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「私は正しく生きられてないかもしれないけど(笑)」黒木華が『八犬伝』を通して気づいた“俳優業の面白さ”

文春オンライン / 2024年11月1日 6時0分

「私は正しく生きられてないかもしれないけど(笑)」黒木華が『八犬伝』を通して気づいた“俳優業の面白さ”

 日本のファンタジー小説の原点とされる『南総里見八犬伝』は、滝沢(曲亭)馬琴が28年もの歳月をかけて完成させた。映画『 八犬伝 』は、その小説をスペクタクル満載で描く【虚】のパートと、稀代の戯作者の日常を紡ぐ【実】のパートを交錯させながら、馬琴の創作にかける執念に迫る。

 生み出した作品のごとく自らも正義を信じ、報われずとも正しく生きようとして苦悩する馬琴を演じるのが役所広司。馬琴を懸命に支え、奇跡を起こす義理の娘・お路を黒木華が演じる。馬琴に似て虚と実の狭間を生きる俳優ふたりに、自身の信じる正義について語ってもらった。

◆◆◆

俳優の仕事のおもしろさ

役所 虚の仕事ですからね、ぼくたちは。演じるうえでは正義と悪、両方に対する思いが必要です。でも悪が得をするようなストーリーでもやっぱり、観客の心に正義が残る作品にしたい。日常でなかなか正義をかざせないいち庶民でも、役を借りれば堂々と言葉を発することができる。それは俳優の仕事のおもしろさです。

黒木 そうですね、素の自分では絶対に言わないようなことを言えたりします。人生の実の部分が虚の演技に活きることもあるし、反対にまったく活きないことも。そこはすごくおもしろいところです。

日常における正しい行いも、正義

役所 ぼくだって正義だけで生きてるわけじゃなく、悪いこともしてきました。

黒木 えー、知りたい(笑)。

役所 それで反省した結果が、自分の演技に役立つことはたくさんあるんです(笑)。

黒木 正義とまでは言えなくても、横入りしないとかゴミをポイ捨てしないとか、そういう身近なことは考えます。絶対にやらないこと。

―まず日常における正しい行いから。それもやっぱり正義ですよね。

役所 子どもの頃は完璧な正義の味方が大好きだったんですけど、年を取るにつれ「ありえないよ」って世の中を斜めに見たりする。でもこの『八犬伝』の曽利(文彦)監督はまさに正義大好きな方。大人になると正義を真正面から表現するのは照れくさいんですけど、監督を見ているとそういうのを超えて堂々と語れる感じがします。

“壮大な虚構”の創作の価値とは?

―馬琴は正義を描きつつ壮大な虚構を作りましたが、その創作の価値とはどんなところにあるんでしょうか。

黒木 映画や舞台、本に影響を受けることで感情がさまざまに変化して、やはり想像力が豊かになります。人の気持ちを想像するってすごく大事なこと。コロナで仕事がなくなって家で過ごしたとき、さまざまな作品に触れてその思いを強くしました。人間の、少なくとも自分の人生に不可欠だなあって。

役所 司馬遼太郎さんが「他人の痛みを感じる心を育てれば、世界はよくなる」というようなことをおっしゃっています。正義ということを思っても、やはり心を育てる作品であることが世のため人のためになる。せめて作品を観終わったあとだけでも他人の痛みを感じる心が芽生える、そんな仕事をしたいと思っています。

その人物像なりの正義がある。

―悪役を演じた作品でも、結局は正義を問うこともあるんでしょうね。

役所 自分の出演作を語るのは難しいけれど、いち映画ファンとして観た作品で心が動くと、自分も同じ仕事で堂々と正義を表現しているんだと勇気が湧きます。

黒木 私は正しく生きられてないかもしれないけど(笑)、たぶんそれが人間。悪い役でもいい役でも、その人物像なりの正義がある。演じることで、さまざまな人生を疑似体験できるのが俳優業の面白いところです。

やくしょ・こうじ 1956年、長崎県生まれ。96年に『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で国内映画賞の主演男優賞を独占。 その後『SAYURI』(05年)、『バベル』(06年)などで国際的にも活躍の場を広げる。23年の『PERFECT DAYS』では第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞し、世界的に高い評価を得た。

 

くろき・はる 1990年、大阪府生まれ。10年にNODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』で本格的に役者デビュー。その後映画に進出し、『舟を編む』(13年)などを経て『小さいおうち』(14年)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。主な主演作に『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16年)、『日日是好日』(18年)などがある。

 

役所広司=ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリング:安野ともこ 衣装協力:Yohji Yamamoto POUR HOMME

黒木華=ヘアメイク:下永田亮樹 スタイリング:山本マナ 衣装協力:ザ・リラクス

INTRODUCTION

江戸時代の戯作文芸の代表作のひとつ『南総里見八犬伝』と、その作者・滝沢馬琴の生涯を描いた山田風太郎の『八犬伝』を実写化。『南総里見八犬伝』の物語をアクションとVFXを駆使して活写し、創作に身を捧げた馬琴の生涯を役所広司ら日本映画界を代表する実力派たちの共演で描く。立川談春、中村獅童らがキーパーソンで登場し、さらに土屋太鳳、栗山千明、河合優実なども顔を揃える。監督は『ピンポン』や『鋼の錬金術師』シリーズの曽利文彦。

 

STORY

江戸時代の人気作家・滝沢馬琴(役所広司)は、友人の絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に構想中の物語を語り始める。里見家の呪いを解くため8人の剣士が集結し、壮絶な戦いに挑む奇怪な物語だ。北斎をも魅了した『八犬伝』は人気を集め長期連載となるが、クライマックスを前に馬琴は失明してしまう。完成が絶望的な中、義理の娘・お路(黒木華)から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける。苦難の末『八犬伝』を完成させた馬琴が物語に込めた想いとは。

 

STAFF & CAST

監督・脚本:曽利文彦/原作:山田風太郎『八犬伝 上・下』 (角川文庫刊)/出演:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、渡邊圭祐、黒木華、寺島しのぶ/2024年/日本/149分/配給:キノフィルムズ/・2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

(渕 貴之/週刊文春CINEMA)

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