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ポピュリズム、過激化、分断、腐敗…“アメリカの内戦”を描いた監督がこの映画に込めた“知られざるメッセージ”

文春オンライン / 2024年10月17日 6時0分

ポピュリズム、過激化、分断、腐敗…“アメリカの内戦”を描いた監督がこの映画に込めた“知られざるメッセージ”

シビル・ウォー

―アメリカの内戦という発想はどこから?

 私の空想ではなく、現在起こっている事態をそのまま反映しているつもりです。この映画の50%は今、既に起こっていることです。

―あなた自身はイギリス人ですよね?

 イギリス人の私がこんな映画を作るのは命知らずだと気づいたのは、公開される約24時間前で遅すぎました(笑)。

アメリカだけでなく、地球全体で起こっていること。

―今日のアメリカの政治についてどう思いますか?

 ポピュリズム、過激化、分断、腐敗。ただ、それはヨーロッパ全体、いや、地球全体で起こっています。アメリカはトランプのせいで目立っているだけです。イギリスにはボリス・ジョンソンというミニ・トランプがいたし。

―英国のEU離脱をやった連中ですね。

 彼らは国に大変な損害を与えましたが、まったく責任を取ろうとしません。

左右どちらの側にもつかないように見えるが…

――でも、この映画を観ると、左右どちらの側にもつかないように見えますが。

 ついてますよ。これは左右ではなく、中道か過激派かの戦いで、私は中道です。

―『シビル・ウォー』では大統領政府に反乱を起こすのはカリフォルニア州とテキサス州の同盟軍ですが、かなりねじくれてますね。なぜ、最もリベラルで民主党寄りのカリフォルニアと最も保守的で共和党寄りのテキサスが?

 大統領がファシストだからです。憲法を無視して任期を延長し、国民を攻撃したから、テキサスとカリフォルニアがイデオロギーの左右を超えて同意して抵抗を始めたんです。理にかなったことだと思いますよ。

混沌とした状態を示したかった。

―しかし、この映画では誰と誰が戦っているのか判別できません。それが観客を常に不安にします。

 右か左か、黒か白か、善か悪かで考えるのは非常にアメリカ的ですね。最初のシビル・ウォー(内戦)だった南北戦争は、奴隷制を維持しようとする南部と、それをやめさせようとする北部という倫理的に善悪がわかりやすい戦いでした。少なくとも現在の視点では。しかし、現在起こっている問題は、そう単純ではありません。善悪では割り切れない複雑で答えのない大規模な分裂なのです。その混沌とした状態を示したかった。それに、戦争映画として痛快なものにもしたくなかったんです。

主人公をなぜジャーナリストに?

―主人公を内戦に参加する兵士ではなく、それを取材するジャーナリストにしたのは?

 今、ジャーナリストは敵視されがちだと思います。トランプのような腐敗した政治家がジャーナリストたちを矮小化したからです。それはアメリカだけでなく世界中で起こっています。だからジャーナリストたちがデモを取材するとデモの参加者から罵られたり、唾をかけられたり、ひどい時は肉体的な暴力を受ける。これは本当に狂気の沙汰だと僕は思います。ジャーナリストは我らの自由を守るために必要なんです。事実を包み隠さず公平に報道するジャーナリズムが。

昔ながらのジャーナリズム

―『シビル・ウォー』で最も若い戦場カメラマンのジェシーはフィルムを使っています。デジタル・カメラではなく。

 昔ながらのジャーナリズムを思い出してほしかったからです。それは中立の報道です。一部の報道機関はプロパガンダ機関のようなものですよね? FOXニュースは右翼のプロパガンダ、CNNは左翼のプロパガンダで。それは視聴率と広告収入を集めるためです。でも、昔のジャーナリズムはもっと中立でした。

―監督のお父さんは新聞の風刺漫画家でしたよね。

 はい。だから私は幼い頃からジャーナリストたちに囲まれて育ちました。

―するとジェシーはあなたの投影なんですね?

 そうですね。私は20歳のとき、海外特派員になりたかったのです。でも、年配の海外特派員にとめられました。

あえての、すっきりしない物語

―でも、主人公のジャーナリストたちも感情移入しにくいですね。目の前で虐殺行為があっても、とめるわけでもなく、ただ撮影し続ける。中立ということでしょうが、観客はすっきりしない。

 すっきりしないから観客は議論し、物語を検証するんです。今の映画は、観客と対峙することに臆病になってるんですよ。映画は作るのに多額の費用がかかるため、人々は決定において保守的になります。お客さんに映画館に来てもらわなきゃならないから観客を不快にしたくないんです。だからリスクを取ることを恐れる。でも、『シビル・ウォー』はそれに反抗してるんです。観客に対して攻撃的であろうとしたんです。

