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拘置所で3度の自殺未遂…“奇行を止めない殺人犯の女(31)”を裁判所が「詐病」と看破できたワケ(2007年の事件)

文春オンライン / 2024年10月20日 17時30分

拘置所で3度の自殺未遂…“奇行を止めない殺人犯の女(31)”を裁判所が「詐病」と看破できたワケ(2007年の事件)

写真はイメージ ©getty

〈 「彼が天国に行くための儀式です」遺体のまわりにはなぜか中華料理…捜査関係者も困った“元夫を殺害した31歳女”の奇行(2007年の事件) 〉から続く

 拘置所のなかでは3度も自殺未遂…言動の数々が支離滅裂で、捜査関係者を困らせた31歳女性。元夫を殺害した罪を問われていた彼女を、裁判所が「詐病」と見破れた理由とは? ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『 実録 女の性犯罪事件簿 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なお本書の登場人物はすべて仮名であり、情報は初出誌掲載当時のものである。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

2人の出会い

 祥子と孝一さんは事件の8カ月前、2人が入院していた病院で知り合った。共通の知人の女性がいて話をするようになり、病室のベッドでこっそり肉体関係まで持った。

 看護師や医師の目を盗んで逢瀬を重ね、「パンツを脱いだらすぐ合体」というセックスに病みつきになった。2人は退院すると、すぐ祥子の実家で同棲生活に入った。

 当時、孝一さんは離婚したばかりで、仕事を失った状態だった。同居の祥子の父親は孝一さんとの交際に反対していたが、5カ月後には結婚。のちに事件現場となるアパートで同居を始めたのだ。

 しかし、孝一さんには肉体関係のある女性が多数いた。「私のことだけ考えてほしい」という祥子の願望とはズレがあり、新婚早々、孝一さんに送られてくるメールの内容をめぐってケンカが絶えなくなった。

「何よ、この『今度キスするときは納豆を口に含んでクチャクチャしようね』ってのは。この人は誰なのよ!」

 問い詰められて孝一さんは、もともと祥子を紹介してくれた知人の女性とも肉体関係があったことを告白。それが原因でギクシャクし、わずか2カ月後には離婚した。

 実家に戻ってきた祥子を父親は歓迎したが、それは祥子にとって孝一さんの気を引く方便でしかなかった。後日、孝一さんが泣き落としの電話をかけてくると、祥子は「待ってました」とばかりに同居を再開。数日後には籍を入れ直した。

 ところが、その2週間後には近所の中華料理店の女性店員と親しげにしゃべっていたという理由でまた離婚。「彼にやきもちを焼かせたい」という理由で、出会い系サイトで知り合った男と肉体関係を持ち、その写真をメールで送り付けて、「もうお互いに浮気はしない」と約束させた。

 周囲はこんな2人のママごとのような結婚生活に振り回され、「もういい加減にしろ!」とサジを投げた。それから間もない頃に孝一さんが突然、殺害される事件が起こったのだ。

殺害の理由

 事件当日、例によって孝一さんの女性関係をめぐって口論になった祥子は、「お前とはもう、体の関係だけでいい」と突き放された。さらに「これ以上太ったら、浮気するぞ」と言われ、不安になった。

 その夜、孝一さんと添い寝しながら寝顔を見ていて、祥子は「こんな苦しみを味わうぐらいなら、ここでハッピーエンドを迎えた方がいい」と突然思い立ち、いきなり包丁を孝一さんの腹に突き立てたのだ。内臓が見えると、興奮してさらに何度も刺したという。

 孝一さんは「祥子…」と言い残して絶命。それを見て、「最後まで私のことを考えていてくれたんだ」と思うと、うっとりした気持ちになった。祥子は“あの世で幸せに暮らす儀式”を施し、自分も自殺しようとしたが、死に切れなかったので、2日後には自首することにしたというのである。

「すると、あなたは殺意を持って、被害者の腹部に包丁を突き立てたんだな」

「はい、2人とも病気だったので、あの世で一緒になることが幸せだと思いました。殺してあげるのが一番いいと思いました」

 こうして祥子は殺人罪で起訴された。ところが、祥子は公判が始まると、「彼に『殺してくれ』と頼まれたから刺した。調書はデッチ上げられた」と主張。弁護士も打ち合わせになく、「公判を延期してほしい」と申請した。

拘置所の中で3度も自殺未遂

 その後、祥子の奇行はますますひどくなり、「孝ちゃんの霊が来た」と言って拘置所の壁に延々と話しかけたり、「欲求不満で我慢できない」と言って差し入れられた本の角を使って延々と自慰行為をしたり、「私の病気は治る見込みがない」と言って3度も自殺未遂を図るなどした。祥子は再び、精神鑑定にかけられることになった。

 しかし、これで事件の真相が暴かれることになった。専門医による鑑定で、祥子は精神病ではなく、「罪を軽減したいがための詐病」と断定されたのだ。

「被告人が主張する社会恐怖は、国際基準による妄想の定義には当てはまらない。性的パートナーの性的貞節を正当な理由なく疑うという妄想性パーソナリティ障害にも当てはまらない。被害者が被告人の名前を叫んで絶命し、被告人のことを考えてくれていると思い、うっとりした舞い上がる気分から、被害者との絆を保持したいと考え、自殺を企図した。被告人は情緒不安定性パーソナリティ障害であったと認められる。つまり、犯行においては人格が影響しており、精神面は影響していない」

 つまり、祥子の話はすべて作り話だったということだ。1年ぶりに開かれた公判で、祥子は初めて遺族に謝罪した。精神疾患を装っていたことについては、「父や妹に肩身の狭い思いをさせたくなかった。心中と言えば、心理的負担が軽くなるかと思い、ウソをついていました」と述べた。ホラー関連の話はすべて後から考えたという。

裁判所が言い渡した刑罰は…

「生まれ変わっても、もう一度孝一さんと結婚したい。今まで付き合った人の中で、自分の病気をこれほど心配してくれた人はいませんでした。お互いに寂しがり屋だったので、一緒にいるだけで幸せでした。とにかく私が一番愛した人でした」

 裁判所は懲役11年を言い渡した。自分を弱者に見せかけるのも、したたかなサイコパスの特徴かもしれない。

(諸岡 宏樹/Webオリジナル(外部転載))

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