殺人現場にあった血まみれのベッド、亡くなった子どものミイラ、人間の皮膚が入った呪いの箱…「呪物コレクター」が所有する“いわくつき物体”の実態
文春オンライン / 2024年11月3日 11時0分
呪物コレクターの田中俊行さん ©山元茂樹/文藝春秋
超自然的な力によって人間に禍福(かふく)をもたらすと信じられ、神聖視されている物体「呪物」。その呪物を蒐集し、自宅に「呪物部屋」を設けて一緒に生活している珍しい人がいる。怪談師で呪物コレクターの田中俊行さんだ。
田中さんは全国各地、時には海外まで足を運んで呪物を集めている。今年8月には呪物蒐集の日々を描いたコミックエッセイ『 ぼくと呪物の奇妙な生活 最恐呪物蒐集編 』(竹書房)を刊行。呪物コレクターとして注目度が高まる田中さんに、どんな呪物を集めているのか、呪物とはいったいどういう存在なのか、話を聞いた。(全2回の1回目/ 2回目に続く )
◆◆◆
呪物の数は1年で約150体→200体に増加
――以前文春オンラインで取材をさせていただいたときには、約150体の呪物を持っているとおっしゃっていました。あれから約1年が経ちましたが、現在は何体あるのでしょうか?
田中俊行さん(以下、田中) 今は200体ぐらいありますね。
――1年で50体、つまり1週間に1体のペースで増えていると。最近はどんな呪物を手に入れたのですか?
田中 いろいろあるのですが、最近でいうと手作りのコトリバコと、呪いのアンティークドールですかね。
いじめてきた相手を呪うための「コトリバコ」
――それぞれ、どんなものか教えていただけますか。
田中 コトリバコは、ある女性から譲り受けたものです。その女性は、小学生の頃にひどいいじめにあっていたそうで。いじめてきた相手を呪うため、ネットで見かけた「コトリバコの作り方」を真似て作ったものが、今僕の自宅にあります。
見た目は、某人気キャラクターが描かれたかわいらしいアルミ缶の箱なんですよ。でもその中には、自分の髪の毛や皮膚、爪、そして血液を染み込ませたガーゼと一緒に、呪いたい相手の名前と、その人への恨みつらみが綴られた紙が入っている。
実際にコトリバコを使うことはなかったけど、捨てるのもなんだか怖くて10年以上押入れの中にその箱を閉じ込めていた、と。扱いに困っていたところ、呪物コレクターの僕を思い出して相談してきてくれたそうです。
何かを訴えかけてくるアンティークドール
――では、呪いのアンティークドールは?
田中 アンティークドール作家さんから譲り受けたものです。陶器でできた球体関節の人形で、今買うと何十万円もするんだとか。その方が作家になったばかりの頃に作ったものだそうで、かなり思い入れが深いものだと聞いています。
そのアンティークドールが、あるときから何かを訴えかけてくるようになったらしいんですよ。その頃から生活もなんだかうまくいかなくなって、「この人形が関係しているのでは?」と怖くなった、と。それで僕が引き取ることになったのですが、受け渡しのときにその作家さん、泣いていたんですよ。
――なぜ泣いてしまったのでしょうか。
田中 「手放したら、もっと呪われるかもしれない」と怖かったそうです。ただ僕は、長年一緒に過ごしてきた“情”もあったのかな、と思っています。その作家さんから、つい最近連絡をもらったんですが、まるで憑き物が落ちたようにさっぱりした様子でしたね。
そのときに、「不思議な夢を見た」とも言っていて。なんでも、アンティークドールがソフトビニール製の可愛らしい人形と楽しくすごしている、っていう内容だったらしいんですよ。僕が引き取った後、僕の部屋にあるタイのルクテープ人形「ホムちゃん」の隣においていたので、びっくりしました。アンティークドールも作家さんも、お互いが好きすぎて“依存状態”になってしんどかったのかもしれませんね。
呪物を引き取ったらお皿が割れ始め…
――手作りのコトリバコと呪いのアンティークドールを引き取った田中さんには、何か影響は出ていないのでしょうか?
