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億単位の投資をするときも《事業計画は一切見ない》ほうがいい“納得の理由”

文春オンライン / 2024年10月25日 6時0分

億単位の投資をするときも《事業計画は一切見ない》ほうがいい“納得の理由”

小西利行氏(左)と孫泰蔵氏(右) 撮影・細田忠(文藝春秋)

『 すごい思考ツール 』が話題の広告クリエイター・小西利行さんと、世界をまたにかける連続起業家の孫泰蔵さんがトークイベントを開催。盟友ふたりが本音で語り合った、壁を突破するチャレンジ精神とアイデアを生み出す真髄とは?

◆◆◆◆

小西 今日は世界中を飛び回っている孫泰蔵さんに、はるばる東京にお越しいただきました。

 到着がギリギリになってすみません! まだ息切れがしております(笑)。

小西 非常にお忙しいなかありがとうございます。泰蔵さんと対面でお話しするのはかれこれ4~5年ぶりですが、まず僕らの最初の接点をお話ししておきたいと思います。

 10年くらい前、僕がデビュー作『伝わっているか?』を書いたときに、泰蔵さんが、「すごく面白い」と言ってくださっているのをSNSで知って、「褒めてもらって嬉しい。一度会いたい!」ってつぶやいたら、同時に複数の方から「紹介しますよ」って連絡がきてお会いしたのが最初のきっかけでした。

 そうでしたね。

「言語化やビジョンの提示には何十億もの価値があるのに!」

小西 その後、いくつかのプロジェクトでお仕事をご一緒させて頂きましたが、じつは泰蔵さんのある言葉は僕の人生の転機になっているんです。

 6年くらい前、一緒にご飯を食べに行って、自分の仕事にそんなに価値を感じていないという話をしたことがありました。事業を興して会社を成長させている人や、何か具体的なモノやサービスを作っている人、それこそ農業をしている人たちは0から1を生み出しているのに、自分は「こうしたほうがいいんじゃないか」とアドバイスをしているに過ぎないと。

 その時、泰蔵さんに「本当にわかってないの?」「小西さんのやっている言語化やビジョンの提示は、起業家には何十億もの価値があることなのに!」って叱られて(笑)。そこから自分の仕事に少し自信が持てるようになったんですよ。

 それは確かに叱りますね(笑)。コニタン(小西さんの愛称)が、そんなに長いあいだ自信がなかったのは意外だったけれど。

小西 もともと僕はかなり出来の悪いスタートで、様々な人に会う中で学んできたタイプなので、もちろん商品が売れたり経営者の方と一緒にやった取り組みが成功してきたことはありましたが、自分で価値を生み出している実感があまりなかったんです。

 なるほど。実際、小西さんとご一緒したプロジェクトで、子どもたちのための自由な学びの場を運営するVIVITA(ヴィヴィータ)を立ち上げたさい、素晴らしい名前とコンセプトとタグラインを作ってくれました。その言葉で、現場のみんながキラーンと覚醒していく様を、僕は目の前で見ています。子どもたちが、自分たちでTシャツとか作って、「VIVITA最高」とか言っているんですが、これが違う名前や違うコンセプトだったら、こうはなっていなかった。

スキルを自分の中に血肉化できる一冊

 新著『 すごい思考ツール 』は、小西さんが新人の頃どんなコンプレックス抱えてやってきて、人生をどう歩いてきたのか、僕が知らないことも沢山書いてあって非常に面白かったです。これが綺麗に整理されたノウハウだけのまとめ本だったら、ここまで読者の心に響かないと思うんですね。

 これほどの苦悩を背景にクリエイティブは作り出されているんだと圧倒されつつ、親近感も感じながらスキルを自分の中に血肉化できるような最高の一冊でした。

小西 ありがとうございます。自分の仕事を総括したいと考えたこともあって、自分が壁にぶつかったときにどうジタバタしたか、師匠の小霜さんや様々な人からの学びを得てどう乗り越えたかなどを書いていったら、どんどんエッセイ的要素も強まって、ただのHow To本じゃなく、人生とスキルが融合した本になりました。

 ところで、泰蔵さんは壁にぶつかってジタバタされることってありますか?

