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絶海の孤島・青ヶ島在住の40歳女性が語る、「日本一人口の少ない村」が約50年も“無人だった”ワケ「島民130人以上が死亡して…」

文春オンライン / 2024年10月19日 11時0分

絶海の孤島・青ヶ島在住の40歳女性が語る、「日本一人口の少ない村」が約50年も“無人だった”ワケ「島民130人以上が死亡して…」

青ヶ島生まれ・青ヶ島育ちの佐々木加絵さん(本人提供)

〈 絶海の孤島・青ヶ島在住の40歳女性が語る、“日本一人口が少ない村”の特殊すぎる葬儀事情「島には葬儀場も火葬場もない」「お坊さんもいないから…」 〉から続く

 日本一人口の少ない村、青ヶ島村在住のYouTuber・佐々木加絵さんが“島暮らし”を発信する連載企画。

 東京都心から約360km離れた人口162人(2024年9月1日時点)の小さな島・青ヶ島。交通手段が限られていて、簡単に上陸できないことから、別名「絶海の孤島」と呼ばれている。

 そんな青ヶ島の日常をYouTubeで発信しているのが、佐々木加絵さん(40)。「私にとっては普通なのですが、島外の人からすれば、青ヶ島の日常は非日常なのかもしれない」と話す加絵さんは、いったいどんな“島暮らし”を送っているのだろうか。今回は、今も島に語り継がれる歴史「還住」をテーマに、青ヶ島の日常を紐解いていく。

◆◆◆

活火山島である青ヶ島

 青ヶ島は、伊豆諸島からマリアナ諸島へ連なる火山島のうちの1つだ。島の南側には1785年の「天明の大噴火」で隆起した大小2つの火口があり、世界的にも珍しい「二重カルデラ」として知られている。2014年には、アメリカ環境保護NGO「One Green Planet」が発表した「死ぬまでに見るべき世界の絶景13」にも選ばれている。

「青ヶ島は活火山島とはいえ、最後に噴火が観測されたのは1785年です。だから普段は『活火山の上に住んでいる』なんて意識せずに生活しています。

 ただ、地域によっては火山島であることを実感する場所もあります。青ヶ島のシンボルでもある『二重カルデラ』がある池之沢では、火山の熱で蒸された水蒸気、通称“ひんぎゃ”(“火の際”を語源とする島言葉)が発生しています。島に電気が通っていなかった時代には、このひんぎゃをエネルギーとして、暖房や調理に利用していたんだそう。現在でも、池之沢にはひんぎゃを利用したサウナや地熱釜、そして青ヶ島の特産品『ひんぎゃの塩』の工場があります。

島民はひんぎゃを利用した天然のミストサウナに通っている

 青ヶ島にある『ふれあいサウナ』の温度は、50~60度と言われています。数字だけ見ると、『ぬるいのかな?』と思う人も多いかもしれません。でも、ひんぎゃを利用した天然のミストサウナは、実際はかなり暑い。季節によって温度が変わるのも、自然の熱を利用しているからこその特徴です。1回300円で利用できるから、毎日通っている島民もいるんですよ。

 サウナの隣にある、ひんぎゃの蒸し釜『地熱釜』も島民御用達です。野菜や肉、魚などいろんな食材を蒸せるんです。なかでも、私のお気に入りは卵! パックごと入れて30分ほど蒸すと、良い感じにホックホクなゆで卵ができあがります。

 ひんぎゃの影響は他にもあります。例えば、高温の水蒸気が発生している池之沢は、冬でも温かい日が多いんですよ。昨年は、12月に半袖を着ていても汗ばむような日もありました。

 また、ひんぎゃで温められた地面はとっても温かく、寒い日でも地面はホカホカ。冬の夜の池之沢で寝転ぶと、天然の床暖房で温まりながら、満天の星を見られるかもしれません」(佐々木加絵さん、以下同)

青ヶ島が“無人島”と化した歴史

 青ヶ島の特徴である「ひんぎゃ」や「二重カルデラ」を語るうえで欠かせないのが、1785年に起こった「天明の大噴火」だ。この噴火により、当時の島民327人のうち130~140人が死亡したと推定されている。また、200人以上の島民が隣島の八丈島に避難し、約半世紀もの間、青ヶ島は無人島と化した。

「八丈島に避難できたのはいいけど、その頃の八丈島は飢饉の真っ只中。現地の人たちですら食事に困っている状況だったから、避難してきた青ヶ島の人たちはかなり肩身の狭い思いをしていた、と聞いています。だから、温かい気候でサツマイモなどの農作物が豊富に採れる青ヶ島に帰りたい、と願う人が多かったんじゃないかと」

 当時の島民たちは力をあわせて、何度も船で帰島を試みた。しかし、波風の強い断崖絶壁の島には、辿り着くことさえ困難だった。まれに到着できても、噴火の影響で荒れ果ててしまった青ヶ島の土地で生活するのは不可能だと思われた。

