「あの時、どう見ても相手の方がウケていたけど…」KOC王者・ラブレターズが語った「審査員の好み」問題への本音
文春オンライン / 2024年10月26日 17時0分
塚本直毅(左)と、溜口佑太朗。2008年にはじまった「キングオブコント」をきっかけにコンビを組み、翌年正式に「ラブレターズ」を結成。今年、同大会で優勝を果たす ©杉山拓也/文藝春秋
〈 「優勝した後オードリー春日さんから意外なLINEが…」ラブレターズが明かす、キングオブコント17回目の挑戦の“裏側” 〉から続く
後に名作として語り継がれる『卒業式』も2011年キングオブコント当時の結果は7位。さらに2組によるタイマン形式だった2014年には「94対7」という衝撃的な記録を叩き出してしまったラブレターズ。折れそうになる彼らを救ったのは、現在キングオブコントで審査員を務める東京03飯塚の言葉だった――。
「決勝に行くたびに審査方法が変わっていた」と語るラブレターズは、いかにして「審査員の好み」を乗り越えたのか。(全3回の2回目/ はじめから読む )
“レゲエ校歌”が13年経って事実に…
――今年、夏の高校野球で和歌山南陵高校の校歌が話題になっていたんですが、ご存知ですか。
溜口佑太朗(以下、溜口) ああ。レゲエ校歌ですね。
――「キングオブコント2011」で披露し話題となった、ラブレターズの「西岡中学校」(コント『卒業式』)をモチーフにしてるんじゃないかという。
溜口 モチーフには絶対してないですよ(笑)。
塚本直毅(以下、塚本) モチーフではない、13年たって事実に変わっただけです(笑)。
溜口 そういう時代になったというだけでね。
――西岡中学校、ちょっと早すぎたのか……。
溜口 早すぎたというか、13年前はこんなことになるとは思わないですよ(笑)。
「西岡中学校」は飛び道具みたいなネタだった
――若者たちがラブレターズさんのことは知らなくても「西岡中学校」は知ってたりする。ああいう強いネタが最初に世に出てしまうと、そこに引っ張られるつらさもあったのではないかと。
塚本 あの頃はありました。僕らの中でもあれは飛び道具みたいなネタで。そもそも歌ネタなんか作ったことなかったんですよ。
溜口 かもめんたるのう大さんがライブのムチャブリで、それぞれのコンビにやったことないスタイルのネタを来月のライブで作ってもらいます、みたいな企画から生まれたんです。
塚本 で、われわれが歌ネタ。そこで無理やり作っただけのものがあそこまで行っちゃったので。
――自分たちのそもそものキャラとは違うものが出てしまった。
溜口 全然違います。その後も求められて歌ネタいくつか作りましたけど、やっぱふわっとしちゃうんですよ。鼠先輩の気持ちがすごい分かりました。
塚本 鼠先輩になるんだ、そうか(笑)。
溜口 鼠先輩あの後に何曲か出したけど、やっぱ当たるわけないじゃないですか。あんなスマッシュヒットの後に。
塚本 本当にあの時期は歌ネタのイメージが付いた状態でライブや番組に呼ばれて、普通のネタやったら「な、なに?」みたいな空気になるのがしんどかった。
溜口 メッチャいいネタ多かったのに、死んだネタも結構ありましたね。2、3年はそのジレンマを抱えた感じでした。
――今は「西岡中学校」をどう考えていますか。
塚本 今となっては、ほんと救われた一本です。われわれのことを広めてくれたネタですし、未だにいじってもらえる。今なら全力で歌えます(笑)。
溜口 ラブレターズの「幅」になってくれたよね。歌ネタもできるし、キャラコントや会話のネタもできるやつらだぞと。「五角形のバランスがいい」って評価してもらえる。
――「西岡中学校」は初めての決勝で披露され本当に話題になりましたが、あの年の結果は7位。今回特に「審査員の好み」という側面がフィーチャーされていたように思いますが、おふたりはそのことについてはどうお考えでしょうか。
「審査員の好み」で言ったら…
溜口 そんなのずっと昔からあると思いますよ。好みで言ったら、「キングオブコント2014」はタイマン形式*で、僕ら犬の心さんに「94対7」で負けてますからね。逆に「7人(入れてくれた人が)いるんかい!」っていう。
