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タワマンが立ち並ぶ豊洲に突如現れる“地面に埋め込まれたレール”の正体は? 周囲には赤く錆びた鉄橋、茂みの中から貨物鉄道の痕跡が...

文春オンライン / 2024年10月21日 6時10分

タワマンが立ち並ぶ豊洲に突如現れる“地面に埋め込まれたレール”の正体は? 周囲には赤く錆びた鉄橋、茂みの中から貨物鉄道の痕跡が...

豊洲の街並み

 見上げるようなタワマン群が屹立する東京の湾岸、豊洲と晴海。子育て世代にも人気が高い豊洲・晴海エリアだが、かつてその付近には火力発電所や東京ガスの工場が立ち並び、両エリアは東京のエネルギー基地という「別の顔」を持っていた。

 そして、その建物の合間を縫うようにかつてはレールが敷かれ、産業鉄道として高度経済成長期の東京の輸送を支えていた。現在は、目新しいショッピングモールやタワマンなどが立ち並ぶ両エリアで、埋もれた鉄路の跡と“倉庫街の豊洲・晴海”の面影を探しにいく。(全2回の1回目/ 続きを読む )

◆◆◆

日本で初めてのコンビニエンスストアができた東京・豊洲

 2024年は、日本におけるコンビニ誕生から50年の節目だという。1974年、日本で初めてのコンビニエンスストアは、東京・豊洲にできたセブン-イレブン。それを足がかりに、セブン-イレブンはわずか2年で100店舗にまで拡大。あっという間に日本はコンビニ大国になった。いまも、セブン-イレブン1号店は豊洲の町中で営業を続けている。

 そのセブン-イレブン1号店を取り囲む豊洲の町は、とてつもない町だ。

 地下鉄有楽町線の豊洲駅で降りて地上に出ると、圧迫感があるほどの高層ビル群に見下ろされる。豊洲の交差点から南西に歩いてゆけばららぽーと。

人口減少時代に3つの小学校が

 豊洲公園を横目にゆりかもめの高架下を南西に進んでいけば、豊洲市場もそう遠くない。ゆりかもめは、豊洲市場の間を抜けて有明、そしてお台場へと、東京湾岸の埋立地をぐるりと走ってゆく。

 豊洲の高層ビル群は、マンションであったりオフィスであったり、その性質はさまざまだ。「豊洲」と名乗る地域には、区立の小学校が3つもあるという。そのうち2つまでが2000年以降に開校した。最も新しい豊洲西小学校の開校は2015年だ。人口減少時代もなんのその。

 ベッドタウンにしてオフィス街、そして繁華街としての側面も持つ豊洲は、いまも成長を続けている。行き交う人々も、なんとなく品が良さそうに見えてくるから不思議なものだ。

 そんな豊洲は、運河を挟んでほかの埋立地とも結ばれている。南側には東雲や有明、その先にはお台場。西には晴海があって、その北側には月島・勝どきがある。何本もの橋がそれぞれを結び、一体となって東京湾岸エリアを形成する。歩いて橋を渡っている人は少ないが、どこもクルマ通りは絶えない。このあたりからも、令和の東京を象徴するエリアなのだろうと思わせる。

春海橋に並ぶ古びた鉄橋「晴海橋梁」

 そして、晴海と豊洲を結ぶ春海橋である。

 この橋そのものは、取り立てて特別な橋ではない。見逃してはならないのは、春海橋のすぐ脇に並んで架かっている、古びた鉄橋だ。実に都会的で真新しい高層ビルが向こうにもこちらにも建ち並ぶ豊洲と晴海。その町並みとはいかにも不釣り合いな、古めかしくもいささか殺伐とした雰囲気すらたたえている。

 少なくとも、膾炙している豊洲や晴海の町のイメージからすれば、まるで異物のような違和感を放つ。

 橋の名は、晴海橋梁という。いまは遊歩道として整備中なので橋の上がどのようになっているかはよくわからない。ただ、少し古い時代の写真を見れば、この橋がどんな役割を担っていたのかは一目でわかる。橋の上には、橋と同じくらい古びたレールが敷かれている。晴海橋梁は、かつての東京都港湾局専用線の廃線跡なのである。

 東京都港湾局専用線はその名の通り東京の港湾部、豊洲や晴海といった湾岸エリアを走っていた鉄道路線だ。いまの豊洲や晴海の有り様を見れば、お客を乗せて走っていれば便利になりそうな気もするが、専用線というからには貨物線。

 深川線・晴海線・芝浦線・日の出線などいくつもの路線を持ち、全盛期には24kmほどの線路を延ばしていたという。豊洲も晴海も、いまとは似ても似つかぬ工業地帯だった頃のお話である。

新しい埋め立て地にやってきた「東京石川島造船所」

 せっかく、晴海橋梁という工業地帯の残滓を見つけたのだから、もう少し専用線の廃線跡を探索してみたい。すっかりビル群に生まれ変わってしまった豊洲や晴海にだって、いくらかの痕跡は残っているはずだ。まずは、古い地図と見比べながら、豊洲の町中を歩く。

