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《逝去》「この人、私の写真を撮ったのよ!」「絶対に許せないわ!」と大激怒…妻・大山のぶ代(90)の“認知症”を確信した「無断撮影事件」の哀しみ

文春オンライン / 2024年10月11日 16時49分

《逝去》「この人、私の写真を撮ったのよ!」「絶対に許せないわ!」と大激怒…妻・大山のぶ代(90)の“認知症”を確信した「無断撮影事件」の哀しみ

大山のぶ代さんの夫・砂川啓介さんが「最愛の妻の認知症」を確信した日とは? ©文藝春秋

大山のぶ代さんが9月29日、老衰のため90歳で亡くなったことがわかった。生前は、おしどり夫婦として知られた、大山さんとパートナーの砂川啓介さん(2017年逝去)。2人はどんな人生を送ったのか? 

 

砂川さんが大山さんの認知症を悟ったときのエピソードを、砂川さんの著書『 娘になった妻、のぶ代へ 』(双葉社)より、一部抜粋して紹介します。

◆◆◆

前兆と発症

「お医者さんの診断では、アルツハイマー型認知症だそうです」

 マネージャーの小林からそう聞かされたとき、僕の胸に湧き上がったのは「驚き」ではなかった。

「ああ、やっぱり……」

 2012年秋、以前から通院していた慶應病院で、カミさんは脳の精密検査を受けた。検査結果が判明する日、所用で行けなかった僕の代理として、マネージャーの小林に病院へ行ってもらったのだ。

 思えば、「認知症なのかもしれない」と思うような症状は、以前から何度も現れていた。7年前に脳梗塞で倒れ、自宅からの通院治療を続けている間、カミさんの不可思議な行動は、どんどんエスカレートしていたのだ。

 どこまでが脳梗塞の後遺症で、どこからが認知症の症状なのかは、いまだに分からない。「この日から認知症を発症した」とは、明確に線引きができないからだ。だが、それでも――。

「ペコが認知症になんて、なるわけがない」

 と、あの秋の日に、医師からはっきりと病名を告げられるまでは、僕はその現実を素直に認めることができず、目を背けていたのだと思う。

 でも今、思い返せば、カミさんの不可思議な行動は、脳梗塞の退院直後から始まっていた。おそらく、2012年秋に病院で認知症だと告げられる数年前から、彼女は認知症を発症していたのだと思う。

 愛煙家だった彼女が、我が家の2階リビングや3階の寝室においてある灰皿を不思議そうに眺めて、僕に尋ねてきたことがあったのだ。

「啓介さん、これ、なぁに?」

 驚いたことに、カミさんには灰皿が何に使うものなのか分からないようだ。また、自分がタバコを吸っていたことさえを忘れてしまっているのだろう。

「何言ってるんだよ? ペコ、あれだけタバコが好きだったじゃないか。俺がずっと前にタバコを止めてからも、ペコは吸い続けてただろ?」

 それ以来、脳梗塞で倒れる前は一日2箱吸うほどのヘビースモーカーだったはずのカミさんは、タバコにまったく関心すら示さなくなった。

 闘病中の身である彼女が、長年の習慣だったタバコをストレスなく止められるなら、それに越したことはない。そのときの僕は、この事態をさほど深刻に捉えることなく、その程度に思っていた。

台所に行ってみると、そこには…

 だが、あわや大惨事に発展しかねないような“事件”もあった。

 たとえば料理だ。カミさんは料理が大の得意である。退院して自宅に戻ると、さっそく張り切って台所に立った。

 ところが、しばらくすると何かが焦げたような嫌な臭いがする。台所に行ってみると、鍋を空焚きしているではないか!

「ペコ、何やってるんだよ、危ないじゃないか!」

 慌てて火を止めたが、彼女は、その横で平然と野菜を切っていた。鍋を火にかけたことなんてすっかり忘れ、目の前の野菜を一心不乱に切っているのだ。彼女の目と鼻の先で焦げている鍋の煙にも、臭いにも一切、気づかないままに……。

 それ以来、危ないので絶対に火は使わないようにと言い聞かせている。

 だから、料理番は引き続き僕の担当。でも、カミさんは食事中も、どうも様子がおかしい。

「おいしい、おいしい」と食べていたのに、食べ終わった途端、「これ、まずかったわ」と、急に真逆のことを言ったりする。

「今、ペコ、『おいしい』って言って、全部食べたでしょ」

「うん、でも、まずいの」

 と、驚いたことにこの調子で、まるっきり会話が成立しないのだ。

 最近では、漬物が入っている密閉容器に新しく作った肉料理を重ねて蓋をしたり、残った複数の料理をすべてひと皿にぎゅうぎゅうに盛りつけて冷蔵庫に戻していることもあった。そんなことをしたら、味が混ざってしまうことは誰だって分かるはずなのに。

