京都市営地下鉄“ナゾの終着駅”「国際会館」には何がある?
文春オンライン / 2024年10月14日 6時0分
京都市営地下鉄“ナゾの終着駅”「国際会館」には何がある?
観光都市・京都——。その範囲は、玄関口の京都駅から見ると、なかなかに広い。京都駅から歩いて行ける範囲はごくわずか。新幹線を降りてから、ほとんどの観光スポットや繁華街へは、他の鉄道路線かバスに乗り継がなければならない。
そんなとき、乗り継ぐ鉄道路線のひとつが、京都市営地下鉄烏丸線だ。その名の通り、京都市内の中心部では烏丸通の地下を南北に走る。途中には、阪急電車と交差する四条、地下鉄東西線と交差する烏丸御池、“京都の代官山”などと呼ばれていたような気がする北山などの駅がある。だいたい烏丸通と交差する通りの名がそのまま駅名になっているので、京都の町に慣れ親しんでいる人ならわかりやすさという点では一級品だ。
さっそく、京都駅から地下鉄烏丸線に乗ろう。
京都市営地下鉄“ナゾの終着駅”「国際会館」には何がある?
行き先は、だいたい二つに分かれる。ひとつは、南に向かう竹田行き。こちらは竹田駅で近鉄京都線と接続するルートで、近鉄に直通する列車も運転されている。もうひとつは、北に向かう国際会館行きだ。
観光などでこの町にやってきた人は、だいたい北行き、つまり国際会館行きに乗ることになるだろう。京都市中心部の観光地へのアクセスには、こちらのほうが便利だからだ。
実際、烏丸線の地下ホームに降りると、大きなキャリーケースを抱えた観光客の姿が目立つ。彼らはみな、国際会館行きに乗り込む。
ターミナル・京都駅から乗り込むお客は観光客に限らず、地元の学生風の若い人たちも多く、座れないほどの混み合いぶりだ。そして、だいたいのお客が四条、はたまた烏丸御池あたりでどんどん降りてゆく。同志社大学の最寄り駅でもある今出川駅でもごっそりと。
ここまでくると、もう観光客らしきお客の姿はまばらだ。目につくのは学生さんばかり。そうして少しずつお客は減っていき、終点の国際会館駅に近づくころには車内はガラガラだ。京都駅から国際会館駅まで、だいたい20分ほどで到着する。
今回の目的地は、この地下鉄烏丸線の終点・国際会館駅だ。
改札を抜け階段を上がると…
地下ホームから階段を登って改札を抜け、さらに地上への階段をあがってゆくと、バスターミナルが待っていた。
いくつもののりばが設えられ、行き先は四条河原町・三条京阪といった中心市街地から、京都産業大学や岩倉実相院、はたまた貴船口や鞍馬などさまざまだ。
京都の中心部の路線バスといったら市バスのイメージが強いが、国際会館駅ではどうやら脇役で、主役を張っているのは京都バス。どちらかというと、京都市北部の丘陵地に向かう路線が多いようだ。
そんなバス乗り場の反対側は、すぐにそのまま宝が池公園に繋がっている。宝ヶ池という大きな池を中心に、松ヶ崎丘陵一帯を占める巨大な公園だ。
せっかくなので、公園の中を少し歩く……といっても、観光シーズンでもないし平日の真っ昼間。歩いている人は他にはいない。公園の中には岩倉川が流れていて、橋の上から周囲を見渡すと、北にも東にも、それほど遠くないところに山並みが見える。
公園を歩いていると巨大な建物が見えてきた
ときおりジョギングしている人とすれ違いながら進んでゆくと、公園の名になっている宝ヶ池が見えてくる。
江戸時代、農業用のため池として造成されたという宝ヶ池を中心に、京都盆地北部の松ヶ崎丘陵ほぼ全域が宝が池公園の敷地内。宝ヶ池にはどうやらボートなんかもあるようで、天候に恵まれた週末などはデートスポットになっているのだろうか。カップルで宝ヶ池のボートに乗ったら別れるとかなんだとか。
そんな宝が池公園を歩いていると、いやでも目に入ってくるのが巨大な建物、国立京都国際会館だ。
1966年、日本で初めてとなる国立の国際会議施設として誕生した。知識がないので詳しくは語れないが、建築物としても高く評価されているという。そして何より、この国立京都国際会館で1997年に地球温暖化防止京都会議が開催され、京都議定書が採択された。いまでもニュースなどで耳にする機会の多い京都議定書が生まれた舞台、なのである。
とはいっても、あてもなく散歩しているだけの筆者が国際会館の中に入ったところでどうにもならない。その脇にはザ・プリンス京都宝ヶ池という立派なホテルもあるが、こちらにもあいにく用はない。宝が池公園から出て、再び駅前に戻る。
駅前のバスターミナルの脇を抜け、大通りを渡ると…
宝が池公園や国立京都国際会館は、国際会館駅の南側に広がる。反対に北側は、わかりやすいくらいの住宅地、そして文教地区だ。
駅前のバスターミナルの脇を抜け、宝ヶ池通という東西に走る大通りを渡ると、岩倉川沿いに同志社中学校・高等学校のキャンパスが広がる。中高のキャンパスの北には同志社小学校もある。
同志社というと、烏丸線の今出川駅近くに今出川キャンパス、直通する近鉄京都線の沿線にも京田辺キャンパスがある。地下鉄烏丸線は、一面的には同志社のための鉄道路線という役割を持っているのだ。
国際会館駅の周辺は、同志社の小中高を中心にあとはもうまったくの住宅地が続く。同志社と岩倉川を境に西側は整然とした街路に比較的大きな一戸建て住宅が並ぶ。東側はいくらか細く入り組んだ路地が多く、合間に地元の人たちに愛されているのであろう小さな店舗もいくつか並ぶ。
そうした住宅地の合間にはポツポツと小ぶりだが過ごしやすそうな公園があって、同志社小学校の北側には野球場を兼ねた岩倉東公園という大きめの公園も整備されている。
町を南北に流れる岩倉川沿いも木々が植えられて、緑が豊かな静かな町だ。賑やかなのは、同志社小中高のキャンパスの中と、クルマ通りの盛んな宝ヶ池通りくらいだろうか。ところどころに住宅地に穴があって畑になっているところから、かつてこの地域が農村地帯だったこともうかがえる。
この町は“少し離れている”京都とどう付き合ってきた?