*「キングオブコント2014」は10組が1対1のタイマン形式でぶつかり、勝利した5組がファイナルステージに進んだ
塚本 7人は好んでいた(笑)。
溜口 誰が見ても犬の心さんがウケていた状態で7入るって、好みでしかない。
塚本 決勝進出した5回とも全部違う審査方法でしたので、身をもって知ってますが、「好み」に左右されるなんて当たり前に受け入れてますよ。参加者側としては、楽しく見てもらえたらいいってだけです。
万人ウケするなんて誰も思ってやってない
溜口 そのことで審査員を攻撃するっていうのは違うよね。みんなそんなつもりでやってない。万人ウケするなんて誰も思ってやってないと思いますよ。
塚本 だからあの大会が一番審査が大変だと思う。マジで種類が違うから。
溜口 好みで言ったら、今まで僕ら一回もハマってないですからね。
塚本 「いやいや、この順番で歌ネタは見たくなかったな」とか言われて、知らんし……みたいにはっきり思いましたし(笑)。
溜口 でも、それも好みだしな。
塚本 それは受け入れなきゃいけないことなので。
――万人に合わせようとするなら、「ジュビロ磐田」は出てこない。
塚本 そうですよ。本当に。もっと分かりやすくしなきゃいけないですよ。
溜口 レアル・マドリードでいいもんね。
塚本 でも、ジュビロがよかったんですよ、それが好みだから。
溜口 そこにようやく気付けたから優勝したのかもしれないね。
コンプライアンスの意識が変わってやれるネタは減った
――審査方法もですが、お笑い界のトレンドみたいなものにも大きな変化がありましたよね。例えば2011年の時に比べたらコンプライアンスの意識も明らかに変わっている。
塚本 やれるネタが減ってきているのは間違いなく事実ですね。今やったら怒られるネタも山ほどあります。でもその中でも、普遍的なものってちょっとだけあるじゃないですか。たとえば家族とか。くぐり抜けられるところを探しつつ……。
溜口 ドングリのネタもいつかできなくなるかもしれない。ひきこもりなんてテーマにしちゃいけないとか。
――ああ。
溜口 でもドングリのネタは「ひきこもり」っていうワードをいかに出さないようにやろうかという話をずっとしていたので。
塚本 言葉にはしてないですね。
溜口 言ったらアウトだし、そもそも冷めるしね。そういったワードをいかに出さずにネタを作るかというのは、塚本さんは考えてるかもしれない。
――「息子の声最近いつ聞いたの?」という夫婦の会話で「そうか、ずっと部屋にいるんだ」とわかる。
溜口 10年ぐらいずっとそれをやり続けてるので、状況説明をせずに会話だけで理解させるというのを審査員の方たちに評価していただけたんだと思います。
決勝ネタのタイトルが「光」だった理由
塚本 あの夫婦に「ひきこもり」っていうワードを出してほしくないところもあるじゃないですか。絶対に言わないだろうし。そういうご家庭だったら。
――もし自分の子どもがそうだとしたら、親としてはギリギリまで認めたくないと思います。
溜口 絶対希望を持ちながらみんな生活してますもんね、そこは。
――だからあのコントのタイトルは「光」なんですね……。
溜口 (笑)。
塚本 これ、タイトルは溜口さんが全部付けてくれるので。いいタイトルですよね(笑)。
溜口 こざかしいですよね(笑)。
――「ドングリ」でも「ひきこもり」でもなく「光」というところに、おふたりの今までの歩みもリンクしている気がしちゃうんですよ。
溜口 みんなすごいよく言ってくれるんですけど、そんなたいそうなものじゃなくて。
――違うんだ(笑)。
溜口 結局コントなので、最後までふざけたほうがいいなっていうところで。『ドングリ』だったらそのままで終わっちゃうので、ちょっと角度変えたタイトル付けて、もっとラブレターズのことを考えてもらおうっていう。
――昨今の考察ブームにも乗っている。
溜口 ただ「ネタ面白かったね」だけじゃなくて、「光? ちょっと待って、待って」っていう。ネットが沸いたなら狙いどおり(笑)。
