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「子供ができないことをいつも父に責められて…」傷つきやすい男性が“美しいトランス女性ダンサー”に惹かれたことで生まれた悲劇

文春オンライン / 2024年10月18日 7時0分

「子供ができないことをいつも父に責められて…」傷つきやすい男性が“美しいトランス女性ダンサー”に惹かれたことで生まれた悲劇

©2022 Joyland LLC

 パキスタンの大都市ラホールで、父親と兄一家、妻ムムターズ(ラスティ・ファルーク)と暮らすハイダル(アリ・ジュネージョー)。失業中で子供ができないことをいつも父から責められている彼は、友人に勧められるまま、トランス女性のダンサー、ビバ(アリーナ・ハーン)のバックダンサーとして働き始める。美しいビバにハイダルは惹かれるが、それが悲劇を生むことに。米アカデミー賞国際長編映画賞のパキスタン代表に選ばれた『ジョイランド わたしの願い』は、未だ根深く残る古い慣習や価値観に翻弄される人々を描いたドラマ。監督は本作が長編デビューとなるサーイム・サーディク。

「大学卒業後、コロンビア大の大学院で映画を学ぶなかで物語の構想が生まれました。まずは劇場で働くトランス女性のダンサーを主人公にした短編を作り、30歳で本作の製作に取り掛かりました」

 父からの評価を恐れ本当の気持ちを隠すハイダルに対し、彼の周囲にいる女性たちは、自分の欲望をしっかりと口にする人物として描かれる。特に、自身もトランスジェンダーを公言しダンサー兼女優として活躍するハーン演じるビバの勇敢さには圧倒される。

「構想段階から、私はビバや、ハイダルの妻ムムターズといった女性たちに魅了され、深い愛情を注いできました。一方男性の登場人物には中々共感できなかった。特にハイダルは、私自身の傷つきやすさや脆弱さが強く反映されたキャラクターですから、彼が取る行動にはときに強い抵抗を感じました。今思うと、構想から製作までに時間がかかったことで、彼に対する想いが変化したのかもしれません。社会に対する怒りや葛藤から生まれた物語ですが、時間と共に私自身も成長し他者への共感力が増していった。結果的に、当初考えていたより優しい映画になった気がします」

 男性優位の社会で苦しむのは一部の男性たちも同じ。背景にあるのは家父長制だ。

「ラホールは私が生まれ育った街で、撮影に使った家をはじめ100年以上も前に建てられた古い家や街並みが多く残る美しい場所ですが、建築物と同じように家族間の道徳観や考え方が古い形のまま残されているのも事実です。大抵は大家族で暮らし、権限を持つのは男性たち。女性は男が決めたシステムに従うしかない」

 家父長制の悲惨さを描きながらも、映画は、人々が体験する幸福な瞬間も記録する。

「悲劇から逃れられないからこそ、その人が最も喜びを得た瞬間を描きたかったのです」

 古い価値観を批判し性的マイノリティの人々の存在を活写した本作は、パキスタン政府により一時上映禁止令が出されたが、抗議活動の末、無事に上映にこぎつけた。

「上映禁止をめぐる騒動は本当に奇妙な出来事でした。今後も何らかの制約を受ける可能性はありますが、自分が描きたい物語があるかぎりは、ここをベースに映画をつくっていくつもりです。深い愛情を持って国の行方を見守っていますし、それは家族のあり方についても同様です」

Saim Sadiq/パキスタンのラホール出身。コロンビア大学大学院で映画作りを学ぶ。2019年にアリーナ・ハーンを主演にした短編『DARLING』を発表し数々の国際映画祭で受賞する。『ジョイランド わたしの願い』はカンヌ国際映画祭クィア・パルム賞を受賞した。

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映画『ジョイランド わたしの願い』​
10月18日公開
https://www.joyland-jp.com/

(月永 理絵/週刊文春 2024年10月24日号)

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