そんな静かな町中を岩倉川に沿って北に抜けてゆくと、川を渡る線路が見えてくる。地下鉄の国際会館駅から10分ちょっとは歩いただろうか。
そこを通っているのは、叡山電鉄鞍馬線。天狗でおなじみ、そして源義経が幼少期を過ごしたことでも知られる鞍馬寺に通じるローカル線だ。岩倉川のほとりには、その名も岩倉駅がある。
岩倉は、京都の市街地北端の町だ。南側には松ヶ崎丘陵があって京都盆地と隔てられていて、北には若丹山地が聳えている。東に見えるのは延暦寺が鎮座する比叡山。西も上賀茂神社の丘陵地が控えていて、岩倉の町だけで小さな盆地を形成している。
京都の中心部からは少し離れているという事情もあって、古くから京都の衛星都市的な位置づけだったようだ。古くは王城鎮護を目的に山の中に一切経を埋めたことがはじまりで、実相院や大雲寺といった由緒ある古刹も多い。
古代から中世にかけては窯業が発達、江戸時代には禁裏御料(朝廷の所領)だったという。この時代には岩倉村内に所領を得ていた村上源氏久我家の一族が「岩倉家」を称しており、その末裔が明治維新の立役者・岩倉具視。岩倉盆地の中には、岩倉具視が隠棲した邸が残っている。
ただ、そうした岩倉の中心地は、国際会館駅の周辺ではなく、叡山電車岩倉駅の北側、実相院を中心とした一帯だ(岩倉具視の隠れ家もそのあたりにある)。叡山電車の線路より南側の一帯は、長らく京都近郊の農村地帯に過ぎなかった。
100年ほど前、この町に“あの鉄道”がやってきた
明治初期に町村制が施行されたときには、一帯は岩倉村と称する。1928年に叡山電車(当時は鞍馬電気鉄道)が開通し、京都の市街地へのアクセス手段が確立される。
この頃には路線バスの運行も始まって、京都市内との結び付きが一層強まってゆく。そして、1929年に同志社高等商業部が京都市内から岩倉村内に移転。これが現在の文教地区への第一歩であった。
戦後は京都市内との間で人の行き来もますます盛んになり、そうして1949年、岩倉村は京都市と合併、京都市左京区に編入された。現在のような住宅地・文教地区としての形が完成したのは、1960年代以降のことだ。
盆地南部に広がっていた湿地帯が埋め立てられて国立京都国際会館が誕生、区画整理事業も進み、少しずつ住宅地へと生まれ変わる。この頃から、長くこの地域を象徴していた田畑は消えていった。1997年に地下鉄烏丸線の国際会館駅が開業すると、京都駅をはじめとする中心市街地へのアクセス利便性がさらに向上し、存在感を高めている。
いまでもほぼ全域で高層マンションの建設に制限があるなど、地域としての価値を維持する取り組みは続けられている。京都郊外の文教地区・高級住宅地、そこに昔からの田畑が点在するというこの町の本質は、交通利便性の向上とは裏腹に、今後も保たれていくことになるのだろう。
激混みしがちな国際的観光都市の“静謐な世界”
最初にこの町を歩いて、国際会館駅から岩倉駅まで15分ほどかかったとき、どうせならば地下鉄が延伸すればいいじゃないかと思ったものだ。そうすれば、京都の中心部(というか京都駅)から岩倉地区はもとより鞍馬寺などへのアクセスがもっと便利になることはまちがいない。
しかし、改めてこうして歴史を振り返れば、かえって地下鉄が国際会館止まりなのは悪くないのかもしれない。静謐な住宅地・文教地区が保たれているのは、歴史の古い叡山電車を除くとその周囲を鉄道駅が取り囲むだけにとどまり、決して直接内部を荒らしていないことが関係しているのではないかと思うのである。
国際会館駅から目の前の宝ヶ池通を東に歩くと、こちらでも叡山電車の線路とぶつかる。ここから白川通を南に折れて進んでいけば、叡山電車が鞍馬方面と比叡山方面に分かれる分岐駅、宝ヶ池駅にも近い。
白川通は岩倉地区と京都の中心市街地を直結する主要道路のひとつで、北山通や北大路とぶつかりつつずっと南に行けば、天下一品の総本店。さらにずーっと南進すると、平安神宮の東側を抜けて南禅寺まで続いてゆく。
こうした道のりをバスで向かうのもいいけれど、京都の町は平坦で坂道が少ない。自転車でも借りて、町をうろうろするのも悪くない。その出発点として、地下鉄の終点・国際会館駅を選んでみてはいかがだろうか。名だたる観光地の過度とも言える賑わいとは離れ、そこには静謐な世界が広がっている。
写真=鼠入昌史
(鼠入 昌史)
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