田中 僕の勘が鈍いだけかもしれないですけど、今のところはないですね。ただ、他に引き取ったものの中には「これ、呪物の影響ちゃうんか?」と思うようなこともありました。
――どんな影響があったか、詳しく教えていただけますか。
田中 東南アジアに、亡くなった子どもをミイラにする「トヨル」という呪物があって。きちんと供養すると、福をもたらすと言われているんですよ。幼い我が子を亡くしたタイ人の夫婦がトヨルを作ったのですが、直後に妊娠が分かって供養をおろそかにしてしまった。そしたら、奥さんが急死したり、生まれたお子さんは病気がちだったりと、立て続けに不幸が起こったそうです。
とあるツテを通じて、僕がそのトヨルを引き取ったのですが、それ以降気が付いたら、うちの食器が“スパンっ”と真っ二つに割れているんですよ。最初は「古い食器だし、自然と割れたのかな」と思っていたのですが、その後用意した食器も気付いたら同じように割れていて。
今はその現象は収まっているので、偶然が重なっただけかもしれません。でも、トヨルを引き取ったタイミングとお皿が割れ始めたタイミングが一緒だったので、当時は怖かったですね。
「鳥の卵を食べたら顎が曲がった」恐ろしい言い伝えがある“守り神”
――先日発売されたコミックエッセイ『ぼくと呪物の奇妙な生活 最恐呪物蒐集編』に登場する呪物についても教えてください。「オシラサマ」や「樹海で見つけた謎の遺物」など、気になる呪物が描かれていましたね。
田中 オシラサマは、東北地方に伝わる守り神の人形です。地域によっては文化財にも指定されているところもあるんですよ。
――田中さんが持っているオシラサマは、どんな特徴があるのでしょうか。
田中 僕のは、真っ赤な着物を着たオシラサマ。自宅に祀ると、家内繁栄の効果があるらしいんですよ。
以前は東北地方に強く根付いていたオシラサマの文化も、今は珍しいものになってきていて、新しいオシラサマを作ってもらうのも、譲ってもらうのも難しい。書籍ではなんとかツテをたどってオシラサマを作ってもらったエピソードを書いたのですが、実はその後、先祖代々オシラサマを祀っていたご家庭からも譲っていただいたんです。
――そのご家庭は、なぜ家内繁栄をもたらす神様を手放そうと思ったのでしょうか。
田中 オシラサマは、毎朝お祈りが必要だとか、4足歩行の動物を食べちゃいけないとか、子孫に受け継いでいかなければいけないとか、とにかく“禁忌”が多いんですよ。禁忌をおかして病気になったり、顔が歪んでしまったりした人がいる、という言い伝えもあります。「鳥の卵を食べたら顎が曲がった」という伝承もあるらしいです。
オシラサマを引き取ったあとの影響は?
――それは恐ろしいですね……。
田中 「手放したいけど、怖くて簡単には手放せない」と困っている人が結構いるみたいで。僕にオシラサマを譲ってくれたご家庭も、「子どもがいないから引き継ぐ先がなくて困っていた」と言っていましたね。
知り合いの住職と一緒にそのご自宅にお邪魔して、引き継ぐための“儀式”をしてから受け取りました。血縁関係のない僕が突然引き取ってしまったら、何が起こるか分からないですからね。
――オシラサマを引き取ったあと、何か影響はありますか?
田中 禁忌を守って祀っているからか、今のところはありませんね。ひっそり佇まれていて、我が家を見守ってくれています。
富士の樹海で亡くなった方のご遺族から譲り受けたもの
――「樹海で見つけた謎の遺物」についても教えていただけますか。
田中 富士の樹海で亡くなった方のご遺族からロープと観音像を譲り受けたのですが、いろいろとよく分からないことが多くて……。詳しいことは知らないけど、首をくくって亡くなったわけじゃないらしいんですよ。
――それなのに、隣にロープが落ちていた?
田中 そうなんです。見た感じかなり年季が入っているから、少なくとも亡くなった方が用意したものではなさそうだ、と。さらに分からないのが、ロープと共に観音像が置かれていたと言うんですよ。その観音像は樹海に詳しい人たちの間ではかなり有名なもので、長年白い廃車の近くに置かれていたそうです。ロープにしても、観音像にしても、誰がどんな理由で移動させたのか……。
発見されてからしばらくは知人の自宅の倉庫で預かってもらっていたのですが、知人家族が謎の腰痛や発熱に悩まされたり、倉庫がある方向で謎の黒い影を見かけたりしたそうで。怖くなって、僕のところに相談が来たという経緯です。預かってしばらく経ちますが、今のところ僕には影響ないですね。
怪異を起こしていないなら呪物じゃなくて遺留品
――ちなみに、田中さんは呪物と遺留品の違いは何だと考えていますか。
田中 亡くなった方が生前使っていたものが遺留品で、遺留品の中でも、過去に一度でも怪異を起こしていたり、もしくは背景に呪物を生み出す呪術師が関わっていたら「呪物」ですかね。あとは、手作りのコトリバコのように、誰かを呪う目的で作られたものもかな。
時々、「田中さん、呪物収集しているでしょ」と言って、事故物件に残っていたものや、自死した方が直前に使っていたタオルを送ってくれる方がいるんですよ。最近だと、殺人現場に遺されたベッドをもらいましたね。なんでも、そのベットの上で殺人が行われたんだとか。
――充分いわくがありそうですが……。
田中 たとえ血がついて見た目のインパクトがあっても、怪異を起こしていないならそれは呪物じゃなくて遺留品ですからね。
ただ、そのベッドには後日談があって。ベッドを置いてる部屋に遊びに来た知人が、そのベッドの上で夜寝ていたんですよ。そしたら、金縛りにあって、白いジャージっぽい服を着たおじいさんが立っているのを見たらしくて。
そのベッドの本来の持ち主は、白いジャージを愛用していたおじいさんらしいんですよね。
撮影=山元茂樹/文藝春秋
〈 タイで身体にタトゥーを彫られ、体内に「3本の針」を入れられて…「めちゃくちゃ痛かった」呪物コレクターが明かす、“呪術大国”でのヤバすぎる体験 〉へ続く
(仲 奈々)
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