 しかし、言葉が出なかったのは、冷蔵庫に入れるならまだしも、書類などを保管しているリビングの引き出しに料理を詰めた容器が入っていることがあったことだ。

 ある日、その容器を発見したときの僕のショックと言ったら……。

 それ以外にも、電気をつけたら家中つけっ放し、冷蔵庫の扉もずっと開けっ放し、Tシャツを裏返しに着ても気にしないといった具合だ。冷蔵庫にある牛乳パックをラッパ飲みして、リビングの床中を汚してしまうこともあった。

 また、クーラーのリモコンをテレビのリモコンと間違えたり、今日が何月何日なのか、カレンダーを見ても分からないこともあった。僕は頭では彼女の病気のことを理解しているつもりでも、こうした目の前で起こる日々の異変に、感情がついていかないこともしばしばだった。

 さらに、彼女は視界も狭くなった。たとえば、自分のすぐそばにあるものに気づけない。

「すぐ横にあるじゃないか」と言っても、目の前のほんの一部しか見えていないようだ。どうやら、家の至るところにある、自分の子供であるはずの、ドラえもんのぬいぐるみたちも見えていないようにも思える。

 飲むべき薬を間違えることは、ほぼ毎日――。

 彼女には、現在、認知症の進行を遅らせる作用のある薬など10種類近くが処方されている。そのため、朝飲むものはピンク、夜飲むものはブルーの薬ケースに、僕がそれぞれ分けるようにしていた。だが、何度言い聞かせても、逆のほう、つまり朝なのにブルーのケースの薬を飲もうとしてしまう。

「ペコ、朝に飲むのはピンクのほうだよ。昨日も言ったでしょ?」

「うん、分かったわ」

 しかし翌朝、カミさんは、またしてもブルーのケースを取り出してしまう。まれに正しいほうを選択できることもあるのだが、8割は間違えている。

 僕は病院で認知症だと診断されてからも、しばらくは「もしかしたら、脳梗塞の後遺症の一種なんじゃないか?」という気持ちも捨てきれなかったが、こうした理解に苦しむ発言や異常な行動を見ていると、その回数は日を追うごとに増えていった。

「これは、ただごとではない!」

 そんな日々の中で、「これは、ただごとではない!」と、認知症を発病していることを僕が嫌でも確信させられた出来事があった。

 僕たちは毎年、以前、仲人を務めた若い夫婦と2組で、正月の温泉旅行に出かけるのが恒例行事となっていた。あれは確か、3年前のこと。その年は両夫婦で鹿児島の指宿温泉を訪れたのだが、4人で砂風呂に入っていたときのことだった。

 突然、「何すんのよ!」というカミさんの怒声が浴室中に響き渡ったのだ。僕はその声を聞き、慌てて砂の中から飛び起きた。

「ペコ、いったい、どうしたんだい!!!」

「この人、私の写真を撮ったのよ!」

 そう言って、カミさんは近くにいたカメラを手に持った親子連れを指差した。本当に無断で写真を撮ったのか、親が子供の写真を撮っていて、たまたま、その後ろにカミさんがいたのか。実際のところはどうか分からない。

 だが、仮に無断で写真を撮影されたとしても、以前の彼女なら公衆の面前で、このような激しい怒り方をすることは絶対になかったはずだ。カミさんのあまりの剣幕に親子連れはすっかり震え上がっているし、他の観光客も静まり返って、彼女に釘づけになっている。

 ここで大騒ぎをするのはまずい。このとき、なんとか、この場を収めようと僕は必死になった。

「ペコ、とりあえず、こっちにいらっしゃい」

「ダメよ! ダメ! 絶対に許せないわ!」

 ところが、カミさんはどんなに僕が言い聞かせても、顔を真っ赤にしたまま叫び続け、まったく聞く耳を持たないのだ。

 とにかく人目を避けるために、若夫婦の嫁さんがペコをなだめながら、砂風呂から続く女湯へとカミさんを連れて行ってくれた。それでも、女湯からはまだペコの怒りの声が聞こえてくる。しまいには、砂風呂にいた他の観光客にも「なんだ、アイツ、まだ怒ってんのかよ。しつこいな」と呆れられる始末……。

理由もなく大声を出すようになってしまった

 この頃から、ペコは出先で急に怒ったり、理由もなく大声を出したりすることが多くなった。

 たとえば、通院帰りに病院近くの商店街を一緒に歩いていたときのこと。カミさんが突然、大声を上げたのだ。どうやら、すれ違いざまに通行人に触られたと思い込んだようだった。でも、実際は誰も、そんなことはしていない。道行く人は皆、一様に驚いて彼女を見つめている。

 僕はすれ違った人に慌てて頭を下げ、カミさんを連れて逃げるように商店街を後にするしかなかった。

(砂川 啓介/Webオリジナル(外部転載))

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