 豊洲は、大正時代の終わり頃から昭和の初めにかけて生まれた埋立地だ。なんでも、関東大震災の瓦礫を用いて埋め立てたという。最初に新しい埋立地にやってきたのは、もちろんタワーマンションではなくて、東京石川島造船所。

 隅田川河口、佃島の北端の工場からはじまる石川島造船所は、1939年に新開地・豊洲に進出した。のちに石川島播磨重工業となり、現在はIHI。世界に冠たる重工業の最大手だ。

 石川島造船所は、豊洲に近代的な工場と働く社員のための社宅などを建設した。それが、豊洲の町としてのはじまりだ。豊洲の造船工場はその後も長くこの地にあり続け、閉鎖されたのは2002年になってから。そこから再開発が進んでいまの巨大なビル群に生まれ変わったのだから、開発のスピードはなかなかのものがある。

 ともあれ、そんな造船所の真ん中を専用線は横切って走っていた。国鉄の越中島駅(現在の越中島貨物駅)から伸びてきて、運河を渡って豊洲の町へ。その廃線跡は、マンションや道路によって分断されながらも、意外に多く残っている。

草むす空き地・運河の真ん中にポツンと残されたものが...

「都有地」の看板とフェンスの向こう側、草むす空き地も目をこらすと古いレールが敷かれている。一部はいかにも廃線跡といった趣を残したまま駐車場になっているところもあった。

 空き地は結構なスペースがあるから、売り払ってマンションにでもしたら結構なお金になりそうだが、どうなのだろうか。

 そのまま豊洲運河を渡る地点までやってくると、ちょうど運河の真ん中にポツンと橋台だけが残されていた。橋桁は撤去されたが、河底にしっかり基礎を打って建てられた橋台はそのまま、ということなのだろう。そして、豊洲の町中だ。

 豊洲側はすっかり再開発によって工業地帯の面影は消え失せて、線路のあった痕跡を辿ることはほぼ不可能になっている。あちこちに港や船を思わせるオブジェがあって、かつて造船所だったことを偲ばせる仕掛けは点在しているが、専用線となるとすっかり歴史の彼方。

 そんな中、ほぼ唯一といっていい遺構が、マンションの間の路地を抜けた先、豊洲三丁目公園の手前に残っている。ここに、レールが地面に埋め込まれている一角がある。

 本線格で越中島方面から豊洲埠頭まで続いていた深川線が、晴海に向かう晴海線と分岐していたあたり。埋められたレールは北にカーブしているから、晴海線の線路なのだろう。

 このレールが、かつて専用線で使われていたレールそのものなのかどうかはわからない。マンションにお住まいの方か、それとも近くで働く人か、レールの上を歩く人は少なくない。それでも、彼らは足元のレールなぞに目もくれない。

 この場所が過去にどうであったかなど、いまを生きる人にとっては無関係、といったところか。廃線探索をしている人は、筆者の他には誰ひとりとしていなかった。

 豊洲には、明確に特定できる専用線廃線跡はほぼここだけだ。あとは完全なるビル群の中に埋没して消え失せた。豊洲公園のあたりでは物揚場線が東雲方面に分岐していたはずなのだが、それももちろん跡形もない。

かつての豊洲には、今とは全く違う光景が広がっていた

 昭和大学江東豊洲病院の裏側、東雲運河に面した一角にもかつては専用線が伸びていた。他とは少し違った武骨な岸壁は、当時の姿そのままなのだろうか。

 東電堀と呼ばれる岸壁前の溜まりの西側も、大きなマンションが建ち並ぶ。その奥に進めば豊洲市場という、これまた東京湾岸、ウォーターフロントを代表するエリアだ。

 ゆりかもめの高架をくぐって晴海を対岸に見る一帯は、ガスの科学館や公園が整備され、ランニングをしている人もいればのんびりくつろぐ外国人観光客の姿も。ガスの科学館には、社会科見学とおぼしき小学生の集団が出入りしている。

 豊洲市場、公園、マンション。しかし、この場所にもかつては専用線が伸びていた。ガスの科学館のあたりはちょうど石炭埠頭、豊洲から東電堀を挟んだ対岸のマンションはかつての火力発電所。豊洲市場にも、東京ガスの工場が広がっていた。豊洲は、東京のエネルギー基地という一面も持っていたのである。

 専用線はこのエネルギー基地にも伸びていて、モクモクと噴煙が上がるその脇で石炭やコークスといった燃料を運んだ。ザ・産業鉄道。いまの豊洲からはまったく想像も及ばない、そうした光景が広がっていた。

写真=鼠入昌史

 つづく後編記事『「ジュリアナ東京」はなぜ芝浦にあった? 巨大貨物列車の廃線跡が物語る晴海・芝浦エリアの“意外な一面”とは』では「晴海フラッグ」の造成など変化が著しい晴海・芝浦地区の今昔と廃線跡をたどっていく。

〈 「ジュリアナ東京」はなぜ芝浦にあった? 巨大貨物列車の廃線跡が物語る晴海・芝浦エリアの“意外な一面”とは 〉へ続く

(鼠入 昌史)

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