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「問えるのは欲望がある人間だけなんです」AI開発、シリコンバレーの最前線で今起きていること

文春オンライン / 2024年10月25日 6時0分

「問えるのは欲望がある人間だけなんです」AI開発、シリコンバレーの最前線で今起きていること

小西利行氏(左)と孫泰蔵氏(右) 撮影・細田忠(文藝春秋)

〈 億単位の投資をするときも《事業計画は一切見ない》ほうがいい“納得の理由” 〉から続く

『 すごい思考ツール 』が話題の広告クリエイター・小西利行さんと、連続起業家の孫泰蔵さんの白熱のトークイベント。AI開発の最前線からいま最もビジネスに必要な力まで。

◆◆◆◆

シリコンバレーで顎が落ちそうになった

 先日、シリコンバレーに行ってAIの最前線を見て来たんですよ。本当にもう“ヤバい”ことになっていて、顎が落ちそうになりました。

小西 泰蔵さんがそこまでいうほどのものって何ですか!?

 大企業はいろんなシステムを複数持っていますよね。在庫管理システムとか、カスタマーサポートシステムとか、会計システムとか……そこに、あるAIを入れると基層にあるシステムを自分で一気にすべて学習するんです。そこで従業員の人たちが、社内の各端末から自社のChatGPTみたいなボックスに会社のことを聞いたら何でも答えてくれます。

 例えば、自分が営業で取引先から「注文の品が届いてない」と問い合わせがきたとしましょう。今までならロジスティックや、警備の人とかに聞いて回ったりするところが、そのボックスに聞けば、「ここで間違えて二重発注がかかったため、バグでロックがかかって発注が止まってました」みたいにシステム全体を把握するAIがピッと答えてくれる。さらに、「このようなミスは過去10年の中で3回ありました。直しますか?」「Yes」って言うと、エラーの原因になったプログラムをAIが自動的に書き換えるんですよ。

小西 驚異的な便利さですね!

「1人もレイオフ、解雇する必要はないんですよ」

 「あとひと月で在庫切れしそうな商品リストは?」とか、何を聞いても会社のことならなんでも答えてくれるんです。そして従業員が聞けば聞くほど、AIがドンドン動き出す。学習しただけでは止まっているけど、人が質問をすることで必要な処理をどんどん判断できるようになって自動化されていく。最終的にはAIによって会社の事務的な業務を完全に自動化できるという驚愕の技術でした。

 すでに某フォーチュン500企業で導入が進められていて、これは文字通り従業員の仕事を消滅させてしまう。さすがに俺も心配になってその会社に雇用のことを尋ねたら、「AIが仕事を代替するだけで利益は出るわけだから1人もレイオフ、解雇する必要はないんですよ」という。さらに「うちの社員たちは、会社のことを良く知っていて、業務全般も製品知識も豊富で、会社を愛している人たちです。こんな貴重な人たちにしょうもない日常業務なんてやらせている場合じゃない。この人たちには新しい製品を企画したり、これまであまり対応出来ていなかった顧客と密接な関係を結んだりして、新しい事業をつくるほうに活躍してもらうので、会社の価値が何倍にも上がるはずだ」と。

小西 なるほどね。これまでの事務的な作業は全部AIがやってくれるから、新しい企画や新規開発事業などに人員を全振りできるってことですね。非常に前向きなビジョンだと思いますし、そうなっていく時代には、自分が本当に好きなことを突き詰めて、クリエイティブな可能性を探ったほうが絶対にいいですよね。

人間は好きなことをしてないと「ヤバい」

小西 以前、孫泰蔵さんの本『冒険の書 AI時代のアンラーニング』の帯コピーを書かせてもらったことがあります。「なぜ学校に行かなければいけないのか?」「才能とはなにか?」など一つひとつの問いをめぐって主人公が探求し続けるストーリーはまさに、「智の旅」とでも言うべき傑作ですが、そこで僕がメインコピーにしたのが、「好きなことだけしてちゃダメですか?」でした。

 最初にコピーをもらったとき、「コニタン、これ分かるんだけど、そんなメインにするほどかなぁ」なんて返しましたよね(笑)。「もちろんいいに決まっているじゃん!」と。

小西 はい(笑)。でもこれが突き刺さる問だと思ったんですよね。さらに深く言えば、人間身の回りをみたときに「面白い」と思うことは沢山あっても、「心から好きになる」「これだけはやめられない」「自分でも作りたい」と思えるものやジャンルは少ないから、それこそを仕事にすべきだという思いがそこにはありました。AI時代こそ、好きで没頭できるもので戦ったほうがいい、と。

 確かに、実際に本が出たら、このフレーズが刺さって手に取ったという読者からのコメントや感想を沢山もらいました。AIの驚速の進化を踏まえると、むしろ人間は好きなことをしてないとヤバくないか?というのが僕の実感です。好きじゃないことやっても仕事で通用するわけがない。

