったのだろうか。総選挙は約2週間後に迫っている。
(岡村 美奈)
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