塚本 そもそもこんな未来あると思わないですもんね(笑)。
溜口 うれしい。
――決勝の楽屋の雰囲気ってどんな感じだったんですか。
溜口 全然ピリピリ感はないです。直前までみんないじったり、いじられたりで。で、誰かが行くと「頑張って」みたいな感じ。とにかくみんなスベらずに帰ってくるっていうのがまず根っこにあるので。
塚本 それは決勝に出られなかった芸人のためにも。
溜口 われわれなんか特にスベるわけにはいかないじゃないですか。後輩たちの枠を奪ってるわけなので。
最下位になると「日本で一番面白くない人」に
――大会として「盛り上がったね!」で終わらせたい。
塚本 昔、決勝でわりかし辛い時代があったんですよ。
溜口 厳しい時代。
塚本 今考えたらすごい怖かったですけど。なんで決勝まで行って、誰がスベるんだろう、という視点で見なきゃいけないんだろうって。
溜口 最下位だとしても、全国10位だよ。すごいことなのに。
塚本 さらば(青春の光)さんもあったもんね。全く振るわない時。
溜口 日本で一番面白くない人みたいな言われ方もするんですよ。われわれも最下位取ってるからわかる。
塚本 94対7で犬の心さんにボロ負けした年も……。
溜口 なかなか立ち直れなかったですけど。
ボロ負けした日、東京03飯塚から言われたこと
塚本 あの時(東京)03の飯塚さんが、僕らもまだそこまで親しくなかったんですけど、終わってから初めてご飯に誘ってくれたんですよ。で、開口一番「1年間一生懸命頑張って決勝に出て、7点持って帰った気持ちってどう?」って聞かれて。
溜口 (笑)。
塚本 「ちょっと待ってくださいよ!」って。そのために呼んだの?この人、ってなって(笑)。「いや、本当に聞きたくてさ~」って笑いながら言ってた。
溜口 優しさだよね。あの言葉がなかったら、今年はなかったかもしれないからね。
――東京03さんの「コントだけで食べていく」というスタイルは、おふたりにとっても目指されるところですか。
塚本 そうですね。あのスタイルを貫いて、本当にコントだけで飯を食うことを実現した、そのストーリーはムチャクチャすごいことだと思います。
溜口 でも、あこがれすぎたら危ないぞっていうのも僕らは分かってるので……。だってあの人たちの努力ってとてつもないんですよ。それやる覚悟あるのか、って。
塚本 とんでもないから。
溜口 「テレビを捨てる勇気」ってなかなかないと思うんですよ。僕らは単独ライブをベースにしつつ、そこにまたちょっといろいろエッセンスを乗っけていきたいです。
やっぱり一緒にテレビに出たい
塚本 ウエストランドもそうですし、三四郎さんとか、モグライダーさん……一緒にライブをやってきた人たちが今テレビにいっぱい出てる状態なので、やっぱり一緒に出てみたい。ずっと言ってくれてたから「早くこっちに来てほしい」って。チャンピオンになってやっとそこに混ざれるんだったら混ざりたい。
溜口 「ライブだけしか出ません」みたいな、そんなこと僕らは言っていられないです。求めてくれるなら、いくらでも頑張らせてくださいという感じです。
――最近ではテレビと少し距離をとる芸人さんも、特に若手の方ですと少なくないですよね。
溜口 ああ、たまにライブだけでっていう子もいるけど、本当かなって思うことある。
塚本 確かにな。それかっこいいけども。
溜口 03さんとかバナナマンさんみたいになりたいとか、中途半端に言うなよって思うけどね。
塚本 「覚悟ある?」っていうのは聞いてみたいですよね。
溜口 だって、単独ライブやりながら次の単独のネタ作ってるんですよ、飯塚さん。
塚本 単独中にもファミレス行ってたって。とんでもないですよ。
溜口 コントの神様がファミレス行ってるんですよ。そんなのみんな真似できます(笑)?
撮影 杉山拓也/文藝春秋
〈 “小さくて気持ち悪い”と番組に呼ばれなかったことも…ラブレターズがキングオブコントで優勝して気づいたこと「僕らは体育会系が苦手なので…」 〉へ続く
(西澤 千央)
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