「ビートルズの再来」オアシス伝説のライヴを完全ノーカットで堪能!これこそロックショーだ! 【『オアシス:ライヴ・アット・ネブワース 1996.8.10』】
文春オンライン / 2024年10月20日 6時0分
『オアシス:ライブ・アット・ネブワース 1996.8.10』©Big Brother Recordings LTD
1996年8月、人気絶頂期のオアシスがロンドン郊外で行った伝説のライヴをノーカットで収録。まさにライヴを追体験できる映画がやってきた。来夏15年ぶりの再結成も話題のオアシス。そのファンでなくても大興奮、と洋楽ファンのジャーナリスト・相澤冬樹も太鼓判!
◆◆◆
オアシスファンでなくても楽しめる最高の映画
お前らノリが足りないぜ。こっちだってシラケちまうだろ。観客が盛り上がってこそ、プレイにも気合いが入るってもんさ。
この映画はオアシスファンにはたまらない。ノエルとリアムのギャラガー兄弟を中心にしたイギリスを代表するロックバンド。セカンドアルバム『モーニング・グローリー』の世界的大ヒットでスターダムにのし上がった人気絶頂期の1996年8月、英史上最大規模の野外ライヴをロンドン北郊のネブワースで行った。その初日、1時間50分にわたるステージを、オープニングからアンコールまで完全ノーカットで丸々伝える。「リヴ・フォーエヴァー」「ワンダーウォール」「ホワットエヴァー」といったヒット曲がこれでもかと繰り出される。インタビューとか解説とか、そういう余計なものは一切ない。それもそのはず。これはブルーレイに収録されたフルライヴの1日目を日本独自で劇場公開用に処理したものなのだ。本国イギリスをはじめ海外では公開予定がない。大好きなオアシスのあるがままの姿を大スクリーンで楽しみたいファンには最高の映画だろう。
じゃあ、ファン以外の人にとっては面白くない? それが違うんだなあ。ファンじゃなくても楽しめる。たとえばこの僕。オアシスがブレイクした1995年、僕が何をしていたかといえば、NHK神戸放送局で兵庫県警担当記者だった。1月17日に起きた阪神・淡路大震災。6434人が犠牲になった大災害の取材が仕事のすべてになった。高校生でローリング・ストーンズにはまってからずっとロックを愛してきた僕も、この頃は音楽を楽しむ生活から遠ざかっていた。だからオアシスの曲をあまり聴いていないし、思い入れもない。映画を観ても知ってる曲は限られる。それでも……いいんですよ。
隠れた主役は観客だ
何がいいかって? 例えば冒頭、ライヴ開始前のステージに向かって両手を上げて拍手を送る大群衆をカメラは捉える。誰もがショーの始まりを待ち望んでいる。その期待が観ているこちらにも伝わる。ライヴ開始へのカウントダウンがステージに表示されただけで、みんなもう大騒ぎ。声を合わせて「5、4、3、2、1」。そしてメンバーの登場で熱気は一気に最高潮に。兄、ノエルがギターの音を響かせると、弟のボーカル、リアムが「ネブワース、いくぞ!」の掛け声とともに最初の曲に入っていく。リアムの背中越しに、リズムに合わせて頭上で手をたたく大観衆の姿が映る。これだよね。これがロックショーだよ。この曲を僕は知らないが、それでもライヴに興奮する観客の姿に興奮する。
この映画の隠れた主役は観客なんだと思う。ロックスターはカリスマだけど、彼らをカリスマたらしめているのは観客、ファンたちなんだ。スターに熱狂する観客がいなくちゃライヴは盛り上がらない。コロナの時代には「無観客興行」というのがあったけど「無観客ライヴ」なんてありえないでしょ。それを意識してか、カメラは頻繁に客席を捉える。会場を埋め尽くす12万5000人が一斉に手拍子を送る、縦ノリする、踊る、飛び跳ねる、声を合わせて歌う。代表曲「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」ではノエルの歌声に合わせて客席の女性たちが一緒に歌う姿が大写しになる。ライバルバンド、ブラーとのシングル同日発売が話題になった「ロール・ウィズ・イット」では、リアムがギタースタンドを客席に投げ込み興奮をあおる。
観客はライヴに酔い、リアムは酒に酔う
その姿を見てふと、子どものころ大好きだったテレビ番組『8時だョ!全員集合』を思い出した。ドリフターズのリーダー、いかりや長介が冒頭、ステージで大きく指を差し出し「8時だョ!」と声をかけると、客席から一斉に「全員集合!」と声が返り、オープニングテーマ曲に入っていく。観客が応えてくれなきゃ番組が始まらない。やはりカリスマは観客が作るんだ。オアシスもそこを意識しているのか、特に出足でしきりと聴衆をけしかける。
「盛り上がってるか?」
「後ろの奴らも騒げ」
「前の曲ではみんな怠けてたな。次はちゃんと踊れ」
俺たちがいくらノリノリでプレイしたって、客席が盛り上がらなきゃ意味ないじゃん。そんな感覚があるのだろう。リアムはステージで黒ビール片手にこんなことも言う。
「俺もお前らも酔ってる。だからこんな感じでいこうぜ」(左腕を波打つように揺すりながら)
観客はライヴに酔っているが、リアムは酒に酔っている。これまたロックな光景だ。両手を後ろ手に回し、がに股で歌うリアムの姿はまるでお年寄みたいだが、この時23歳だ。そしてノエルは29歳。「ザ・マスタープラン」という曲を前に語る。
「若さについての曲だ。今日は若いお前らが歴史を作るんだ」
この日のライヴでオアシスは“歴史”になったと評される。だけど本当の歴史は若い観客たちが作るんじゃないか。そんな風に感じさせる。
アンコールの曲に納得
オアシスは「ビートルズの再来」と称賛される。ギャラガー兄弟は同じ労働者階級出身のビートルズをリスペクトしている。ビートルズのデビューが1962年。それから30年余りの1994年にオアシスがデビュー。30年で一つの世代が巡り、流行も巡ると言われる。さらに30年がたって今年、オアシスは再結成され、この映画が公開された。来年は再結成ツアーも行われるという。これも何かの巡り合わせだろうか。
だからアンコールの選曲には納得だ。そうだよね。最後は彼らの曲を歌うよね。ライヴがすべて終わってステージを立ち去り際にリアムは叫ぶ。
「ジョンに拍手を!」
そうだ、君はジョンになりきっていたよ。丸メガネをかけてビートルズの曲を歌う姿が、僕にはジョン・レノンに見えた。
『オアシス:ライヴ・アット・ネブワース 1996.8.10』
監督:ディック・カラザース/2021年/イギリス/約110分/配給:カルチャビル/© Big Brother Recordings Ltd/公開中
(相澤 冬樹/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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