 いつもジタバタしてるに決まってるじゃないですか(笑)。壁にぶつかるたびに本当に落ち込むんですけど、ある先輩から「壁にぶち当たっているってことは、チャレンジしているということ。逆に壁にぶち当たってないのはチャレンジしていないことだ」と言われて勇気づけられました。

大失敗した直後にぶつかった〈初期費用3000万〉の壁

小西 人生の中で最もチャレンジだったことって?

 たとえば、僕が27歳のころ、すごくやりたい事業があったんですが、事業で大失敗した直後でお金がスッカラカンだったんですね。その事業の実現には、当時はアマゾンのAWSみたいなデータセンターがありませんでしたから、自分でサーバーを買ってそこからサービスを提供しなければならず、その初期費用が3000万円ほどする状況でした。

 やりたいことは明確だし、中身のコンテンツもハッキリあるけれど、とにかくお金がない。失敗した直後で、銀行は貸してくれるはずもなく、当時は投資家から資金調達する概念もなく、さてどうしようかなと。

小西 それはすごい壁ですね!

 とりあえずサーバーさえあればなんとかなると思って、製造元のメーカーに交渉しに行ったんですね。「いずれ絶対に買うから、ちょっと使わせてくれませんか?」って(笑)。「そんな話が通るわけないじゃないですか」と笑って断られるんですが、そこで「1番の販売先はどこですか?」と訊いたら、大量にサーバーを買ってデータセンターを立ち上げようとしている国内の会社を教えてくれたんです。

 ただデータセンターといっても、今のアマゾンのAWSのように手軽にすぐサーバーが使えるサービスではなくて、例えるなら、何もないだだっ広いキャンプ場だけあって、必要なものは借りる人が自分たちで持ち込まないといけないのが当時の状況でした。

 だからその会社に行って、「あなたたちは今、土地だけしかないキャンプ場です。それだと道具を揃えられる人しか来ないでしょ? でもテントやバーベキューセットやトイレを全部用意したら、みんな一般企業が手ぶらでキャンプしにきますよ」と力説したんです。

アマゾンのAWSの先駆けとなったビジネス

小西 それって完全にもうアマゾンのAWS(Amazon Web Services)の概念じゃないですか。

 まさにその先駆けです。プレゼン相手の日本支社長もコンセプトに賛同してくれたので、「ぜひやってください。そしたら僕、真っ先に手ぶらで来ます」と伝えたら、「いや、これは本国の決済なので僕では無理です」という。でもどうしても諦めきれなくて、後日もう一度その方に「一緒に本社に行って説得しませんか」と口説いたんです。

 で、アメリカ本社に行って、「後発のあなた方が日本でシェアをとりたかったら絶対に手ぶらでこれるキャンプ場にする必要がある」と机をたたいてプレゼンしたら、「イエスというのに条件がある。君が日本の支社長をやることだ」と言われて急展開。そこで僕は、キャンプ場の運営をしたいわけじゃないので支社長は引き受けられないが、営業担当として顧客はガンガン連れてくると約束したんです。「僕が10億分引っ張ってくるから」と大見得を切って、壁を突破した(笑)。

 そうして、僕はお金をかけずにその会社のサーバーを使って新しいサービスをローンチでき、サーバー事業で大成功したその会社はアマゾンに買収されるというオチまでつきました。

小西 すごいなあ! AWSの原型は、泰蔵さんが作ったのかもしれないんだ…。

 いえいえ(笑)。

小西 それにしても泰蔵さんって、例え話とかうまいしストーリーテラーとして抜群ですけど、昔から仕事の話をするときに「答え」を求めないですよね。誰が相手でも「何がしたいんだ?」と問う。例えば「こういう美味しいお酒をつくりたいです」という起業家がいたら、「そもそも美味しいお酒をつくって何がやりたいの?」って問いかけていきますよね。「そもそも」を繰り返して、最終的に「お酒という形をつかって、世界のやり方を変えていく」ところまでマインドを引っ張り上げて、だったらこうすべきと提示する。

 この「そもそも思考」は私自身も本質をあぶり出すのによく使っている思考法ですが、これは「安易に答えを出そうとするな、むしろ問え」という精神ですよね。

思いっきりやらないと面白い失敗はできない

 そのマインドは、僕が山のように失敗してきて、なぜうまくいかないんだろうと自問する中で、「こんなに失敗して、俺は何をしたいんだっけ? そもそも何をしたかったんだ?」と切実に問い続けてきたからこそ生まれたのだと思います。失敗の数とバリエーションだけは、たぶん起業家の誰にも負けない自負があるから(笑)。

