イギリス人女性(21)は強姦された後、なぜバラバラに? 高級住宅街育ち、17歳のときの父親が死去、そして…「ルーシー・ブラックマン事件」犯人男が道を踏み外すまで(2000年の事件)
文春オンライン / 2024年10月25日 17時30分
英国人女性ルーシー・ブラックマンさん事件で準婦女暴行致死などの容疑で再逮捕され、東京地検に護送される織原城二被告を乗せたと思われる警視庁の車(写真:時事通信社)
神奈川県三浦市内の海岸にある洞窟で発見された彼女の遺体は、強姦のすえにバラバラに切断されていた…。2000年に起きた「ルーシー・ブラックマン事件」の犯人、織原城二。一代で財を築き上げた苦労人の父親のもとで育ちながら、彼はなぜ放蕩に走り、ついにはイギリス人女性のルーシー・ブラックマンさんを殺害したのか?
彼の人生を追うべく、生まれ育った故郷に足を運ぶと…。ノンフィクション作家の八木澤高明氏の新刊『 殺め家 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編を読む )
◆◆◆
「このあたりにいたって話を聞いたことがあるけど、はっきりわからんなぁ」
大阪環状線桃谷駅を下りて、30分ほどぶらついただろうか、私は織原城二の父親が暮らしていた土地を確認するため、在日朝鮮人が多く暮らす地区を歩いていた。小さな雑貨屋の主人は珍しいことを聞くなというような表情をして、そう言ったのだった。
2009年、焼肉店が多く建ち並ぶことで知られている鶴橋から近く、かつて猪飼野と呼ばれていたこの付近は、朝鮮半島の人々が豚を飼っていたことから、そう名付けられ、朝鮮半島との結びつきは古代から根強いものがある。織原の父親は、英国タイム誌や各週刊誌の報道により明らかになっているが、朝鮮半島の出身で屑鉄拾いから身を起こし、タクシー、パチンコ、不動産経営などで莫大な資産を築き、大阪の在日社会の中で誰もが知る人物となった。そして、彼が17歳の時に謎の死を遂げる。マネーロンダリングに絡んで殺害されたとの報道もあるが、真相は闇の中だ。
六本木のナイトクラブで働いていたルーシー・ブラックマンさんへの準強姦致死、死体遺棄、他にも9人の外国人女性への準強姦致死罪などで無期懲役の刑に服している織原は大学時代に日本人に帰化している。
ただ私は彼のルーツであり、父親が半島からやって来て、身ひとつで成功をおさめるため、正に血と汗を流しながら働いた原風景を見ておきたかった。
町の中には、ハングルも目につき、老人たちの中には、日本語を流暢に話せない人も少なくなかった。
在日朝鮮人の問題となると、どうしても強制連行や慰安婦問題など、政治的な視点で語られることが多い。
もちろん日本の占領政策が朝鮮半島に不幸をもたらしたのは言うまでもないが、どんな政府の下にも人それぞれのドラマがあり、日々の糧を得る為に生きていかなければならない。半島の人々の中には日本に行って、ひと旗上げようと考えた人も少なからずいたことだろう。戦後、大阪砲兵工廠に忍びこみ、鉄屑拾いをした人々の生き様を活き活きと描いた開高健の「日本三文オペラ」の中の一節。
「部落の朝鮮人家庭を知れば知るほどフクスケは彼らあるいは彼女らの勤勉さに舌を巻くのがつねであった。なんでも彼らの出身地の済州島は世界一の不毛の地なのだそうで、底の貧乏で鍛えられると、たとえばこのアパッチ部落のごときは極楽の蓮にのっかっているようなものだという見解であった」
おそらく織原の父親も日本人が驚くほどの勤勉さで財を成したのではなかったか、地区の中には、小説の舞台となった現在の大阪城公園にあたるアパッチ部落へと繋がる平野川が流れていた。平野川はかって蛇行していたのだが、主に済州島から来た朝鮮人労働者の護岸工事によって、今のような一直線の川となった。この水路のような川を織原の父親も眺めたことだろう。織原の父親を含めた半島人たちの生き様は、この川のようにまっすぐで単純なものではなかった。
犯人が育った高級住宅街へ足を運ぶと…
桃谷から大阪環状線で天王寺へ、そこから路面電車に乗ると、中学生まで織原被告が暮らした帝塚山の高級住宅街がある。小さな木造家屋が密集していた桃谷周辺とは趣が違う。この街で育った織原被告はあの平野川が流れる町を訪ね見たことがあったのだろうか。
実家の表札には織原被告が日本人に帰化する前の姓が掛けてあった。彼が日本人に帰化する時に母親が反対したといわれているが、表札はその事を物語っていた。週刊誌の報道によれば、小学校の卒業時の寄せ書きには、「家柄よりしつけが大事」と書き残している。出自に対する差別があったのだろう、その時の痛みが、日本国籍取得へと向かわせたのではないか。
中学卒業と同時に、織原被告は田園調布へと移り住む。親元を離れお手伝いさんと暮らしながら、慶応高校へと通った。
〈 21歳のイギリス人女性を性暴力しただけじゃない…父親の“莫大な遺産”によって狂った「ルーシー・ブラックマン事件」犯人の末路(2000年の事件) 〉へ続く
(八木澤 高明,高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))
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