「還住」と呼ばれ、語り継がれる

 しかし、青ヶ島の名主・佐々木次郎太夫が中心となり、帰島事業を進めたときから、少しずつ希望が見え始める。そして1824年、全青ヶ島民の帰島が実現し、天明の大噴火から50年後の1835年には、青ヶ島の再興が宣言された。この一連の出来事は「還住」と呼ばれ、青ヶ島民の間で今も語り継がれている。

「青ヶ島の子どもたちは、学校や習い事で還住の歴史を学びます。例えば、青ヶ島の定番の習い事には、『還住太鼓』というものがあって、『青ヶ島郷土芸能保存会』に所属している島民が、お祭りのときに演奏したり、島の子どもたちに教えたりしてくれています。そこで、『還住太鼓の“還住”とはなにか』を学ぶ子どもたちも多い。

 私も子どもの頃、還住太鼓を習っていたんですよ。初めて還住について学んだのはその時だったかもしれません。『無人島になってから50年も経っているのに、一致団結して島を再建させるなんて、この島のご先祖様はすごいな……』と感動したのを覚えています。だって、10歳で避難した人は、還住のときには60歳になっているんですよ。それだけ、自分の生まれ育った島を愛している人たちが多いんだなと思うと、感慨深いものがありますよね。

 命がけで島を復興してくれたご先祖様たちがいるから、今の私たちが平和に暮らせているんです。だから、青ヶ島はよく『何もない』『不便』と言われるし、島外からの交通手段が限られていて、買い物をしたり、遊んだりする場所もないけど、私たちにとってはすごく些細なことだと思っています」

 佐々木次郎太夫らの尽力によって還住を果たしてから約200年。青ヶ島の島民が先人たちから受け継いでいるのは、歴史や土地だけではない。「ゼロから自分たちでつくる」「みんなで助け合う」といった「還住マインド」も、青ヶ島に住む人たちに脈々と受け継がれているのだ。

受け継がれる「還住マインド」とは?

「例えば、島には小さな商店が1つしかないから、自分で畑を持っている家庭がほとんどです。採れた野菜は自分たちで食べるのはもちろん、ご近所さんにもお裾分けします。

 また、青ヶ島の商店では魚が売っていません。そのため魚を手に入れようと思ったら、港で釣りをしたり漁に出たりするのですが、断崖絶壁に囲まれた島の海は荒れやすく、収獲できない日も多いから、島民にとって魚は貴重な食料です。それでも収獲できた日はお裾分けをするのが、青ヶ島では当たり前の光景。

 青ヶ島では、今でも物々交換が盛んに行われているのですが、その根幹には、力を合わせて荒れ果てた土地を復興させた『還住マインド』があるんじゃないかな、と思っています」

少子高齢化で青ヶ島も人口減少

 還住時の青ヶ島の人口は240人ほど。1881年頃には、最大人口754人を記録したという。その後、小笠原へ行く船が青ヶ島に寄港するようになると、小笠原諸島に島民が流出し、人口は400人程度で推移していった。1940年に青ヶ島が村として独立を果たしたときも、人口407人での出発だった。しかし2024年9月1日時点で、青ヶ島の人口は162人まで減ってしまっている。

「私が子どもの頃、同級生は4人いましたが、今の子どもたちは同級生がいないことが“当たり前”です。

 少子高齢化で子どもの人数が減っているのは、本土も青ヶ島も一緒です。でも、『だからしょうがないよね』と諦めるのではなくて、『この状況をなんとかしたい』と思っている人が青ヶ島にはたくさんいます。それはやっぱり、生まれ育った『青ヶ島』という土地が大好きだから」

YouTubeで島の日常を発信

「青ヶ島の状況をなんとかしたい」と思っている島民のひとりが、加絵さん自身だ。YouTubeチャンネル「青ヶ島ちゃんねる」を開設し、島の日常を発信。現在は登録者数約19万人の人気を誇り、メディアにも度々取り上げられている。

「YouTubeで島の日常を発信していると、『なんで青ヶ島の人たちは、地元が大好きなの?』と聞かれることがあります。いろいろ理由はありますが、そのベースには、やっぱり『還住マインド』が関係していると思っています。

 青ヶ島では、自分で事業を営んでいる人が多い。そして人口が少ないから、必要な食料を交換したり、仕事の手伝いをしたりして、みんなで協力して生活しています。だから、『自分たちがこの島を作っている』という意識が芽生えやすいんじゃないかな。

 どうしたら青ヶ島の人口が増やせるかは、まだまだ模索中です。でもまずは、『この島の還住マインドを知ってもらう。そのために私たち島民が、島の歴史や文化を語り継いでいく』ことが大事なんじゃないかな、と思っています」

取材・文=仲奈々
写真提供=佐々木加絵さん

(仲 奈々,佐々木 加絵)

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