 常に心がけているのは、「やるときに失敗しないように」ではなく「こんな風に面白く失敗しちゃったんですよ、とネタになるようなコケ方をする」ということ。逆に、ネタにもならん失敗はしてはいけない、と。

小西 泰蔵さんに向けて事業のプレゼンをしていた人が「面白い失敗をしろ」って泰蔵さんに言われて、チンプンカンプンになっているシーンを何度も見てきました。「その話、全然面白くないわ」ってプレッシャーを与えて、相手がハッとする瞬間を待っている。

 よく若い起業家にもまわりにも、「面白くない失敗をしたら、許さん」って伝えています。思いっきりやらないと面白い失敗はできないし、「Start Fast, Fail Fast」の精神で「早く始めて、早く失敗する」スピード感が大事なんです。

 あと実は、初期段階でチャレンジせずに“失敗するチャンスを失う”ことのほうが怖くて、事業規模が大きくなってから気付いていない潜在的なリスクが大きく跳ね返ってくるほうが危険なんですね。

小西 なるほど。エンジェル投資家でもある泰蔵さんのところには、起業を志す若い人たちからの案件も数多く持ち込まれると思いますが、投資に対する判断基準はどこにあるんですか?

 面白く転びそうかどうか、ですね。

小西 最初からコケる前提!? 事業計画は見ないんですか?

 なにか本質的に新しいことにチャレンジする事業は、最初99%コケますよ。そのときに思いっきり面白くコケてくれそうな方を選んでいるし、億単位の投資の判断をするときも事業計画はまったく見ないです。

小西 えええ! 事業計画見ないの?

 はい。見ません(笑)。「面白く転べ」というのは、試行錯誤のダイナミックレンジをできるだけ大きくとれということ。事業計画は予測の範囲だけど、成功の鉱脈は最初から狭い範囲で探さずに、振り幅を大きくとったほうが見つかる確率が高いですからね。

 事業計画が活きるのは、事業のスキームがある程度確立して、単純にそれを再生産して数のスケールを大きくする段階です。たとえば飲食店なら成功するモデルをつくれたから、出店で規模を拡大しようとか、数を増やすことだけに専念したほうがいい時期。でも試行錯誤フェーズのときに計画を立てると、それに足を引っ張られて逆効果なんです。

 コニタンには分かってもらえると思うのですが、アイデアを試行錯誤しているときに、あれもしかしたらヒントになるかも、みたいなチカチカ!とシグナルのようなサインを感じるときってありますよね。

小西 すごくわかります。まだ何もカタチになってないんだけど、このあたりが鉱脈かもしれないと直感するような感覚というか。

 そのとき下手に計画があると、そのアイデアのチカチカを見落として、もっと良くなる大きな可能性を削いでしまうんですよね。計画から外れていること、予算と実績がどんどん離れていくことに焦ってしまって。

 旅だって、綿密にスケジュールなんか立てずに街をぶらぶらして、あっ、ここ面白そうというところに行ったほうがすごく面白い人に出会えたりしますからね。

小西 本当にそうで、僕が親しくさせて頂いている音楽評論家の吉見佑子さんなんて、一緒に街を歩いていると、パン屋でもないのにクロワッサンを売っている民家を見つけてふらっと入っていくんですね。「なんでこんなところでクロワッサン売っているの?」といつの間にか話が意気投合している。それが後に建築の世界で有名になる上林剛典さんだった(笑)。そうやって偶発的なチカチカに引っ張られていったほうが、絶対面白いものに出会えますよね。

 そうなんです。それってビジネスでも、「成功をゴール」にせずに、「自分の成長」をゴールにおいているからこそできる方法だと思う。

小西 それは微妙な言葉の違いですが、決定的に異なります。自分の成長をゴールに変えるとプロセスがまるで変わってきますよね。アイデアを生む真髄だと思います。

〈 「問えるのは欲望がある人間だけなんです」AI開発、シリコンバレーの最前線で今起きていること 〉へ続く

(小西 利行,孫 泰蔵/ライフスタイル出版)

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