 会社の経営的観点でいうと、業務の大半が自動化されてAIがやってくれるなら、劇的にコストが下がるはずです。すると利幅が大きくなるから「浮いた人」を解雇する必要はない。僕がその会社の経営者だったら、「あなたたちは絶対に解雇しないから、事業規模を2倍、3倍にしていこう。もっときめ細やかにお客さんごとにカスタマイズされた製品・サービスを全員で企画していこうよ」って呼びかけますね。

小西 現場の従業員はそこでの暗黙知を沢山持っていますが、企画に反映する場はなかなかないですよね。でも泰蔵さんがいうように全員が企画にコミットしたら、これまでになかった新しいタイプの商品が生まれそうです。

 働く側も、これまでと働き方や業態は変わるかもしれないけれど、自分が蓄積してきた経験値や好きなものの強みを活かすというマインドチェンジが必要になってくと思います。

「問い」をつくれるのは欲望をもつ人間だけ

 まさにそうで、あとAIではできないことが「問いをつくること」。生成AIがどういう原理で成り立っているかを勉強するとすぐにわかりますが、端的にいうとAIは人類が使ってきた言葉の集合知です。だからAIを別次元のミステリアスな存在に思う必要は全くなくて、AIに私たちが「知」を加えていけばもっともっと素敵な集合知が生まれます。ただしこの集合知は、自分から問いを立てることはできない。

 問いは、個人的なモチベーションや好奇心からしか生まれないからです。集合知は好奇心をもっていない。

小西 なるほどね!

 たとえばAIから「こけない階段をどうつくるか」という問いは生まれません。それは階段でこけて痛い思いをしたことのある人だけがなんとかしたいと思う欲望です。もちろん、問いを入力して、もっと細かい問いに分解してバリエーションをつくることはAIもできますが、起点となる問いはこの先どんなに進化しようが原理的にAIからは出てきません。問えるのは、欲望をもつ人間だけなんです。

「間違い」も含めて魅力的な問いを設定できるか?

小西 いまものすごく根源的な話が出ましたが、日本の教育システムは、あらかじめ問いが立てられていて、決められた正解に向かっていかに早いプロセスで解答するかばかりを訓練します。でも泰蔵さんの本にもありましたが、効率性を重視した近代の教育システムは、産業社会の台頭とともに出来てきた一つの方式に過ぎない。

 でもいまは、決まった問いと決まった正解を解く力よりも、「そもそもこの事業を通して本当にやりたいことってなに?」と前提を疑って新しい問いを立てる力や、正解のない世界で、自分なりの答えを出す力です。

 今まではAIがなかったから日本の教育システムでもよかったかもしれないけど、お決まりの問題とそこに対する正解に最短でたどりつく効率性で競っても、AIにはかなわないんです。むしろ「間違い」も含めて魅力的な問いを設定できるのが人間の強みだと思う。

 ひとつ面白い事例があって、知り合いに「注文を間違える料理店」というのをやっている方がいます。これは認知症状態の高齢者や若年性認知症の方がホールスタッフを務めるイベント型のレストランなんですが、ここではみんな認知症だから、オムライスを注文しても、コーヒーセットが出てきたりする(笑)。そういう間違いも含めて楽しんでくださいねと、「価値を逆転」させているコンセプトです。

 認知症の方々も社会的に包摂されるような優しい空間をつくりたいという思いから生まれた企画ですが、「間違った注文をしても楽しめるレストランってなんだろう?」というAIでは絶対に考えつかない発想がここにはあると思う。

小西 そのアイデアも素晴らしいし、常識的に考えたら「注文を間違える料理店」って、実現するのにものすごくハードルが高かったと思うんですよね。普通オーダーを間違えたら作り直しですから。

 絶対にいいと思うからこれを実現したいという、バカなくらいの情熱がないとこういう新しいアイデアは具現化できないと思う。やっばり好きであってこそ、壁を突破できますから。

 そうですよ。“間違っているけど面白い未来”って人間にしか作れない。そしてこれからは新しい問いをつくるアイデアの力がどんな職種・業種の人にも必要になってくると思います。

小西 新著『すごい思考ツール』には、どんな人にも使いやすい形で、アイデアを生みだすためのスキルを凝縮しましたが、AI時代にこそ、みんなでワクワクする人間的な未来をつくりたいですね。

 この本、小西さんの全部が詰まっていて、ビートルズでいうなら“ホワイト・アルバム”のような集大成ですよ!

小西 ありがとうございます。今日は非常にスリリングな話になり楽しかったです。

 こちらこそありがとうございました!

(小西 利行,孫 泰蔵/ライフスタイル出版)

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