 ホラーやスリラーも観客を怖がらせているようで、実際にはそうでもない。トム・クルーズが危険にさらされても安心でしょ? なぜなら彼はヒーローだから、最終的には勝つとわかっているからです。でも、『シビル・ウォー』はそうしたくなかったんです。観客にとっても安全地帯はありません。

観客の安心感を奪うような音響

―音響も攻撃的ですね。銃撃では本当に撃たれているように恐ろしいです。

 カッコいい音にしないで、耳を塞ぎたくなるような攻撃的で暴力的な不快な騒音で、観客の安心感を奪おうとしました。

―音楽、曲の選択も居心地悪いですね。とても残虐なシーンに陽気でポップな曲が挿入され、観客を感情的に混乱させます。

 観客に対して攻撃的というのは、選曲やメッセージをわかりやすくしないことも含まれるんですよ。

根底にあるレイシズム

―最も恐ろしかったのは、虐殺している兵士(ジェシー・プレモンス)に主人公たちが

「撃つな! 我々はアメリカ人だ」と言うと「で、どっちのアメリカ人なんだ?」と聞かれるシーンですね。どう答えれば殺されないですむのかわからない。

 あのシーンは普通の質問に聞こえますが、考えてみると実にバカバカしく、差別的な質問です。その根底にはレイシズムがある。普段は話さないようにしている差別があの質問に表出しているんです。

既存のものが崩壊することを夢見ているよう

―あなたの映画は、危険な地帯に赴く勇気ある主人公たちが常に女性ですね。『エクス・マキナ』(14年)、『アナイアレイション 全滅領域』(18年)や『MEN 同じ顔の男たち』(22年)、みんなそうですね。

 それは政治的な理由よりも、自分の年齢のせいでしょうね。私は1970年生まれで、私が育った頃は、映画の99%が男性が主役でした。だから、男性が主役の物語を退屈に感じるんでしょう。

―あなたは『28日後…』から一貫して、既存の秩序やシステムが崩壊することを夢見ているように見えます。

 ええ、まったくそのとおりです。正直いって(笑)。

映画を通じて世界に訴えたいメッセージ

―では、今年のアメリカ大統領選挙についてどう思いますか?

 とても大きな危険を感じます。今、世界には二つの未来があります。ひとつはトランプが勝つ未来、もう一つはカマラ・ハリスが勝つ未来です。私はトランプが勝つ未来を望んでいません。

―イギリスについてはどうでしょう。

 保守党は腐敗し、自分をコントロールできなくなって崩壊し、労働党、中道左派の政権になりました。私はほっとしています。近年イギリスの政治はアメリカを追ってきましたが、これからは別の道を行くのではと思っています。

―最後に、この映画を通じて世界に訴えたいメッセージを。

 トランプを大統領にするな! ですね(笑)。

アレックス・ガーランド 1970年、イングランド・ロンドン生まれ。96年に発表した小説『ビーチ』がダニー・ボイル監督によって2000年に映画化される。同監督の『28日後…』(02年)で脚本家としてデビュー。14年の『エクス・マキナ』で初監督を務め、同作はアカデミー賞脚本賞にノミネートされた。『28日後…』シリーズの3作目で脚本を手がけた『280Years Later』(原題)の公開も控える。

INTRODUCTION

11月の大統領選挙を控え、アメリカではかつてないほど分断の危機が叫ばれ、一部では内戦が起きるのではないかともいわれている。今作は現実を先取りした内容で、全米公開でも大きく注目された。監督・脚本を務めたのはイギリスの鬼才アレックス・ガーランド。戦争をゼロ距離で体感させる圧巻の没入感により、明日起こるかもしれない分断の終着点として驚くほどのリアリティを実現させた。主役に、キルステン・ダンスト。強固な精神が少しずつ蝕まれていく戦場カメラマンの機微を繊細に表現する。

 

STORY

分断の果てに内戦が勃発したアメリカ。連邦政府から19の州が離脱し、テキサス・カリフォルニアの同盟からなる西部勢力と、大統領が率いる政府軍による激しい武力衝突が各地で繰り広げられていた。西部勢力はワシントンD.C.から200kmの地点まで進攻し、政府軍は敗色濃厚となっていた。ニューヨーク滞在中の戦場カメラマン・リーと記者のジョエルは、D.C.陥落を前に大統領への単独取材を計画する。D.C.までの距離は車で1379km。ベテラン記者サミーと若手カメラマンのジェシーも同乗することとなり出発する。

 

STAFF & CAST

監督・脚本:アレックス・ガーランド/出演:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー/2024年/アメリカ・イギリス/109分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY.  All Rights Reserved.

(町山 智浩/週刊文春CINEMA)

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